婚約者様の仰られる通りの素晴らしい女性になるため、日々、精進しております!

つくも茄子

46.モラトリアム

 
 困った事が起こりました。
 婚約者様がどうやら浮気をなさっているようなのです。
 私は見ていないのですが、複数の友人の目撃情報がありますから、ただの噂と考える訳にはいきません。真偽のほどを確かめるため、婚約者様に訊ねることにしたのです。

 すると、

「それがどうかしたか?」

 なんとお認めになられたのです。

「ただの浮気だ。そんな些細なことを聞きに来たのか?」

 しかも堂々と『浮気』と宣言される始末です。
 普通は隠すものではないでしょうか?

「貴族なら当たり前だ」

「私たちは婚約者同士ですよ?」

「婚姻前だろ?お前とはんだ、一々文句を言ってくるなよ!」

「これは裏切り行為に値しますよ?」

「おいおいおい!なにを真面目に言ってるんだ。結婚したら嫌でもお前と一緒にいないといけないんだぞ?学生の間だけでも自由にさせてくれよ!」

「自由ですか?」

「そうだ!いいか、学生というのは、期間限定の自由な時間だ。学生の間だけでも満喫したいもんだろ?恋に遊びに、今だけしか味わえない青春を謳歌すべきだ!」

「確かに、ではあります」

「そうだろ!なんだったらお前の『恋人』を作れ!恋は良いぞ!新しい自分を発見できる」

「は…あ」

「あ!もうこんな時間か!おい!お前!納得したなら、さっさと帰れ!今からデートに行かないといけないんだ。暇なお前と違って忙しいんだ!」

 婚約者様は慌ただしく扉を開けて出て行かれました。


 それにしても、まさか婚約者様が浮気を推奨なさる側の貴族だったとは…意外です。御父上の公爵様には浮ついた噂のない方でしたから。

 お顔が頗る良い婚約者様なら『恋人候補』が列をなす事でしょう。
 それにしても『恋』ですか。
 あら?
 そう言えば、私は初恋もまだでした。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品