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つくも茄子

53.ロジェス伯爵side

 
 最近、王都で話題の小説がある。
『聖女と四人の貴公子』という題名だ。

 森に住む平民の少女がある日、「聖女」に目覚める処から物語が始まる。
 世界中から「聖女」と認められた少女は、この世を闇で支配しようと企む「魔王軍」を倒すため、四人の貴公子達と旅に出る事になった。貴公子といっても四人とも「選ばれた者達」である。

 第二王子は、「勇者」の称号を持ち莫大な魔力を身の内に秘めている。
 公爵家の子息は、「賢者」の称号を持つ頭脳明晰。
 神官長の嫡子は、「魔術師」の称号を持ち新しい術式を幾つも編み出す天才。
 近衛騎士団長の息子は、「聖剣」の称号を持つ剣豪。


 戦闘ものでありながら甘酸っぱい恋模様が女性にも男性にも人気だ。
 シリアスな描写の中に笑いを誘う書き方も読者に好評で、「時折あるギャグシーンがほっとする」という人達までいる程だ。

 ヒロインの「聖女」は純粋無垢な乙女で、四人の男達から愛されるキャラクターだ。「魔王軍」を倒し、国に凱旋し彼らはまさに「世界の救世主」。
 物語の最後は、国王となった第二王子と「聖女」が結婚して幕を閉じる。



 ――なので、メイドに物語の感想という名のダメ出しを言い続ける娘のように、深く考えてはいけない話だ。

「莫大な魔力持ちの第二王子だから王位継承問題が発生したから戦で死んでくれと言わんばかりに突入されてしまったのでは?」

 偶然だ。そんな考え方はよそう。

「国王になったと書いてあるけど第一王子は何処いってしまったの? 死んだのかしら? 小説に出てこないんだけど?」

 物騒な感想は要らないよ。話の流れが変わってくるし、ドロドロした問題が浮き彫りになって血なまぐさいだろう。



 他にも――。

「公爵家は“子息”となっているけど……どうして嫡男と書かなかったのかしら? もしかして庶子?」

 そんな細かい事に気付いてはいけない。

「神官長の嫡子が“魔術師”というのは危ういわ。“神官”と“魔術”はある意味で対極の存在よ! 彼、親に虐待を受けたりしてないかしら? 両手両足を縛り上げられて湖に沈められたりしたんじゃ……生き残ったから仕方なく育てたんじゃ……」 

 娘よ。
 それは魔女裁判だ。
 生き残った場合、魔女と認められて更に殺されるパターンに陥る地獄の展開。


 娯楽小説なんだから真剣に考えるのは止めよう。




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