運命の赤い糸が引きちぎれない
おまけ?
――半年後。
「予定日、思ったより遅いのね」
私が最近もらったばかりの母子手帳を見ていると、後ろからそう声をかけられて、振り向くとさくらがいた。
「はぁ? どういうこと?」
意味が分からない、と首をひねると、さくらは微笑む。そんなさくらに、私は続けて聞いた。
「そういえば、さくらのとこは、もう性別わかる時期? 性別わかった?」
「まだよ。でも、次にはわかるかもって」
いつの間にか、さくらは妊娠していた。そして続いて私も。
さくらは、私より予定日は三か月早いけど、生まれる子は同じ学年になるらしくて、私たちはそれを楽しみにしている。
そして生まれる順番については、さくら、私、という、この順番が当たり前だと私は思っていたけど、さくらはなぜか私の方が早く妊娠していると思っていたらしい。
意味がよく分からないが、結果は似たようなものだった。
私と直さんは入籍してから、文字通り毎日何回も身体を重ね、数か月もしないうちに私は妊娠したのだ。
「それより良かったわよ、直さんとの結婚が決まって。両親も喜んでたし、私も嬉しい」
「う、うん。ありがと」
まぁ、心境的には色々複雑なのだが、やっぱりそれでも私は直さんが好きなのだから仕方ない。
「直さんね、本当によもぎのこと大好きだし、妊娠してからは余計に心配してるんだから。過保護すぎるくらい」
「う、うん。それは……よく分かってる」
――ただ、今はそれこそが問題なのだ。
そう思っていると、「よもぎ?」と聞き慣れた声がかけられる。
慌てて転げそうになった時、声をかけてきた当人である直さんは、私の身体を優しく抱きとめた。
(どんな事情があろうと、こんなとこで気軽に抱きしめたりするんじゃない!)
私は泣きそうになり、直さんを突っぱねると睨む。
「なんでここにいるんですか!」
そう、ここは矢嶋総合病院の産婦人科の待合室。
私はこっそりここに来ていたのだ。
「よもぎこそ、なんで検診なんて大事なことを隠してるの」
「い、いいいいいいや、だって! 直さん忙しいし! 付き添いなんていりませんって!」
私は目をそらしながら言う。
直さんはそんな私を見て、クスリと笑った。
「忙しくても必ず来るよ。それに、よもぎは隠す割にガードが甘いよね。ちゃんと担当の藤川先生から直接こっちに連絡来るようになってるんだから、隠すだけ無駄だよ」
とはっきりと告げる。
「う……」
(検診に付き添ってほしくないから、黙ってたんですけどねぇ……)
まさか、愛する夫に検診に付き添ってほしくない妊婦がいるとは思わなかった。
自分がそうなのだ。
いや、夫が普通なら問題ない。
私は最近ずっと思っている。
――直さんに権力は持たしてはいけない、と。
「ほら、よもぎ。行くよ。今日の検診もしっかり付き添うから」
「やだぁあああああ! 1人で行く! 1人で行きたい!」
「なんでそんなこと言うの?」
「だ、だって、直さん、副院長の職権乱用しようとするじゃん!」
「だって、よもぎの全部見たいし、見逃したくないもん。なんのために副院長なんて面倒な仕事引き受けてるのかって、むしろ全部このためだよ?」
「いやいやいやいや! その理由が一番嫌だわ! 全国の病院の副院長に謝れ!」
――しかも、この人が言うと冗談にならない!
