ショートケーキは半分こで。〜記憶を失った御曹司は強気な秘書を愛す〜

森本イチカ

12-3

「こんなに家が遠いと思ったのは初めてだ」
「か、海斗っ。そんなに急いで、身体は大丈夫なの!?」


 速る足に、焦りの声。海斗に握られた手は力強くて熱く、羽美は必死で海斗についていく。ボタンひとつで開く玄関ドアの解錠の遅さに海斗は焦りを隠しきれていない。


「入って」


 勢いよく扉を開いた海斗が羽美を引きずり込むように玄関に引き入れた。


「あっ、おじゃましま――んぅッ」


 身体を引き寄せられ玄関でキスを繰り返す。靴を脱ぐのももどかしいくらい、その場で何度もキスを交わした。


 キスをしている最中に着ていたコートを脱がされ、もつれ合いながら羽美はいつの間にか海斗に横抱きされている。ゴトンと音をたてて、履いていたパンプスが床に落ちた。


 見上げる海斗の表情はギラギラと瞳が光る、雄の顔をしている。自分の事を抱きたいと素直に表情に現れていて、嬉しくないはずがない。羽美は海斗の首に腕を回し、首筋にキスをした。


「そんな可愛いことされたら、もう止まんない」


 羽美はあっという間に寝室に連れ込まれ、ベッドの上で深く唇を重ねた。


「ん……、ん」


 覆いかぶさってきた海斗が羽美の上唇を舐める。


「羽美、好きだよ」
「私も、好き。大好き」


 ちゅっと音をたてて、軽くキスを交わす。海斗は着ていた服を全て脱ぎ捨てて、羽美の上で無駄な肉のない綺麗な裸体を晒した。羽美はそっと手を伸ばして海斗の腹の傷に優しく触れる。


「この傷があったから、背中のほくろがあったから海斗って確信をもてることが出来たの」


 羽美は海斗を下から見つめ、小さく微笑んだ。


「そっか……初めて羽美と出会った時、あ、大人になってからの話な。羽美が俺の身体の傷にキス、してくれただろう。あれ、凄い嬉しかった。傷だらけの俺でも、受け入れてくれる人がいるんだなって。多分、最初から羽美のこと好きになってたんだろうな」


 ギシリとベッドが軋み、羽美の上に海斗の身体が覆いかぶさる。唇にキスを落とされ、海斗の唇は徐々に首筋へと移って行く。羽美の服の中に海斗の手がスルリと入ってくると、なれた手付きでブラジャーのホックが外された。


「……やばい、なんか凄い緊張してきた」
「わ、私も」


 海斗のか細い声が羽美の身体に響く。なんだかそれが凄くむず痒い。身体を重ねることは初めてではないけれど、初めてのように緊張している。


「緊張してるけど、もう限界だから」


 海斗の低くて艶めいた声が羽美の中に流れ込んだ。身体がカッと熱くなり、海斗の声が媚薬のように体の中を駆け巡る。


 全部、全部、海斗と共有してこう。この気持ちいい快楽も。一緒に。





 息を乱す羽美の身体にぴったりと寄り添う海斗は羽美の頭を撫でながら、穏やかで優しい瞳で羽美を見つめている。


「羽美、朝になったらケーキを買いに行こう。大人になったらホールケーキを買うって約束してたもんな」


 幼きあの日に二人で話した些細な会話の中の約束。そんな小さなことまで思い出してくれたなんて。嬉しくて、胸がギュッと熱くなった。


「嬉しい。覚えててくれたんだ」


 羽美の声は喘ぎすぎて掠れている。


「ははっ、声凄い渇れてる。水もってきてやるから待ってな」
 

 ベッドから降りようとする海斗の腕を羽美は掴んだ。


「まだいい。もうちょっとここにいて。もっと海斗にくっついていたいから」


 海斗は一瞬目を大きくして驚いた顔を見せたものの、すぐに布団の中に戻り、羽美を抱き寄せた。


「そんな可愛いこと言ったら、もう一回抱きたくなるだろ」


 耳朶をくすぐるような照れた声。


 羽美は顔をあげ、海斗の唇にちょんっとキスをした。耳まで真っ赤に染めた海斗が可愛くて仕方ない。


「いいよ。もう一回、しよ」


 ぐるんっと海斗の上に乗った羽美は海斗の身体の無数の傷にキスをした。


 生きて、自分の前にもう一度現れてくれて、ありがとう。

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