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現代人のいろいろなお話

わたべ ゆう

世界に1つのツーブロック*

俺は奏。中学2年生だ。
正直、モテたい…。

髪伸びてきたし、そろそろ切りに行こっかな。
俺は教室の片隅でそう思った。

そんなとき、クラスの女子の会話の一部が聞こえてきた。
「ツーブロックって髪型いいよね」
「うん、いけてる!」

ツーブロックか…よし! 

放課後、真っ先に美容院に向かった。

美容院の扉を開け、カラン カランッと音がなる。
予約をしていなかったが、夕方で空いていたのですぐに指定席に座れた。

「どういう髪型にしましょうか?」美容師が尋ねてきた。

「ツーブロックで。」俺は自信満々に応えた。

しかし、美容師は困ったような表情をして言った。
「え?ツーブロック…ですか?」

でもモテたい俺はそんなこと気にする暇もなく、元気に「はい!」と応えた。

「本当に…いいんですか?」と美容師は何度も言ってくる。

「え?なんでですか?」
なんでそんなに聞いてくるのだろうか。

「いや、ツーブロックを頼むお客様は初めてなので…。」

「え、そうなんですか?最近流行ってるんだと思ってました。」俺はそういうことかと思った。

「ツーブロックで大丈夫ですよ!まぁ細かいところはお任せします。」美容師なら信用できるしな。

「分かりました…。」と美容師は渋々注文に応えた。

1時間後、悲劇が起ることも知らずに俺は…。

「できました」美容師が言う。

ふぁぁ…。とあくびをする。
「あ、ありがとうございます…。」とりあえず礼を言っとこう。
そして俺は目に力を入れ、目を覚ました。

「ん?ってぇぇぇえええ!!!なにこれぇぇえ!?」俺は自分の髪型を見て、ものすごく驚いた。

「ツーブロックですよ?」と美容師はポカッとした表情で言った。

「いやなんで頭にブロックの形した髪の毛が2個乗っかてんだよ!!」
俺の今の感情がよく分からなくなる。でもそのくらいひどいってことは分かるだろう。

「ネズミーランドのキャラクターかよ!!!」あれの耳が四角いバージョンみたいな状態だ。

「だってツーブロックがいいって…。」と美容師はモジモジしはじめた。まるで幼児のように。

「いやツーブロックって左右の髪を刈り上げにするやつですよ!なにやってるんですか!!!」
あんた何やってくれてんだ…。

「ぇぇええええ!それなら刈り上げと言ってもらわないと!」と逆ギレしてきた。

「いやいや分かるでしょ普通!何年美容師やってんだよ!」
てかあんた、ほんとに美容師かよ!

「すみません!でもこれかっこいいですよ…!」ととりあえず言っとけばいいみたいな感じで言った。

「はぁ?これがかっこいい?これが?うそだろ?」
俺は一気に怒りが込み上げてきた。

そのとき美容師が急に人格が変わったかのように弁明しはじめた。

「お客さん」

「ん?」と俺は怒りの口調で返事をした。

「ダイヤモンドがなんで価値があるか知っていますか?」

おいおい、ついに頭おかしくなっちまったか?

「ダイヤモンド?なんだよいきなり…。綺麗だからじゃないんですか?」とりあえず応えた
 
「違います。ダイヤモンドは少ないから価値が高いんです。見た目はほとんどガラスと同じなのに、ダイヤモンドの価値が高いのはガラスの数が多くて、ダイヤモンドの数が少ないからなんです。」
「つまりこの世の中は稀少であればあるほど価値が高いんです。」

「なるほど…?」何故が凄く納得してしまう。

「お客さんの髪型は日本に1人、いや世界に1人しかいませんつまり非常に価値が高い…ダイヤモンドなんです。」

「ダイヤモンド…?俺が?」
こいつは何を言っているんだ…。

「ブロック好きな女性にとってもうあなたと付き合うしか選択肢はないんです。」
「つまりこの髪型は絶対的です!!!」
ドヤッとした顔と言い切ったぜみたいな感じで言われてしまい、俺は完全に信じて瞬発的に応えた。

「なるほど……これで行きます!」

「ワックスをつけていきますか?」
よしよし、この客完全に騙されているぞ…!

