【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜
真実(3)
「はじめは花梨の気持ちを考えたんだ。いきなり知らない男が現れて、君の元カレから角膜を貰いましたなんて言われたら、混乱するだろうなって。もしかしたら恨まれたりするかもしれないし」
「そんな……」
「花梨と一緒にいるうちに、それは杞憂だって思ったよ。でも、別の問題が出てきたんだ」
「別の問題?」
「初めて花梨を見た時に、実在したんだって感動はあったんだけど。それ以上に、俺はずっと夢で見ていた花梨に恋してたんだって気付いたんだ。もちろん、実際は想像していたより年齢も上で驚いたけれど、それ以上に綺麗な人だなって思った」
「っ……」
「だから一目惚れは本当。一目なのかは分からないけれど」
彼は私の幻を、何度見たのだろうか。奏は一度小さく笑って話を続ける。
「はじめは花梨が彼のことをちゃんと吹っ切れてるのが分かってから、折を見て話そうって思ってたんだ」
もしかしたら、本当の話を聞いた私が、奏に対して運命を感じてくれるかもしれないとも思ったらしい。同時に、怖がられる可能性も考えていたようだけど。
「でも、花梨がだんだん俺自身を見てくれるうちに欲が出た。彼のこと抜きで、俺自身を好きになって欲しいって。そうしてるうちに、何だかだんだんと言いづらくなって、先延ばしにしちゃったんだ。いつかはちゃんと話さなきゃって気持ちはあったんだけど……」
きっと真実を知れば、今まで以上に奏の中に誠を見てしまう。だからこそ、私が奏自身と恋愛がしたいと伝えたとき、何も知らないまま自分だけを見て欲しいと思ったと奏は話した。
奏の気持ちを思えば、「そんなことない」とすぐに否定するべきだったかもしれないけれど、それはできなかった。私も奏と誠を重ねない自信がないから。
こうしてる今だって、私を見ている奏の瞳が、誠のものだと思うと、どうしようもなく切ないような愛しいような、言葉で言い表せない思いが込み上げてくるのだ。
「もっと早く言うべきだった。こんな、騙すような形になって、本当にごめん。謝って済むようなことじゃないし、許して欲しいなんて言わないけど……花梨とこのまま、気まずいままは嫌だったから」
「……うん。ありがとう。話してくれて」
これまで何度も悩んだのだから、今だって私に話すのは怖かったんだろう。それは、時折視線を逸らす奏の表情から、痛いほど伝わってきた。
「正直、まだ何の話をされてるんだろうって、半信半疑だけど……私は信じたいと思ってる。今の話」
空想の、作り話でしか聞いたことがないような話。だけど、信じる理由は十分だった。
「……だって、奏と初めて会った時から、私も感じてたから。懐かしいような……彼と重なるなって、不思議な感覚を」
何の根拠もないけれど、私にとってはそれが真実だった。それに、やっぱり今目の前にいる奏が嘘をついているようには思えない。それくらいの人を見る目は今まで培ってきたはずだから。
だけど――
「それでも、今すぐ全部受け入れることはできない……かな。まだ頭の中、混乱してる」
「うん、そうだよね。仕方ないよ」
「あと……こういう状況になる前に言ってほしかった。今更言っても、仕方ないのは分かってるけど」
奏がずっと葛藤していたことは分かる。けれど、それと私の心は別問題だった。
彼の一部に、誠が存在していると分かってしまった今、私は奏とどう接していいかわからない。
「……ごめん」
もう何度目か変わらない謝罪と共に、奏が頭を下げる。謝ってほしいわけじゃないのに、許したいと思うのに……何だかそんな簡単な話じゃないように思えて。
「……しばらく一人で考えさせてほしい」
今の私には、ただそう口に出すことしかできなかった。
「距離を置きたい?」
落ち着いた、優しい声色で奏が問う。静かに頷くと、奏は「わかった」と納得してくれた。
「……それじゃあ、俺先帰るね。花梨は好きなだけゆっくりしていって」
「うん……ありがとう」
テーブルの伝票を持って、奏が立ち上がる。そのまま私の横を通り過ぎようとして、一瞬立ち止まり、こちらを見た。
