嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
二章 絡みゆく想い/一、ふたりだけの秘密【1】
仕事が終わって帰宅すると、いつも通り父から電話がかかってきた。
辟易する気持ちとともに、父への罪悪感が色濃くなる。
先週の金曜日の夜、私はオミくんに抱かれた。
彼はきっと、納得も同意もしていなかった。
オミくんの戸惑いを感じながら強引に迫り、優しい彼に付け込んだ。
セグレートでオミくんを待っている間に父からかかってきた電話で、私は『友人と夜ご飯を食べに行く』と言った。
あんな風に父に嘘をついたことはなかったのに、あのときだけはなんとなく彼と会うことを言いたくなかった。
なにもできない私の、ささやかな反抗心だったのかもしれない。
オミくんの車の中で『教えて』と訴えたときには、彼が受け入れてくれるなんて思っていなかった。
泣き落とし、捨て身の勝負、背水の陣。
無我夢中で訴えた私は、たぶんそんな感じだった。
予想外だったのは、オミくんの反応。
彼は理性的な人だから、私のわがままなんて綺麗にたしなめると思っていた。
けれど、オミくんは私の願いを聞き入れてくれた。
冷たい言葉を吐きながらも、まるで慈しむように優しく丁寧に抱いてくれた。
初めては痛い……という知識があったのに痛みをあまり感じなかったのは、彼がそれだけ気遣ってくれたからなのかもしれない。
あの夜、抱かれたあとに眠った私は、オミくんの腕の中で目を覚ました。
それはまるで幸せな夢の中にいるようで、彼がずっと抱きしめてくれていたのだと思うと、泣きたくなるほど嬉しかった。
帰路ではあまり会話はなかったけれど、オミくんはいつも通りマンションの前まで送ってくれ、翌日には体調を気遣うメッセージまでくれた。
その上、週明けの今日には昼休憩の合間に会いに来てくれた。
マカロンは恐らく口実で、彼は私のことを気にしてくれていたに違いない。
縁を切られても仕方がないと思っていた。
もうセグレートでの逢瀬がなくなることを覚悟していた。
それなのに、オミくんは今までと同じように優しくて、本当に嬉しくて……。同時に、彼への恋情を消す術がますますわからなくなってしまった。
「オミくんは優しすぎるよ……」
幻滅されると思っていた。
もしかしたら、本当はとても呆れられているのかもしれない。
兄の友人という立場や、両親とも付き合いがあるから、ただ私を無下にできないだけ……ということだって充分にありえる。
そう考える一方で、思考はすぐに自分にとって都合のいい解釈に持っていこうとしてしまう。
「まだもう少しだけこのままでいてもいいのかな?」
お見合いをすれば、いくら妹のように可愛がってもらっているだけだったとしても、オミくんとはもう会わない方がいい。
タイムリミットは、せいぜい二か月程度。
彼が普段通りでいてくれたとしても、セグレートで会えるのは残り二回ほど。
それでも、許されるのならこのままでいさせてほしい。
そんなことを思う自身に自嘲交じりの笑みを零し、オミくんにもらったマカロンの箱を開けてみた。
長方形の箱の中には、カラフルなマカロンが綺麗に並んでいる。
色とりどりのスイーツは、まるでこれまでに私が抱いてきたオミくんへの感情のように鮮やかだった。
連絡をもらえると嬉しくて、会えるだけで幸せで。笑いかけてもらえるとドキドキして、けれど決して埋まらない距離に切なくなって。
彼に対する想いは複雑に混ざり合い、様々な感情を知って喜んだり落ち込んだりしながらも、どんどん色づいていった。
(私がもっと早く生まれてたら恋愛対象として見てくれた……? それとも、お姉ちゃんみたいだったら年齢差なんて関係なかった?)
