【コミカライズ原作】君とは二度、恋に落ちる〜初めましての彼に溺愛される理由〜

寧子さくら

恋愛とは無縁の女(4)

 さっさと切り上げようと思ったのに、自宅に到着する頃には十一時を回っていた。みなみの彼氏の友達が思った以上に話しやすくて盛り上がってしまい、ついついお酒が進んだ。
 ちなみにみなみが期待していたような出会いではなく、完全に友達ノリで意気投合してしまったので、今後彼とどうにかなることはないだろう。
 それにしても――

「あ~飲み過ぎた……」

 いい加減「ほどほどにしよう」と決めた飲み会で、飲み過ぎてしまう癖を直したい。いつまでも体が若くないのだから。
 冷蔵庫を開けるのも面倒くさく蛇口の水で喉を潤すと、ベッドの上に体を投げ込んだ。見上げると、ベッドサイドの棚には、高校の卒業式で誠と一緒に撮った写真が飾られている。これが、毎朝私が拝んでから出かけるという噂の写真だ。

「吹っ切れてるつもりなんだけどな……」

 写真の中の二人は、十年も前の写真だというのに鮮明で、そのまま飛び出してきそうなほどはじける笑顔を浮かべている。そして、誠のチャームポイントの八重歯が、あどけなさを強調していた。

「私だけ年取っちゃったなあ……」

 気付けばもう二十八歳。彼より随分長く生きてしまった。
 久々に感傷的な気持ちになり目を閉じる。体はぽかぽかと温かく、アルコールのせいで頭もふわふわする。このまま夢の中へ――とはいかない。やることやってから寝なくては。
 夢の国まであと一歩のところで岩のような体を起こし、ひとまずスマートフォンを確認する。すると、遅くまで仕事をしていたであろう、葛巻くんからのメッセージが入っていた。
 今朝、彼からサイトのリニューアルを提案され検討をした結果、クラウドソーシングにてデザイナーを募ることになったのだ。その募集要項をまとめてから退社をしてきたのだが、既に一件応募があったという連絡だった。この方で決まりでいいのではないか、と。
 葛巻くんからの連絡には、応募者の簡単な経歴とポートフォリオのリンクが記されている。URLをクリックすると、すぐに真っ白なホームページに飛んだ。

「わっ……綺麗……」

 真っ新だったキャンバス生地に、カラフルな色が滲みだし、水滴のように各項目を創り出していく。おそらく応募者のホームページなのだろう。そのサイトのデザインには目を見張るものがあり、お酒の酔いも覚めてくるほど。
 その感性に惹かれポートフォリオをクリックすると、企業のホームページやECサイト、スマートフォンアプリのデザインなど、幅広いデザインが一覧化されている。しかも、名の知れた大手企業や、見たことのあるデザインのものばかりだ。

「す、すごい……」

 一度戻って、プロフィールを確認してみる。
 小鳥谷奏(こずやそう)。職業WEBデザイナー。年齢は……私より二つ年上だ。東京美術大学デザイン科を卒業したあと、大手広告代理店に就職。三年勤務ののちフリーランスへ転向。
 正直デザイナーのキャリアについて詳しくはないけれど、経歴をざっと見ただけでも優秀であることがわかる。ここまで名だたる企業と仕事をしているのだ。もしかしたら、有名な人かもしれない。
 そう思い、メッセージアプリを起動させると、高校の友達を探す。ちょうど、東京の美術大学へ進学後、WEBデザイナーとして働いている子がいたのだ。もし有名人なら彼女も知ってるかもしれない、という気持ちで『小鳥谷奏』という名前を送信した。

「それにしても……素敵だなぁ……」

 もう一度ポートフォリオを見返してみても、目を引くデザインばかり。素人の私でも、評価されるデザインであることはすぐにわかった。
 しかしながら、こんな人が本当に、地方の小さな会社の仕事を受けてくれるのだろうか。募集要項に記載した報酬も、決して高いものではない。正直、相場で見たら安価だ。
 もしかしたら、価格交渉されるかも……?
 そう思いながらも、彼のポートフォリオを見ているうちに、だんだんと睡魔に襲われてしまい、あっさりと心地よい眠りへと落ちていった。




コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品