【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

二度目の恋は甘くて甘い(3)

 食事を終えたあとは、二人掛けのソファでくつろぐ。
 改めて部屋を見渡してみると、同じマンションだというのに私の部屋よりも広く、作りも違うようだ。まだ引っ越してきたばかりなのか、荷物の少ない部屋は余計に広く感じられた。
 小鳥谷さんは「こっちって家賃安いんだね」なんて驚いていたけれど、それにしてもこの部屋は広すぎるような。きっと私の部屋よりも、ずっと家賃が高いだろう。
 私が今いる部屋は、ダイニング兼リビング。そこに繋がっているのが、寝室。そしてその隣は、しっかりと閉ざされた部屋――

「あっちは仕事部屋。まだ散らかってるから見ないでね」

 私が質問する前にそう答えて、小鳥谷さんがお茶を淹れて持ってきてくれた。

「自宅で作業することが多いから、仕事とプライベートは分けないと上手く切り替えられないんだ」
「なるほど」

 私はオフィスがあるからいいけれど、確かに自宅を仕事場にするのは大変そうだ。

「はい、これよかったらどうぞ」
「わ、いい香り……」
「ビルベリーとアイブライトのブレンドティーだよ」
「ビル……?」

 一瞬何語を言われているのか分からず首を傾げると、小鳥谷さんがクスリと笑う。

「ハーブティーだよ。リラックス効果もあるし、目の疲れにも効果があるから。花梨、今日疲れてそうだったし、俺も疲れやすいからさ」
「へえ……」

 当たり前のように説明されて、私の方が知識に乏しすぎるのかと錯覚してしまうほど。
 ちょうどいい温度で淹れられたハーブティーをひと口含むと、程よい酸味と甘い香りが口の中に広がり鼻から抜けていく。それだけでもほっとひと息つけるような、落ち着いた気分になれた。

「美味しい……。小鳥谷さんって、女子力も高いんだね」
「そう? 人並みだよ。まあ、女きょうだいに囲まれて過ごしたからってのもあるけど」
「そうなの? お姉さんとか?」
「姉ちゃんと妹に挟まれる」
「なるほど……納得。そんな感じ」
「えっ、どんな感じ?」

 小鳥谷さんが人の考えていることに敏感なところや、女性の扱いが上手いのは、女性に囲まれて育ったからなのかもしれない。
 聞けば、父親は建築家、母親は専業主婦の傍らイラストレーター。姉はファッションデザイナーで、妹は映像会社勤務と言うものだから、やはり小鳥谷さんのデザイナーとしてのセンスは、血筋であることは容易に想像ができた。以前、デザイナー業界のサラブレッドなどと呼ばれていた噂は、あながち間違っていないのだろう。

「さすが……やっぱり小鳥谷さんってすごいんだね」
「ん? 何が?」

 まったく驕らない性格は、きっとそれが当たり前だからなのか。
 感心しながらビルなんとかのハーブティーをいただいていると、小鳥谷さんは少しだけ不満そうにこちらを見た。

「……ねえ、その小鳥谷さんってそろそろやめない?」
「えっ」
「仮にも付き合ってるんだから。奏って呼んでよ」
「う、うん。わかった」

 返事をすると、今呼んでと言わんばかりの視線を感じる。もちろん勝てるわけもなく、「奏」と一言だけ呟くと、彼は嬉しそうに私を抱きしめた。

「もう一回呼んで」
「ええ? 呼ばないよ!」
「残念。照れてる花梨も可愛いのに」

 言いながら、ちゅっと音を立ててごく自然に頬へと口づける。

「っ!?」
「驚いてる顔も可愛い」

 そう言って、もう一回続けて今度はこめかみの辺りにキスを落とす。本当にこういうところだ。無条件に「可愛い」なんて連呼される度に、反応に困る。どうしてこんなにも、私に甘いのか。

「あっ……」

 こめかみに触れた唇は、這うように耳元へ辿り、耳たぶや首筋へと軽いキスを落としていく。鎖骨辺りまで下がってくると、さすがにキスをしづらく感じたのか、私を持ち上げ自らの膝の上へと置いた。

「うわっ、ちょっと……!」

 我ながら色気のない声。向かい合うと、奏が私を見上げるような形で目が合った。

「こっちのほうが、もっと密着できるから」
「ひゃっ……」

 人差し指で耳をなぞるように触れられると、背中にピリピリとした感覚が走り、体の奥底が疼く。

「やっぱり耳、弱いよね」

 奏は楽しそうに笑って、私の耳を弄ぶ。
 どうしよう、この体勢……癖になるかも……。
 体はしっかりと奏に密着していて、熱を孕んだ瞳で見つめられると、心臓が早鐘を打つ。そのまま唇をなぞられると、迫りくるキスの予感に、きつく目を瞑った。

「っ……」

 けれど、いくら待っても彼の気配は感じられない。耐えかねて薄目を開くと、「キス、されると思った?」と言わんばかりに悪戯な笑みを浮かべる奏がいた。

「大丈夫。これ以上はしないよ」

 密着していた体はあっさりと離れ、二人の隙間に冷たい空気が流れる。既に紅潮し始めていた体に、物足りなさを残して。

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