ショートケーキは半分こで。〜記憶を失った御曹司は強気な秘書を愛す〜
5-2
「着いちゃった……」
自宅に郵送されてきた社員証を鞄から取り出しピッとかざしてオフィスに入る。本郷不動産は自社ビルにオフィスを構えており三十二階建ての高層ビルだ。羽美はドキドキしながら社内を歩いた。一番下の階はオフィスに入る入口の他にもう一つ、隣のフロアが一般不動産になっており、アパートなどの賃貸住宅を扱っている。階が上がるに連れてどんどん規模の大きい不動産事業のフロアになっていく流れだ。もちろん社長室は最上階の三十二階。羽美はエレベーターに乗り三十二階のボタンを押した。
三十二階につき、降りると清掃会社も入っているらしく、掃除のおばちゃんが廊下を綺麗にモップがけしてくれていた。「お疲れさまです」と一声挨拶を交わし、羽美は社長室と書かれているドアに手を伸ばす。コンコンと軽くドアを叩くと中から「どうぞ〜!」と陽気で明るい声が聞こえてきた。確実に海斗の声ではない。
「し、失礼致します」
緊張しながらもドアノブを握り扉をあけると一昨日の夜、愛し合った(いや、私だけがそう思ってた)相手、本郷海斗が「おはようございます」と余裕の笑みで羽美に笑いかける。羽美はあの夜のことを思い出し心臓をカリッと引っかかれたように小さく痛み、同時にキュンと子宮が反応してしまった。きちんと仕事と線引しなければと自分を落ち着かせるために大きく息を吸い込んだ。
「お、おはようございます! 今日からお世話になります大倉羽美と申します。精一杯がんばりますのでよろしくお願いしましゅ」
……しゅ?
やってしまった、と思った時にはもう既に時遅し。海斗もクスクスと笑い、面接時に海斗の隣にいた先輩秘書の安藤でさえ笑っていた。
(は、恥ずかしいぃぃい!)
カーッと爪先から頭のてっぺんまで一瞬で体温が上がった。
「あははっ、出だしから最高すぎ。大倉さん、おはようございます。社長秘書を勤めいてます安藤晴美です。これから私のサポート役として色々教えていくからよろしくね」
安藤がすっと手を伸ばし握手を求めてきた。羽美はすかさず手を取り「お願いします!」と大きな声を出す。
「うん、元気があってよろしい。ね、社長」
「だな。じゃあ今日から安藤についてたくさん教わってくれ。大倉には色々期待してるからな」
海斗からの期待の眼差しが嬉しい。羽美は緊張と嬉しさで「はいっ!」と声を大にして返事をした。
「よし、じゃあ大倉さん。秘書室を案内するね」
「よ、よろしくお願いします」
先を歩く安藤についていきながらチラッと海斗の方を見ると目が合った。優しい笑みでこちらを見ている。頭の中には海斗の三ヶ月後にお見合い結婚問題発言がチラついてはいるけれど、こうして毎日会えるんだと嬉しくなり羽美の頬は緩んだ。
社長室の隣にある秘書室に安藤に続いて入る。全体的にブラウンで統一されている部屋は壁一面が本棚になっていてたくさんの本や資料が収納されていた。キッチンシンクも設備されていてお茶をいれたりするのに便利そうだ。
「すごい、キッチンまでついてるんですね」
羽美は部屋中を見渡し、感動が声から漏れてしまう。
「そうなの。結構便利なのよね。社長は朝一でコーヒーを飲むからここで毎朝淹れるの。これからは大倉さんにお願いしようかな」
「はい。朝一で社長はコーヒーっと」
羽美はすかさずメモを取り出し書き込んだ。朝一社長コーヒー。
