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つくも茄子

5.スコット公爵side


 我がスコット公爵家の次男とロジェス伯爵令嬢の婚約が成立した。

 妻に似た美貌を持って生まれてきた次男のチャールズ。妻に溺愛されて育ったせいか幼いながら傲慢な少年に育ってしまった。令嬢との顔合わせで、これ以上ない侮辱的発言をしておきながら「なぜ?」という態度だ。周囲からチヤホヤされてきた弊害だろう。チャールズは少々軽率で我慢が足りない。ああ、あと物事の裏を読み解くことが出来ない。これはまだ子供だから致し方ないが……。

 この婚約はだ。

 どれほどチャールズがバーバラ嬢を嫌おうと破棄する事など出来ない。
 我が国では、国王派と大公派があり対立している。
 大多数の貴族は中立派だ。中立と言えば聞こえはいいのが、要は、事なかれ主義だ。嫌な言い方をすれば、八方美人で勝った方につく蝙蝠のようなもの。だが、殆どの貴族は大公寄りだ。それというのも、現国王の存在が貴族たちの心を大公家に傾かせているのだ。

 国王自身にも問題点は多々ある。だが、全てにおいて完璧な王など存在しない。王といえども一人の人間だ。失敗する事もあるだろうし、間違った判断をする事もある。そこを補うのが臣下たる貴族の務めではないか!にも拘らず、他の貴族は国王に完璧を求めるのだ。

 スコット侯爵家は昔から王家に忠誠を誓っている。当然、国王派だ。
 そのため、私自身も国王陛下を擁護する発言をしてしまうが、それを抜きにしても国王陛下に対する貴族の目が厳しいのは、その出自にあった。

 国王陛下の亡き母君、先代王妃様は帝国皇女だ。大陸でも有数の大国である帝国。その庇護を求めて周辺諸国は帝国の皇女の嫁入りを希望する国は多い。我が国もその一国であった。皇女殿下が王妃として嫁いで来られたお陰で、我が国の経済が発展したといっても過言ではない。帝国との貿易が増え、帝国を介して他国との交流も増えたためだ。 

 先の皇帝の時代までは良かった。
 代替わりをした新しい皇帝は好戦的な性格で、逆らう国々をことごとく弾圧している。我が国に対しても内政干渉をし始めた。皇帝陛下は国王陛下の叔父にあたる。そのことが只でさえ仲の良くない王家と大公家に決定的な亀裂が入った。もはや修復は不可能な程に。

 国王陛下も大公家を無視する訳にはいかない。
 王家よりも人気があるのも問題であった。

 国王陛下が目を付けたのが中立のロジェス伯爵家だ。爵位は伯爵ではあるが、建国当初からある由緒正しい家柄だ。歴代の当主たちも実力者揃い。現当主に至っては最年少で宰相になったほどの人物だ。

 ロジェス伯爵家が味方に付けば大抵の中立貴族は国王派に傾く。
 その狙いもあってのチャールズとバーバラ嬢の婚約である。
 当人同士の意思など関係ない。
 まごうことなき政略結婚。

 チャールズとバーバラ嬢の相性が特別悪いという訳でもない。少なくともバーバラ嬢はチャールズに歩み寄っている。チャールズのために色々と頑張ってくれている健気な令嬢だ。親であるロジェス伯爵の圧は凄まじいが、この婚約は成功だろう。

 チャールズもまだ幼い子供だ。成長すればこの婚約の意味も自ずと理解出来るはず。
 この時の私は本気で信じていた。

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