嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
三章 嘘の代償/三、積み重なる嘘と言えない本音【4】
* * *
十一月も半分が終わり、木々の色は黄色から赤へと移り変わっていく。
物寂しい気持ちになるのは、秋から冬へと変わりつつある気候のせいにしたい。
「最近、山重くんとはどうだ?」
昼休憩に呼び出された私は、父からの質問にため息を飲み込んだ。
山重さんの本音を知って以来、彼からの誘いはさりげなく断っている。
それが父の耳に入ったのか、ただ父が状況を知りたいだけなのか……。一瞬だけ悩んだけれど、父の表情が穏やかなことに気づいて後者だと悟った。
山重さんの本性を見てからは、どこかホッとした気持ちとともに彼への不信感も芽生えていた。
恋愛感情もない山重さんに対して、彼の本音を知っていながらも夫婦としてやっていけるのだろうか……と困惑し始め、それによって不信感も膨らんでいったのだ。
もう進んでいる話に対して、今さらこんなことを考えるのはただのわがままだとわかっている。
それでも、本当にこのままでいいのか……と考えたとき、やっぱり本心では嫌だと思っていることを痛感し、今は迷いだけが色濃く表れていた。
「本当にいい青年だろう。仕事熱心だし、茉莉花のこともよく褒めてたよ。茉莉花を大切に思ってくれてるようだ」
けれど、父は相変わらず山重さんとの結婚に乗り気なのは明白だった。
「茉莉花も楽しく食事をしてるそうじゃないか。食事だけじゃなく、一度どこかへ出かけてきたらいいんじゃないか。彼となら安心だ」
しかも、私の気持ちにはてんで気づかず、それどころか私が彼のことを気に入っていると思い込んでいる。
(……変なの)
父がお見合いをさせたのは、自分自身のためでもあるけれど、父なりに私の幸せも考えてくれているはず。
それなのに、父は私の気持ちに気づかないでいる。
だいたい、山重さんは私のことを大切に思ってなんかいない。
彼には身体を求め合うような相手がいて、重役の椅子を手に入れることを目論んでいるだけ。
父の行動のなにもかもが裏目に出ていることが、なんだかおかしくなってきた。
私の気持ちどころか山重さんの本性も見抜けない父のことが、心配でもあった。
彼が仁科を乗っ取る気だけはない感じだったのと、兄と姉がしっかりしていることが、不幸中の幸いのように思える。
「たまには茉莉花の方からも誘ってみなさい」
「……考えておきます」
曖昧に微笑んで社長室を後にし、ひとりきりになりたくて屋上に向かう。
風が冷たいせいか誰もいなくて、ようやくちゃんと呼吸ができた気がした。
今日も上司に気遣われ、同僚に冷ややかな視線を向けられる中、私は退社するのだろう。
(私、なんのためにここにいるのかな……)
虚しさでいっぱいになったとき、スマホが小さく震えた。
【二十時前に迎えに行く】
オミくんからのメッセージに一瞬喜んで、即座に苦笑が漏れる。
「また苦しくなるだけなのに嬉しいなんて……本当にどうしようもないよね」
吐いたため息が空中に白い靄を作り、すぐに消えた。
「オミくんのことが好き……大好き……」
彼の前では紡げない想いを零せば、なんだか泣きたくなる。
私の中には今日も言えない本音ばかりが募り、感情はがんじがらめになっていた。
十一月も半分が終わり、木々の色は黄色から赤へと移り変わっていく。
物寂しい気持ちになるのは、秋から冬へと変わりつつある気候のせいにしたい。
「最近、山重くんとはどうだ?」
昼休憩に呼び出された私は、父からの質問にため息を飲み込んだ。
山重さんの本音を知って以来、彼からの誘いはさりげなく断っている。
それが父の耳に入ったのか、ただ父が状況を知りたいだけなのか……。一瞬だけ悩んだけれど、父の表情が穏やかなことに気づいて後者だと悟った。
山重さんの本性を見てからは、どこかホッとした気持ちとともに彼への不信感も芽生えていた。
恋愛感情もない山重さんに対して、彼の本音を知っていながらも夫婦としてやっていけるのだろうか……と困惑し始め、それによって不信感も膨らんでいったのだ。
もう進んでいる話に対して、今さらこんなことを考えるのはただのわがままだとわかっている。
それでも、本当にこのままでいいのか……と考えたとき、やっぱり本心では嫌だと思っていることを痛感し、今は迷いだけが色濃く表れていた。
「本当にいい青年だろう。仕事熱心だし、茉莉花のこともよく褒めてたよ。茉莉花を大切に思ってくれてるようだ」
けれど、父は相変わらず山重さんとの結婚に乗り気なのは明白だった。
「茉莉花も楽しく食事をしてるそうじゃないか。食事だけじゃなく、一度どこかへ出かけてきたらいいんじゃないか。彼となら安心だ」
しかも、私の気持ちにはてんで気づかず、それどころか私が彼のことを気に入っていると思い込んでいる。
(……変なの)
父がお見合いをさせたのは、自分自身のためでもあるけれど、父なりに私の幸せも考えてくれているはず。
それなのに、父は私の気持ちに気づかないでいる。
だいたい、山重さんは私のことを大切に思ってなんかいない。
彼には身体を求め合うような相手がいて、重役の椅子を手に入れることを目論んでいるだけ。
父の行動のなにもかもが裏目に出ていることが、なんだかおかしくなってきた。
私の気持ちどころか山重さんの本性も見抜けない父のことが、心配でもあった。
彼が仁科を乗っ取る気だけはない感じだったのと、兄と姉がしっかりしていることが、不幸中の幸いのように思える。
「たまには茉莉花の方からも誘ってみなさい」
「……考えておきます」
曖昧に微笑んで社長室を後にし、ひとりきりになりたくて屋上に向かう。
風が冷たいせいか誰もいなくて、ようやくちゃんと呼吸ができた気がした。
今日も上司に気遣われ、同僚に冷ややかな視線を向けられる中、私は退社するのだろう。
(私、なんのためにここにいるのかな……)
虚しさでいっぱいになったとき、スマホが小さく震えた。
【二十時前に迎えに行く】
オミくんからのメッセージに一瞬喜んで、即座に苦笑が漏れる。
「また苦しくなるだけなのに嬉しいなんて……本当にどうしようもないよね」
吐いたため息が空中に白い靄を作り、すぐに消えた。
「オミくんのことが好き……大好き……」
彼の前では紡げない想いを零せば、なんだか泣きたくなる。
私の中には今日も言えない本音ばかりが募り、感情はがんじがらめになっていた。
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