私が泣いて叫ぶと、直さんはふっと微笑んで私の頭をぽんぽんと叩く。
「ごめんごめん、冗談だって。だから一緒に行こう?」
「ほんとに? ほんとに冗談?」
「うん」
「絶対前みたいに、一緒に内診に参加しようとしない?」
「うん」
「本当にホント? 絶対ですよ」
「絶対、よもぎが嫌だって言うならしない」
私はじぃっと直さんの顔を見る。
ニコニコして相変わらず本心が読みとりにくいけど、私のことが心配で大好きだっていうことは、手からつながる赤い糸の短さで嫌と言うほどわかった。
しかも短いと言うことは、私も結局直さんの暴走はある程度受け入れてしまっているということだ。
「じゃ、行こうか」
直さんが大きな手を差し出して言う。
私は息を吐き、結局のところ今も好きでたまらないままの夫の手を取った。
***
「ほんと、あの二人、仲いいんだから……」
さくらは、そんな二人が産婦人科の診察室に入っていくところを後ろから眺めていた。
最後、診察室の扉が閉まる瞬間、
「よもぎ。いい子だから……」
と、直がよもぎの耳元で何かを囁いていたのすら、二人はやっぱり仲がいいんだよなぁ、とさくらはのんびり思っていたのだった。
<END>
「予定日、思ったより遅いのね」
私が最近もらったばかりの母子手帳を見ていると、後ろからそう声をかけられて、振り向くとさくらがいた。
「はぁ? どういうこと?」
意味が分からない、と首をひねると、さくらは微笑む。そんなさくらに、私は続けて聞いた。
「そういえば、さくらのとこは、もう性別わかる時期? 性別わかった?」
「まだよ。でも、次にはわかるかもって」
いつの間にか、さくらは妊娠していた。そして続いて私も。
さくらは、私より予定日は三か月早いけど、生まれる子は同じ学年になるらしくて、私たちはそれを楽しみにしている。
そして生まれる順番については、さくら、私、という、この順番が当たり前だと私は思っていたけど、さくらはなぜか私の方が早く妊娠していると思っていたらしい。
意味がよく分からないが、結果は似たようなものだった。
私と直さんは入籍してから、文字通り毎日何回も身体を重ね、数か月もしないうちに私は妊娠したのだ。
「それより良かったわよ、直さんとの結婚が決まって。両親も喜んでたし、私も嬉しい」
「う、うん。ありがと」
まぁ、心境的には色々複雑なのだが、やっぱりそれでも私は直さんが好きなのだから仕方ない。
「直さんね、本当によもぎのこと大好きだし、妊娠してからは余計に心配してるんだから。過保護すぎるくらい」
「う、うん。それは……よく分かってる」
――ただ、今はそれこそが問題なのだ。
そう思っていると、「よもぎ?」と聞き慣れた声がかけられる。
慌てて転げそうになった時、声をかけてきた当人である直さんは、私の身体を優しく抱きとめた。
(どんな事情があろうと、こんなとこで気軽に抱きしめたりするんじゃない!)
私は泣きそうになり、直さんを突っぱねると睨む。
「なんでここにいるんですか!」
そう、ここは矢嶋総合病院の産婦人科の待合室。
私はこっそりここに来ていたのだ。
「よもぎこそ、なんで検診なんて大事なことを隠してるの」
「い、いいいいいいや、だって! 直さん忙しいし! 付き添いなんていりませんって!」
私は目をそらしながら言う。
直さんはそんな私を見て、クスリと笑った。
「忙しくても必ず来るよ。それに、よもぎは隠す割にガードが甘いよね。ちゃんと担当の藤川先生から直接こっちに連絡来るようになってるんだから、隠すだけ無駄だよ」
とはっきりと告げる。
「う……」
(検診に付き添ってほしくないから、黙ってたんですけどねぇ……)
まさか、愛する夫に検診に付き添ってほしくない妊婦がいるとは思わなかった。
自分がそうなのだ。
いや、夫が普通なら問題ない。
私は最近ずっと思っている。
――直さんに権力は持たしてはいけない、と。
「ほら、よもぎ。行くよ。今日の検診もしっかり付き添うから」
「やだぁあああああ! 1人で行く! 1人で行きたい!」
「なんでそんなこと言うの?」
「だ、だって、直さん、副院長の職権乱用しようとするじゃん!」
「だって、よもぎの全部見たいし、見逃したくないもん。なんのために副院長なんて面倒な仕事引き受けてるのかって、むしろ全部このためだよ?」
「いやいやいやいや! その理由が一番嫌だわ! 全国の病院の副院長に謝れ!」
――しかも、この人が言うと冗談にならない!
私が泣いて叫ぶと、直さんはふっと微笑んで私の頭をぽんぽんと叩く。
「ごめんごめん、冗談だって。だから一緒に行こう?」
「ほんとに? ほんとに冗談?」
「うん」
「絶対前みたいに、一緒に内診に参加しようとしない?」
「うん」
「本当にホント? 絶対ですよ」
「絶対、よもぎが嫌だって言うならしない」
私はじぃっと直さんの顔を見る。
ニコニコして相変わらず本心が読みとりにくいけど、私のことが心配で大好きだっていうことは、手からつながる赤い糸の短さで嫌と言うほどわかった。
しかも短いと言うことは、私も結局直さんの暴走はある程度受け入れてしまっているということだ。
「じゃ、行こうか」
直さんが大きな手を差し出して言う。
私は息を吐き、結局のところ今も好きでたまらないままの夫の手を取った。
***
「ほんと、あの二人、仲いいんだから……」
さくらは、そんな二人が産婦人科の診察室に入っていくところを後ろから眺めていた。
最後、診察室の扉が閉まる瞬間、
「よもぎ。いい子だから……」
と、直がよもぎの耳元で何かを囁いていたのすら、二人はやっぱり仲がいいんだよなぁ、とさくらはのんびり思っていたのだった。
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