「偉い。デジタルの時代とはいえ、手書きメモは大事よね。よし、じゃあついでに一日の流れを簡単に教えるからメモっちゃおうか」
「はいっ。お願いします!」
ソファに座り安藤の口から流れるように言われる一日の流れを必死に書き留める。朝一のコーヒーに続き社長室の掃除を済ませてメールチェック、スケジュールの管理調整をし、電話対応も忘れない。来客予定のあるときはお菓子の用意も忘れない。基本社長について回る、と。
「会食によく使うお店とか、よく買うお菓子のお店リストとかは後で教えるわね」
「はい、お願いします」
「じゃあ、大倉さんを正式採用ってことで色々と書類書いてもらっていいかしら? 人事部に持っていかないといけないからね」
ずらりと並べられた書類に片っ端からサインし、羽美は正式に本郷不動産の社長秘書となった。
「うん。じゃあ書類は後で私の方から人事部に出しておくわね。これからびしばし教えていくわよ」
羽美は「はい」とやる気に満ちた返事を返し、明るく気さくな安藤のお陰で少しずつ緊張がほぐれてきた。
色々な物の場所や、会社資料などたくさんのことに目を通していたらあっという間にランチタイムになっていた。
「社長、ランチなんですけど大倉さんと近くのカフェに行きますけど社長はどうします?」
「いや、俺はいいよ。そのかわり帰りにサンドイッチかなにか買ってきてもらえるか?」
「わかりました。じゃあ大倉さん行きましょっか」
「あ、でも社長がお昼まだなのにいいんですか?」
社長の海斗よりも先に休憩をもらうのはなんだか気が引けてしまう。
「大倉、俺のことは気にしないでいってきな」
申し訳無さそうにしていた羽美の態度に気づいたのか海斗は気にするなと送り出してくれる。けれど、自分は新入社員、気になってしまうのは当然だ。
「いいのよ大倉さん、社長は普段会食とかで外食ばっかりだからお昼はゆっくり部屋で食べたいってだけだから。ですよね? 社長」
海斗は「そーいうこと」と笑った。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
安藤に誘われ会社近くのランチが凄く美味しいというカフェに二人で食べに来た。オーガニック食材を使った自然食カフェ。自然食というだあけあってカフェ内は緑豊かで観葉植物などがたくさん置かれていた。
丸い木目の綺麗なテーブル席に座り、何が良いのか分からず羽美はとりあえず本日のオススメランチを頼んだ。
「ねぇ、大倉さんって社長の知り合いか何か?」
ニコニコしながら聞いてくる安藤の唐突な質問に言葉が詰まった。ここは、なんて返すのが正解なのだろう。当たり障りのないように顔見知り程度です、が一番無難だろうか。さすがに昔からの知り合いです、とは言えない。
「な、なんでですか?」
ここはまず相手の出方を見てから考えよう、と羽美はとぼけてみせた。
「ん〜、女の勘ってやつかな。あんなに楽しそうに笑う社長なんて珍しいし、社員の前では猫かぶって丁寧に話してるのに大倉さんには最初っから俺って自分の事言ってたしね。なにより、大倉さんの社長を見る目が乙女なのよ」
安藤は人差し指を出し「お、と、め」とはっきりと言った。
「おおおおおおお乙女ですか!?」
羽美は口元を両手で抑えた。有能秘書の観察眼とは尖すぎるのもだ。
出社初日で仕事とプライベート分けられてない!? 顔から海斗が好きって溢れちゃってる!?