「最後にもう一つだけ。こんな形になっちゃったけど、俺が花梨のことを好きな気持ちに嘘はないから。出会ってからずっと」
ぽつりと告げて、奏が店を出て行く。
彼が今、どんな表情をしていたかは確認できなかった。なんとなく、目を合わせるのが怖かったから。
目の前には、口を付けないまま冷めきってしまったコーヒーが置かれている。一人カフェに取り残されたあと、私はしばらくそこから動けなかった。
「そんな……」
「花梨と一緒にいるうちに、それは杞憂だって思ったよ。でも、別の問題が出てきたんだ」
「別の問題?」
「初めて花梨を見た時に、実在したんだって感動はあったんだけど。それ以上に、俺はずっと夢で見ていた花梨に恋してたんだって気付いたんだ。もちろん、実際は想像していたより年齢も上で驚いたけれど、それ以上に綺麗な人だなって思った」
「っ……」
「だから一目惚れは本当。一目なのかは分からないけれど」
彼は私の幻を、何度見たのだろうか。奏は一度小さく笑って話を続ける。
「はじめは花梨が彼のことをちゃんと吹っ切れてるのが分かってから、折を見て話そうって思ってたんだ」
もしかしたら、本当の話を聞いた私が、奏に対して運命を感じてくれるかもしれないとも思ったらしい。同時に、怖がられる可能性も考えていたようだけど。
「でも、花梨がだんだん俺自身を見てくれるうちに欲が出た。彼のこと抜きで、俺自身を好きになって欲しいって。そうしてるうちに、何だかだんだんと言いづらくなって、先延ばしにしちゃったんだ。いつかはちゃんと話さなきゃって気持ちはあったんだけど……」
きっと真実を知れば、今まで以上に奏の中に誠を見てしまう。だからこそ、私が奏自身と恋愛がしたいと伝えたとき、何も知らないまま自分だけを見て欲しいと思ったと奏は話した。
奏の気持ちを思えば、「そんなことない」とすぐに否定するべきだったかもしれないけれど、それはできなかった。私も奏と誠を重ねない自信がないから。
こうしてる今だって、私を見ている奏の瞳が、誠のものだと思うと、どうしようもなく切ないような愛しいような、言葉で言い表せない思いが込み上げてくるのだ。
「もっと早く言うべきだった。こんな、騙すような形になって、本当にごめん。謝って済むようなことじゃないし、許して欲しいなんて言わないけど……花梨とこのまま、気まずいままは嫌だったから」
「……うん。ありがとう。話してくれて」
これまで何度も悩んだのだから、今だって私に話すのは怖かったんだろう。それは、時折視線を逸らす奏の表情から、痛いほど伝わってきた。
「正直、まだ何の話をされてるんだろうって、半信半疑だけど……私は信じたいと思ってる。今の話」
空想の、作り話でしか聞いたことがないような話。だけど、信じる理由は十分だった。
「……だって、奏と初めて会った時から、私も感じてたから。懐かしいような……彼と重なるなって、不思議な感覚を」
何の根拠もないけれど、私にとってはそれが真実だった。それに、やっぱり今目の前にいる奏が嘘をついているようには思えない。それくらいの人を見る目は今まで培ってきたはずだから。
だけど――
「それでも、今すぐ全部受け入れることはできない……かな。まだ頭の中、混乱してる」
「うん、そうだよね。仕方ないよ」
「あと……こういう状況になる前に言ってほしかった。今更言っても、仕方ないのは分かってるけど」
奏がずっと葛藤していたことは分かる。けれど、それと私の心は別問題だった。
彼の一部に、誠が存在していると分かってしまった今、私は奏とどう接していいかわからない。
「……ごめん」
もう何度目か変わらない謝罪と共に、奏が頭を下げる。謝ってほしいわけじゃないのに、許したいと思うのに……何だかそんな簡単な話じゃないように思えて。
「……しばらく一人で考えさせてほしい」
今の私には、ただそう口に出すことしかできなかった。
「距離を置きたい?」
落ち着いた、優しい声色で奏が問う。静かに頷くと、奏は「わかった」と納得してくれた。
「……それじゃあ、俺先帰るね。花梨は好きなだけゆっくりしていって」
「うん……ありがとう」
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