ショートケーキは半分こで。〜記憶を失った御曹司は強気な秘書を愛す〜

森本イチカ

6-3

「う〜ん、ぷるっぷるで美味しいぃ」


 海斗の目の前で羽美は頬を緩ませ大きな口でわらび餅を堪能している。羽美は本当に食べ物を美味しいそうに食べるので一緒にいると気持ちがいい。初めて一緒に食べたショートケーキも、その後に一緒に食べたイタリアンに季節限定のデザート。今はきな粉と黒蜜がたっぷりかかったわらび餅を至福のひとときのように羽美は上機嫌で堪能している。


(確かに俺、きな粉昔は嫌いだったんだよな……)


 海斗は羽美のなにげない発言に驚いた。きな粉が嫌いだったなんて知っているのは両親だけだ。不思議に思うと羽美は夢で見たのかなとか意味不明なことを言い出したのだ。その時はこいつ本当に面白いなと思ったけれど後々気になってきた。悶々としている海斗をよそに羽美はデザートを楽しんでいる。


「本郷さん、食べないんですか?」


 なかなかわらび餅に手をつけていなかった海斗を羽美は首をかしげて見つめる。


(うっ、か、可愛い……)


 普段はツンとした容姿の羽美だがふと見せる可愛らしい一面を見るたびに海斗の心臓が太い矢で撃ち抜かれていた。海斗は右手で胸元をつかんだ。


「ほ、本郷さん!? 苦しいんですか!?」


 羽美は海斗が苦しんでるのかと勘違いして立ち上がり側に寄ってくる。


(あれ……こんな光景……見たことある……?)


 ぼんやりと海斗の脳裏に何かが思い出せそうな感覚が湧き上がってきた。


 そう、誰かに――


 あと一歩でなにか思い出せそうだったのに、激しい頭痛が海斗を襲った。頭が割れるように痛い。


「ぁあっ……っ――」


 海斗は痛みに堪えながらその場に蹲る。身体を小さくして頭を抑えている海斗に羽美は「大丈夫ですか!?」と声を掛けながらスマートフォンを手に取った。


「きゅ、救急車っ……」


 青ざめた羽美の顔が海斗の視界に映る。海斗は手を伸ばし、羽美の操作する指を止めた。


「……大丈夫、いつものことだから。少し休めばよくなるから、心配、かけてごめんな」


 海斗は無理やり笑って起き上がる。堪えていても痛くて表情が歪んだ。


「大丈夫なわけないでしょう! こんなところで強がらなくて良い!」


 羽美が鼻の頭を真っ赤にして海斗に怒鳴った。


「お、おおくら……?」


 羽美は海斗の両肩を持ち充血した瞳で真っ直ぐに見つめてきた。


「あなたは、我慢のしすぎなんです! もっと周りに頼って良い。痛いなら痛いってちゃんと言っていいんです。我慢しないで……」


 羽美は海斗を強く抱きしめた。彼女は俺のために泣いているのだろうか? 抱きしめられた身体はじわじわと温度を上げていく。


(あれ……痛く、ない?)


 あんなに激しい頭痛が嘘のように引いていた。いつもなら鎮痛剤を飲んでしばらくは動けないのに。


 本当に不思議な存在だ。


(もう、認めざる負えないか……)


 海斗はふっと諦めたように口角を上げ、肩を震わせる羽美の背中に両手を回す。


「もう大丈夫だから、泣くなよ」


 海斗は抱きしめた羽美の耳元で囁いた。 


「心配してくれて、ありがとう」


 自分にとって特別なこの存在を海斗は愛おしげに抱きしめた。

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