【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

巡り合わせ(1)

 奏が東京から戻ってこないまま、あっという間に二週間が経とうとしていた。あまりにしつこく連絡するのを躊躇っているうちに、私も仕事が忙しくなってしまい、すっかり話すタイミングを失ってしまったのだ。
 仕事が忙しくなった理由は、サイトの売上が伸びたことにある。
 以前、奏がSNSで宣伝をしてくれたあと、予想以上に口コミが広がって行った。そのタイミングで、県民TVに出た私の魔法少女カリンのコスプレの投稿がバズってしまい、ありがたいことに売上はうなぎ上り。前に誹謗中傷を受けたこともあって、自分の画像がインターネット上に上がっていることに未だ不安はあるけれど、おかげで毎日忙しい日々を送っている。

「社長、タナカ工房の製造、追いついてないそうです……!」
「ええ? 生産稼働戻るまで、一回注文ストップしてって言ったよね?」
「す、すみません漏れていたみたいです……! 至急対応します」
 
 いつも完璧に仕事をこなしてくれる中里ちゃんが、ミスをするほどの忙しさぶりだ。
 
 

 忙しさがひと段落した昼下がり。取引先へのメールの返信を終えると、大きく伸びをした。

「それにしても、一気に忙しくなったね。これを機に、もう一人増やしてもいいかも」
「同感です。カスタマーサポートが圧倒的に足りてないですし。まあ、コスト考えて外注でもいいと思いますけど」
「だ、だよね……。葛巻くんもありがとね、いつも十分に働いてくれて」
 
 みんな疲れを顔に出しながらも、文句ひとつ言わずに働いてくれている。それでも今後のことを考え増員を検討していると、中里ちゃんが名案を思い付いたように口を開いた。

「それなら、小鳥谷さんに専属契約してもらいましょうよ! 結局デザイナーは追加してないですし、社長から言えば何とかなりません?」
「そ、それは無理だよ。小鳥谷さんフリーランスだし……」
「まあ、冗談ですけど。社長、小鳥谷さんと喧嘩でもしてるんですか?」
「え!?」
「だってここ最近ずっと元気ないですし。何かワケアリな感じなんですもん」
 
 奏との話は一切していないというのに、中里ちゃんにはお見通しのようだ。さらに葛巻くんにも「俺も思ってました」なんて同意されるから、私にはプライベートなどはないらしい。

「喧嘩っていうか……今は仕事で東京にいるから会ってないだけだよ」
「そうなんですか? ちなみに、いつからですか?」
「ん~二、三週間くらい……?」
 
 奏がいつから東京にいるのかは曖昧で、適当に返答をする。すると中里ちゃんは、「信じられません!」と声をあげた。

「そんなに会えなくて平気なんですか?」
「いや、まあ……仕事だしね」
 
 しまった。期間は言わない方がよかっただろうか。こんなに長く会えていないなんて、確かにこれまでの奏からすると、ありえないことだった。

「小鳥谷さん、本当に帰って来るんですか? そのまま東京に戻っちゃうなんてことは……」
「さすがにそれはないんじゃ……」
「なんで言い切れるんですか!? そんなに帰ってこないならありえますよ。というか、社長がいないなら、小鳥谷さんこっちに住む意味もなさそうですし」
「そ、そうかな……」
 
 言われてみれば、そんな気もしてくる。もともと「ちょっと会いに来た」くらいのノリで、家まで引っ越してしまうような人だ。戻る時だって、あっという間にいなくなってしまう可能性も否めない。

「待ってるくらいなら、東京行っちゃえばいいじゃないですか」
「はい……?」
「小鳥谷さんだって、たまには社長から会いに来てくれたら嬉しいはずですよ~」
 
 今はそんなテンションではないのだが、詳しいことは言えないので、苦笑いで話を流す。それにしても、私には東京まで会いに行くなんて考えはなかったから、中里ちゃんとは根本的に考え方が違うのだろう。

「たまにはそういう衝動的に動くのも素敵じゃないですか~」
「そういうもんかなあ……」
「まあ、いいんじゃないですか」
 
 絶対肯定しないと思った葛巻くんまで、同調してくるから驚いた。
 
 でも、本当にこのまま奏が戻ってこなかったとしたら……?
 今だって、もうほとんど連絡は取っていない。「いつ戻ってくるの?」「まだ帰れない」の連絡を何通かしているだけ。すでに私たちから、恋人のようなやり取りは一切消えてしまっていた。
 
 まさか、このまま自然消滅ってことも……。
 最悪の結末を妄想して、目の前が真っ暗になりかける。そんな私の気持ちもつゆ知らず、中里ちゃんは「たまには社長からも愛情表現しないと、飽きられちゃいますよ!?」なんて縁起でもないことを言うから、不安に追い打ちをかけられてしまった。

「東京か……」
 
 いや、いくら奏が相手でも、急に会いに行ったら迷惑な気がする。現にまともに連絡すらとっていないのだから。
 さすがに、それは――

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