「はい!お願いします!」
この先のことも考えずに元気な口調で返事をした。

「できました。これは完璧に正四角形のブロックです。」
意外と難しかった…。

「おぉぉぉ…?」
なんだろう、この言い表せない感情は。俺はどうしちまった?

「いやぁかっこいいですね!たまらないですよ、最高です!」
これでもっと信じさせないと…。

「なんかいい気がしてきた…。」

「それではお会計20300円になります。」

「に、2万円!?ちょっと高くないですか!!」

「お客さん、ダイヤモンドは高いんですよ」完全にドヤァとした顔で言ってきた。

ダイヤ…モンド!
そうか、俺はダイヤモンドなのか。

「カードで」
もう俺は最強だ!モテるぞぉ!

「はい!ありがとうございました!」

翌日、髪のセットで意外と時間がかかる。いや、意外ではないか。

「よし、できた。完璧な四角形だ、行くか!」
俺はワックスをつけて学校へ行った。

堂々と廊下を歩き、ガララと教室の扉を開けた。

「よぉ!」俺は友達に話掛けた。

「おっ…おお…おはよう…。」なんだこいつ。俺の友達か?

「おう」
なんでみんな動揺したような顔してんだ?

「……どうした?」奏にはちゃんと言っとかないと…。

「なにが?」
何か変なことでもあるのか心配になり、俺も動揺してきた。

「いや頭の…ブロックみたいなのだよ…。」うわぁ、ついに言ってしまった…。触れたくないのに…。

「あぁ切ったんだよ、イケてんだろ?」
お!気づいてくれたか!

「え?あぁ…まぁ お前がよければいいんじゃね…。」こいつガチで言ってんのか。

「俺さ、もう 誰かの真似したくないっていうか。みんなと同じ髪型がダサいと思うんだよね。」
美容師の言葉が意外と俺に響いてたみたいだ。

「なるほどな…。」……。

チラッとクラスの女子のほうを向き話しかけた。

「やぁ!」
モテたい…!

ビクッとクラスの女子はビックリしていた。

「あ…おはよう奏くん…髪すごいね…。」うわー、よりにもよってこいつに話しかけられた…。

「あぁ、ツーブロックにしてみた。」
よし、女子に人気な髪型!

ついに以前の常識までも無くなってしまった。

「へ、へぇ…。」こいつツーブロックの意味知らねーんか?てか美容師もなぜこうした?

「触ってもいいよ。」

「いや、いい。」
女子には完全にドン引きされてしまった。しかし、俺はまだ気づいていない。

「あのさ、今日よかったらなんだけど、帰り一緒に帰らない?何か奢るし。」
よし超絶チャンス!!

「うーん、ごめん…その…。変な髪型の人と一緒に歩きたくないんだよね…。」あぁ、言っちゃった…。

「え?ぇぇぇええええ!!!!なんで…なんで!!この髪型世界で1つなのに!!オンリーワンなのに!」
俺は今超絶落ち込んだ…。

「うーん…普通でいいのに。」

「え?普通でいい?」
なんで?面白みも個性もないじゃん。

「そう、普通でいいの。だってその髪型って無理してるよね。個性ってそういうことじゃないと思うんだよね。」

戻りたい…普通に戻りたい…。
恥ずかしい…逃げたい…消えたい…。

俺は急に恥ずかしさに襲われた。

「うわあああああああああ!!!!」
俺は全力で走って学校を抜け出し、急いで家へ帰った。

自宅で髪剃りの音が家中に響く。
ボトッと髪の毛のブロックが落ちる音がした。

「もうツーブロックになんかしない…。」
俺は坊主になった。
髪剃りで残りの髪の毛を剃りながらこう思う。

あの店潰す…。
拳をぷるぷると震わしながら、俺は"あの"美容院を潰す決意をした。


へっくしょん!
あのときの美容師がくしゃみをした。
「なんか寒気がするな…。」



ご拝読いただきありがとうございます!
次作は「SNSのトラブル」です!

to be continued…

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