「ははっ、焦るな焦るな。恋する乙女よ。私は恋する乙女の味方よ、うちは社内恋愛オッケーだしね」
「……うぅ。乙女なんて歳じゃないですよ」
「私に比べたら若い若い! 女は何歳になっても乙女なのよ。私だっていい歳してるけど旦那のこと大好きだもの」
はははと笑う安藤の頬が少し赤い。素直に好きだと言える安藤が凄く可愛いと思えた。
「旦那さん幸せ者ですね」
「だといいんだけどね〜、旦那うちの会社の社員だから今度会ったら紹介するわね。小学生の頃からの幼馴染なんだけど、まさか、会社まで一緒とか我ながらキモいわよね」
「小学生からだなんて素敵ですね。憧れちゃいます」
羽美は心の底からそう思っていた。小学生の頃からと自分と海斗に境遇が似ているからだろうか。
運ばれてきた前菜のサラダが羽美と安藤の前に置かれ安藤がフォークを持ったことを確認してから羽美もフォークを持った。
「大倉さんは? 面接の時にでも社長に一目惚れしちゃった感じ? あ、でもこれって聞いたらセクハラ案件?」
「いえ、大丈夫ですよ。私、社長のこと好きって顔にでちゃってますかね?」
安藤はパクリとサニーレタスを一口食べてから口を開いた。
「ん〜まぁ私から見たらバレバレだけど、他の社員は一緒にいる訳でもないし気づかないと思うよ。ってやっぱり大倉さん社長のこと好きなんだねぇ」
もう完全に安藤にはバレていると諦めた羽美は「大好きなんです」と返事を返した。
「はっ、素直で可愛すぎるっ! これは社長も気にいるわけだわ〜」
安藤はタイミングよく運ばれてきたランチプレートの鶏肉にナイフを刺しながらうんうんと頷いている。
「社長が気に入る、ですか?」
羽美は驚いて安藤を見た。聞き捨てならない言葉に心臓が期待でドキドキしてしまう。
安藤はもぐもぐと鶏肉を噛んで飲み込んだ。
「どう見ても社長は大倉さんのこと気に入ってるよね。いつもと違って社長の周りに花が飛んじゃってるもの。浮足たってるね、完全に」
「そう、なんですか?」
嬉しくて顔が、とろんとふやけそうになる。
「もう何年社長の秘書やってると思う? ってもまだ三年だけどね。でも三年も毎日一緒にいればすぐ気づいちゃうのよ。あ、でも私は旦那一筋だから心配しないでね」
毎日一緒にいると聞いて羽美の顔色が少し不安になったのを安藤はすぐに気づいたのか自分は旦那だけだからとすかさずフォローを入れてきた。
「大倉さん、私は恋する乙女の味方だからね! 応援してるわよ!」
「ふふ、ありがとうございます。安藤さんが応援してくれてると思うと恋も仕事も頑張れそうです」
「そうよ! 頑張りましょう。もう毎日好きって伝えちゃうくらいでいいのよって、なんだか恋愛だけ応援してるアドバイスになっちゃったわね」
「ははっ、仕事もしっかり頑張りますっ!」
海斗が自分の事を本当に気に入ってくれているのかはわからないけれど、安藤の気遣いが凄くうれしかった。
(毎日好きって伝えるか……それってすごくいいかも。気持ちを伝えるって大切なことだよね)
安藤となら仲良く仕事をやっていけそうだ、そう思いながら羽美は残りのご飯を頬張った。
「よし、じゃあ午後も頑張りましょう」
「はい、お願いします」
海斗へのサンドイッチをテイクアウトし、会社に戻るとスマホを肩に挟みながら電話対応し、パソコンを打っている海斗と目が合った。ドクンと胸が高鳴る。安藤がデスクの上にサンドイッチを置くと海斗は口パクで「ありがとう」と言いながら仕事を進めていた。大きな不動産会社の社長。やはり想像以上に忙しそうだ。
自宅に郵送されてきた社員証を鞄から取り出しピッとかざしてオフィスに入る。本郷不動産は自社ビルにオフィスを構えており三十二階建ての高層ビルだ。羽美はドキドキしながら社内を歩いた。一番下の階はオフィスに入る入口の他にもう一つ、隣のフロアが一般不動産になっており、アパートなどの賃貸住宅を扱っている。階が上がるに連れてどんどん規模の大きい不動産事業のフロアになっていく流れだ。もちろん社長室は最上階の三十二階。羽美はエレベーターに乗り三十二階のボタンを押した。
三十二階につき、降りると清掃会社も入っているらしく、掃除のおばちゃんが廊下を綺麗にモップがけしてくれていた。「お疲れさまです」と一声挨拶を交わし、羽美は社長室と書かれているドアに手を伸ばす。コンコンと軽くドアを叩くと中から「どうぞ〜!」と陽気で明るい声が聞こえてきた。確実に海斗の声ではない。
「し、失礼致します」
緊張しながらもドアノブを握り扉をあけると一昨日の夜、愛し合った(いや、私だけがそう思ってた)相手、本郷海斗が「おはようございます」と余裕の笑みで羽美に笑いかける。羽美はあの夜のことを思い出し心臓をカリッと引っかかれたように小さく痛み、同時にキュンと子宮が反応してしまった。きちんと仕事と線引しなければと自分を落ち着かせるために大きく息を吸い込んだ。
「お、おはようございます! 今日からお世話になります大倉羽美と申します。精一杯がんばりますのでよろしくお願いしましゅ」
……しゅ?