心の中で呟いたあとで、首を横に振る。
ありもしないことを想像するのは、もう飽きるほど繰り返した。
そして、こんなことを考えてもなにも変わらないことはわかっている。
私は自分のことすら自分で決められないのに、ただ駄々をこねるように甘えているだけなのだ。
呆れ交じりのため息を呑み込み、レモン色のマカロンをひとつかじる。
シトロンの風味がするマカロンは、サクッとした食感の次に甘酸っぱい香りと味が口腔に広がり、頬が綻んだ。
オミくんはマカロンを買う姿も様になるんだろうな、と考えて笑ってしまう。
兄がおしゃれなパティスリーでこんな可愛いスイーツを選ぶ姿は想像できないけれど、彼なら違和感がない気がする。
「現代の王子様……だもんね」
オミくんが載っている経済誌を手に取り、インタビューの見出しを口にする。
その言葉がおかしくないのがなんだかおかしい。
現代の王子様なんて言われている彼に、抱いてほしいと懇願したなんて……。身の程知らずにも程がある。
けれど、甘やかで幸せなあの夜を、私は生涯忘れられないだろう。
辟易する気持ちとともに、父への罪悪感が色濃くなる。
先週の金曜日の夜、私はオミくんに抱かれた。
彼はきっと、納得も同意もしていなかった。
オミくんの戸惑いを感じながら強引に迫り、優しい彼に付け込んだ。
セグレートでオミくんを待っている間に父からかかってきた電話で、私は『友人と夜ご飯を食べに行く』と言った。
あんな風に父に嘘をついたことはなかったのに、あのときだけはなんとなく彼と会うことを言いたくなかった。
なにもできない私の、ささやかな反抗心だったのかもしれない。
オミくんの車の中で『教えて』と訴えたときには、彼が受け入れてくれるなんて思っていなかった。
泣き落とし、捨て身の勝負、背水の陣。
無我夢中で訴えた私は、たぶんそんな感じだった。
予想外だったのは、オミくんの反応。
彼は理性的な人だから、私のわがままなんて綺麗にたしなめると思っていた。
けれど、オミくんは私の願いを聞き入れてくれた。
冷たい言葉を吐きながらも、まるで慈しむように優しく丁寧に抱いてくれた。
初めては痛い……という知識があったのに痛みをあまり感じなかったのは、彼がそれだけ気遣ってくれたからなのかもしれない。
あの夜、抱かれたあとに眠った私は、オミくんの腕の中で目を覚ました。
それはまるで幸せな夢の中にいるようで、彼がずっと抱きしめてくれていたのだと思うと、泣きたくなるほど嬉しかった。
帰路ではあまり会話はなかったけれど、オミくんはいつも通りマンションの前まで送ってくれ、翌日には体調を気遣うメッセージまでくれた。
その上、週明けの今日には昼休憩の合間に会いに来てくれた。
マカロンは恐らく口実で、彼は私のことを気にしてくれていたに違いない。
縁を切られても仕方がないと思っていた。
もうセグレートでの逢瀬がなくなることを覚悟していた。
それなのに、オミくんは今までと同じように優しくて、本当に嬉しくて……。同時に、彼への恋情を消す術がますますわからなくなってしまった。
「オミくんは優しすぎるよ……」
幻滅されると思っていた。
もしかしたら、本当はとても呆れられているのかもしれない。
兄の友人という立場や、両親とも付き合いがあるから、ただ私を無下にできないだけ……ということだって充分にありえる。
そう考える一方で、思考はすぐに自分にとって都合のいい解釈に持っていこうとしてしまう。
「まだもう少しだけこのままでいてもいいのかな?」
お見合いをすれば、いくら妹のように可愛がってもらっているだけだったとしても、オミくんとはもう会わない方がいい。
タイムリミットは、せいぜい二か月程度。
彼が普段通りでいてくれたとしても、セグレートで会えるのは残り二回ほど。
それでも、許されるのならこのままでいさせてほしい。
そんなことを思う自身に自嘲交じりの笑みを零し、オミくんにもらったマカロンの箱を開けてみた。
長方形の箱の中には、カラフルなマカロンが綺麗に並んでいる。
色とりどりのスイーツは、まるでこれまでに私が抱いてきたオミくんへの感情のように鮮やかだった。
連絡をもらえると嬉しくて、会えるだけで幸せで。笑いかけてもらえるとドキドキして、けれど決して埋まらない距離に切なくなって。
彼に対する想いは複雑に混ざり合い、様々な感情を知って喜んだり落ち込んだりしながらも、どんどん色づいていった。
(私がもっと早く生まれてたら恋愛対象として見てくれた……? それとも、お姉ちゃんみたいだったら年齢差なんて関係なかった?)
心の中で呟いたあとで、首を横に振る。
ありもしないことを想像するのは、もう飽きるほど繰り返した。
そして、こんなことを考えてもなにも変わらないことはわかっている。
私は自分のことすら自分で決められないのに、ただ駄々をこねるように甘えているだけなのだ。
呆れ交じりのため息を呑み込み、レモン色のマカロンをひとつかじる。
シトロンの風味がするマカロンは、サクッとした食感の次に甘酸っぱい香りと味が口腔に広がり、頬が綻んだ。
オミくんはマカロンを買う姿も様になるんだろうな、と考えて笑ってしまう。
兄がおしゃれなパティスリーでこんな可愛いスイーツを選ぶ姿は想像できないけれど、彼なら違和感がない気がする。
「現代の王子様……だもんね」
オミくんが載っている経済誌を手に取り、インタビューの見出しを口にする。
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