【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

一夜の過ち(3)

 さっとシャワーを浴びた後は、小鳥谷さんが用意してくれていた備え付けのバスローブに身を包んだ。こういう時、下着をつけるべきか否か悩んで、結局付けておいた。正解は分からないけれど、さすがに下着を付けていないと落ち着かなかったから。

 小鳥谷さんがシャワーを浴びに行ったあとは、どこで待つべきか分からず、部屋の中を右往左往する。ベッドで待つのも気合十分な気がするし、椅子に座るのも冷静になりすぎている気がする。
 まったく、男性経験がないことが、こんなところで影響してくるなんて。今更、取り繕う必要もないのだけれど。
 諦めて、再び椅子に座ってお酒を流し込むと、呼吸を整える。どうせなら、あのまま抱かれておけばよかったかもしれない。こんな風に仕切り直してしまうと、私も流されただけだと言い訳ができなくなるから。
 緊張でどうにかなってしまいそうで、もう一杯日本酒を水のように流し込むと、シャワーを終えた小鳥谷さんが戻ってきた。
 服を着ているとスラッと背が高く、細身な印象なのに、バスローブからのぞく上半身は、意外にも筋肉質で色気がある。

「なんだ、まだ飲んでたんですね」
「あ……」

 空になったグラスを奪い取られ、テーブルへと置く。そのまま手を引かれると、再びベッドへと誘われた。

「……よかった。帰ってなくて」

 ベッドへ腰かけると、安堵したように彼が呟く。その一言に、私に先にシャワーを浴びさせた意図があるように思えた。先に着替えてしまえば、途中で逃げ出そうとする心理的ハードルが上がると思ったから。本当にそれが彼の狙いだったかは分からない。けれど確認する間もなく、再びベッドへと押し倒されていた。
 互いに言葉もないまま、小鳥谷さんが私の頬に口づける。呼気からは微かにアルコールの香りがして、今になって酔いが回ってきそうだ。
 一度冷静になった後で、再びそういった雰囲気になるのだろうかと思ったが、完全に杞憂だった。先ほどよりも性急に、全身に口づけが落とされながら、するりとバスローブの紐が解かれた。

「っ……」

 露になった胸元をまじまじと見つめて「下着も可愛い」なんて彼が呟くものだから、やっぱり付けたのは正解だったのかもしれない。
 褒められたにも関わらず、下着はいとも簡単に剝ぎ取られてしまう。胸元に湿った唇を寄せられると、先ほどまで隠れていた場所にまで口づけられる。ちゅっと音を立てながら、熱く、柔らかい感覚に得体のしれない快感が込み上げてきて、全身を震わせた。

「ん、ぁっ……」

 漏れた声を必死で抑えれば「我慢しないで」と囁かれ、耳元に当たる吐息でまた声が零れ落ちる。あっという間になめらかな素肌が重なると、どうしようもなく体が疼き、下半身にじんわりと熱が伝わった。

 ああ、やっぱり今、すごくいけないことをしている気がする。
 それなのに、押し寄せる背徳感さえ、今は私の感情を高ぶらせる要因のひとつだ。こんなに乱れて、自分の体じゃないみたい。
 ……でも、いいか。どうせ、一夜限り。きっともう会うことなんてないんだから。
 体の奥底からこみ上げてくる淫楽へと身を沈めながら、私は考えることをやめた。




 遠くの空が白み始めた頃。ベッドの上で、こと切れたように寝息を立てている整った顔立ちを眺めながら、私は深く息をついた。

 ……やってしまった。
 下半身を突くような、鈍い痛みがまだ残っている。これが先日みなみに脅された、セカンドバージンを極めた代償なのだろうか。
 だけど、それ以上に――昨夜はとても心地が良かった。痛みもすぐに快感に変わるほど。
 小鳥谷さんはまるで壊れものを扱うかのように、優しく私を抱いてくれた。まるで、淡い初体験を喚起させるかの如く、丁寧に。だからこそ、久しぶりのセックスへの恐怖よりも気持ち良さの方が増して、すべてを彼に任せることができた。
 ……それくらい、彼が女性の扱いに慣れているかもしれない、ということは考えないようにして。

「ん……」

 彼が寝返りを打って、二人の間に距離ができると、ひんやりとした空気が肌に触れる。そこでやっと現実に戻されて、静かにベッドから抜け出した。
 小鳥谷さんが目を覚ます前にホテルを出よう。お酒が抜けた今、普通のテンションで会話できる気がしないから。
 散らかった服をかき集め、急いで着替え終わると、忘れ物がないか部屋を見回す。テーブルの上には飲みかけの一升瓶が置いてあったけれど、さすがにこれを持って帰るのは気が引けてしまい、そのままにして部屋を出た。

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