やってしまった、と思った時にはもう既に時遅し。海斗もクスクスと笑い、面接時に海斗の隣にいた先輩秘書の安藤でさえ笑っていた。
(は、恥ずかしいぃぃい!)
カーッと爪先から頭のてっぺんまで一瞬で体温が上がった。
「あははっ、出だしから最高すぎ。大倉さん、おはようございます。社長秘書を勤めいてます安藤晴美です。これから私のサポート役として色々教えていくからよろしくね」
安藤がすっと手を伸ばし握手を求めてきた。羽美はすかさず手を取り「お願いします!」と大きな声を出す。
「うん、元気があってよろしい。ね、社長」
「だな。じゃあ今日から安藤についてたくさん教わってくれ。大倉には色々期待してるからな」
海斗からの期待の眼差しが嬉しい。羽美は緊張と嬉しさで「はいっ!」と声を大にして返事をした。
「よし、じゃあ大倉さん。秘書室を案内するね」
「よ、よろしくお願いします」
先を歩く安藤についていきながらチラッと海斗の方を見ると目が合った。優しい笑みでこちらを見ている。頭の中には海斗の三ヶ月後にお見合い結婚問題発言がチラついてはいるけれど、こうして毎日会えるんだと嬉しくなり羽美の頬は緩んだ。
社長室の隣にある秘書室に安藤に続いて入る。全体的にブラウンで統一されている部屋は壁一面が本棚になっていてたくさんの本や資料が収納されていた。キッチンシンクも設備されていてお茶をいれたりするのに便利そうだ。
「すごい、キッチンまでついてるんですね」
羽美は部屋中を見渡し、感動が声から漏れてしまう。
「そうなの。結構便利なのよね。社長は朝一でコーヒーを飲むからここで毎朝淹れるの。これからは大倉さんにお願いしようかな」
「はい。朝一で社長はコーヒーっと」
羽美はすかさずメモを取り出し書き込んだ。朝一社長コーヒー。
「偉い。デジタルの時代とはいえ、手書きメモは大事よね。よし、じゃあついでに一日の流れを簡単に教えるからメモっちゃおうか」
「はいっ。お願いします!」
ソファに座り安藤の口から流れるように言われる一日の流れを必死に書き留める。朝一のコーヒーに続き社長室の掃除を済ませてメールチェック、スケジュールの管理調整をし、電話対応も忘れない。来客予定のあるときはお菓子の用意も忘れない。基本社長について回る、と。
「会食によく使うお店とか、よく買うお菓子のお店リストとかは後で教えるわね」
「はい、お願いします」
「じゃあ、大倉さんを正式採用ってことで色々と書類書いてもらっていいかしら? 人事部に持っていかないといけないからね」
ずらりと並べられた書類に片っ端からサインし、羽美は正式に本郷不動産の社長秘書となった。
「うん。じゃあ書類は後で私の方から人事部に出しておくわね。これからびしばし教えていくわよ」
羽美は「はい」とやる気に満ちた返事を返し、明るく気さくな安藤のお陰で少しずつ緊張がほぐれてきた。
色々な物の場所や、会社資料などたくさんのことに目を通していたらあっという間にランチタイムになっていた。
「社長、ランチなんですけど大倉さんと近くのカフェに行きますけど社長はどうします?」
「いや、俺はいいよ。そのかわり帰りにサンドイッチかなにか買ってきてもらえるか?」
「わかりました。じゃあ大倉さん行きましょっか」
「あ、でも社長がお昼まだなのにいいんですか?」
社長の海斗よりも先に休憩をもらうのはなんだか気が引けてしまう。
