【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

惹かれる心と体(2)

 奏から連絡があり、三十分ほどが経過。みなみが「どうせなら今から呼んじゃえば?」なんていうから、ダメもとで連絡してみたところ、奏は「すぐ行くね」と二つ返事で了承してくれた。
 みなみには彼とのことを包み隠さず話しており、なんとなく会わせるのが照れくさい気もしたけれど、今更後戻りはできないわけで。ソワソワしながら奏が来るのを待っていると、店の入り口から誰かが入ってくる音が聞こえた。
 音の方へ視線を向けると、奏と目が合い、いつものように微笑まれる。急いで来てくれたのか、微かに息が上がり肩が揺れているのが分かった。

「ねえ、あの人なの……?」
「うん、そうだよ」
「何か、キラキラしてない……!?」

 やはり、みなみですらキラキラフィルターがかかっているようだ。私はもう慣れてしまったけれど、彼には人の視線を引き付けるオーラがあるのだろう。

「お待たせ。あ、はじめまして。小鳥谷奏です」

 いつも堂々としているみなみも、外向きのキラキラスマイルを浮かべた奏を前に、少し緊張している様子だ。

「お二人は幼馴染なんですよね。会えて嬉しいです」
「いえそんな……あの、敬語もやめてください。年上って聞いたので」
「じゃあ遠慮なく。よろしくね、みなみちゃん」

 奏は人懐っこい笑みでみなみと挨拶をかわす。そのあとで、私の隣にぴたりとくっついて腰を下ろした。

「奏何飲む? これメニュー」
「ありがとう。あ、花梨今日髪上げてるんだ。可愛い」

 そう言って、奏は流れた前髪にそっと触れ、耳にかけてくれる。

「え!? あ、うん。ちょっと寝坊したから寝癖が、ね……」
「はは、花梨らしいね。言ってくれれば起こすのに」

 私としてはいつも通りの会話をしていたつもりなのに、ちらりと向かい側を見ると、みなみが何か言いたげに私たちを見ていた。

「……随分と仲が良さそうで」
「そ、そう?」
「まだ付き合ったばかりだから、そう言われると嬉しいね」

 もしかすると、みなみの目には彼が胡散臭く映っているのかもしれない。まるで品定めするかのような彼女の視線に、私の方がヒヤヒヤさせられながら、飲み会を再スタートさせた。




「そういえば、奏さんって東京出身なんですよね? こんな田舎で不便だなとか思いませんか?」
「まあ正直不便なところはあるけど、職業柄俺はあまり外にも出ないしね。それに自然もたくさんあって、食べ物も美味しいし、良いところだと思うよ」

 飲み会が始まって早々に、奏はすっかり緊張が解けたみなみからの質問攻めにあっていた。まるで尋問でもしているのかといった雰囲気に、「ちょっと突っ込んで聞き過ぎでは……?」と口を挟みたいほどだったが、奏はひとつも嫌な顔をせず丁寧に答えている。

「でもずっと東京に住んでて、急に引っ越しちゃうってすごいですね」
「んーそれは、花梨がいたから。やっぱり好きな人とは近くにいたいし、ね?」
「え!?」

 当たり前のように同意を求められて、つい声が裏返ってしまう。何だろうこの空気感。みなみの鋭い視線が突き刺さって、居心地が悪いような……。

「二人って出会ったばかりなんですよね? どうして、そんなに花梨のこと好きなんですか?」
「み、みなみ!?」

 それ、いきなり聞いちゃうの……!?

「奏さん、見るからにイケメンだから、東京でもモテてそうですし」
「まあそれなりには、ね」

 み、認めた……!

「だったら尚更、引っ越しまでするなんて、相当じゃないですか。付き合うまでもすぐだったみたいですし、言い方は悪いですけど、正直ちょっと怪しいなって」

 そ、それはそうなんだけど……。それも聞いちゃう!?
 私自身が聞けないような直球すぎるみなみの質問に、ハラハラドキドキさせられる。おそるおそる隣を見ると、奏は少し考えたあとで口を開いた。

「……一目惚れ、じゃ理由にはならないかな」
「え!?」
「それから、これは信じてもらえないかもしれないけど。花梨を見た時に、ずっと昔から知ってるような不思議な感じがしたんだ」
「あ……」

 私と同じ。まさか、奏もそんなこと思っていたなんて、知らなった。出会ってすぐに体を重ねて、恋人同士になって……。今までの私からしたら、展開が早すぎて戸惑っていたけれど、こういうこともあるんだろうか。

「あ、もちろん、一緒にいるようになって中身もいいってことは分かったよ。仕事も一生懸命だし、何事にも真っ直ぐなところとか。あと、素直でわかりやすいところも可愛いし、ね?」

 同意を求めるように、奏が私を覗き込む。そんなこと言われたって、私はどう反応したらいいかわからないのに。
 みなみも、奏と私の気持ちが一致していると悟ったようだったが、まだ納得がいかないのか、さらに言葉を重ねた。

「花梨から聞いてると思いますけど、この子、昔付き合っていた人を亡くしてるんです。だから、友人として、もう傷つくようなことは経験して欲しくないっていうか……」

 みなみの言葉に、胸が締め付けられる。いつもお節介を焼いたり、きついアドバイスをしたり、でもそれは全部私の為。今だって、突っ込んだ質問はしづらいだろうに、敢えて私が聞きづらいことを聞いてくれていたんだなと実感した。
 みなみの言葉に奏も真剣な話だとわかったのか、言葉を選んでいるように思える。
 しばしの沈黙が流れ、彼が小さく息を吸う音がした。

「……友達思いなんだね。でも大丈夫。花梨のことを悲しませるつもりはないし。その彼のことだって、別に無理に忘れる必要はないって思ってるんだ」
「え……」
「だって、その彼がいたから今の花梨がいるわけだし。そうでもなきゃ、俺たちは出会えなかったから。感謝してるくらい」

 一ミリも照れることなく言い切ると、奏が申し訳なさそうにこちらを見た。

「……ってごめんね。何か熱く語っちゃって」
「う、ううん。こっちこそ、そこまで思ってくれてるなんて、知らなくて……」

 これが全部演技だとしたら、彼はとんだペテン師だ。それくらい、本心を言ってくれているのだと感じ、胸の奥底までじんと響いた。
 ここまで来ると、さすがにみなみも納得したのか、やれやれと肩を落とす。

「見ての通りちょっとガサツなところもありますけど、とっても良い子なので。どうぞよろしくお願いします」

 まるで私の親のように、みなみがあらたまって頭を下げる。奏も「こちらこそ」と頭を下げるものだから、つられて私も頭を下げてしまい、あとから三人で笑い合ったのだった。

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