「大倉、俺のことは気にしないでいってきな」
申し訳無さそうにしていた羽美の態度に気づいたのか海斗は気にするなと送り出してくれる。けれど、自分は新入社員、気になってしまうのは当然だ。
「いいのよ大倉さん、社長は普段会食とかで外食ばっかりだからお昼はゆっくり部屋で食べたいってだけだから。ですよね? 社長」
海斗は「そーいうこと」と笑った。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
安藤に誘われ会社近くのランチが凄く美味しいというカフェに二人で食べに来た。オーガニック食材を使った自然食カフェ。自然食というだあけあってカフェ内は緑豊かで観葉植物などがたくさん置かれていた。
丸い木目の綺麗なテーブル席に座り、何が良いのか分からず羽美はとりあえず本日のオススメランチを頼んだ。
「ねぇ、大倉さんって社長の知り合いか何か?」
ニコニコしながら聞いてくる安藤の唐突な質問に言葉が詰まった。ここは、なんて返すのが正解なのだろう。当たり障りのないように顔見知り程度です、が一番無難だろうか。さすがに昔からの知り合いです、とは言えない。
「な、なんでですか?」
ここはまず相手の出方を見てから考えよう、と羽美はとぼけてみせた。
「ん〜、女の勘ってやつかな。あんなに楽しそうに笑う社長なんて珍しいし、社員の前では猫かぶって丁寧に話してるのに大倉さんには最初っから俺って自分の事言ってたしね。なにより、大倉さんの社長を見る目が乙女なのよ」
安藤は人差し指を出し「お、と、め」とはっきりと言った。
「おおおおおおお乙女ですか!?」
羽美は口元を両手で抑えた。有能秘書の観察眼とは尖すぎるのもだ。
出社初日で仕事とプライベート分けられてない!? 顔から海斗が好きって溢れちゃってる!?
「ははっ、焦るな焦るな。恋する乙女よ。私は恋する乙女の味方よ、うちは社内恋愛オッケーだしね」
「……うぅ。乙女なんて歳じゃないですよ」
「私に比べたら若い若い! 女は何歳になっても乙女なのよ。私だっていい歳してるけど旦那のこと大好きだもの」
はははと笑う安藤の頬が少し赤い。素直に好きだと言える安藤が凄く可愛いと思えた。
「旦那さん幸せ者ですね」
「だといいんだけどね〜、旦那うちの会社の社員だから今度会ったら紹介するわね。小学生の頃からの幼馴染なんだけど、まさか、会社まで一緒とか我ながらキモいわよね」
「小学生からだなんて素敵ですね。憧れちゃいます」
羽美は心の底からそう思っていた。小学生の頃からと自分と海斗に境遇が似ているからだろうか。
運ばれてきた前菜のサラダが羽美と安藤の前に置かれ安藤がフォークを持ったことを確認してから羽美もフォークを持った。
「大倉さんは? 面接の時にでも社長に一目惚れしちゃった感じ? あ、でもこれって聞いたらセクハラ案件?」
「いえ、大丈夫ですよ。私、社長のこと好きって顔にでちゃってますかね?」
安藤はパクリとサニーレタスを一口食べてから口を開いた。
「ん〜まぁ私から見たらバレバレだけど、他の社員は一緒にいる訳でもないし気づかないと思うよ。ってやっぱり大倉さん社長のこと好きなんだねぇ」
もう完全に安藤にはバレていると諦めた羽美は「大好きなんです」と返事を返した。
「はっ、素直で可愛すぎるっ! これは社長も気にいるわけだわ〜」
安藤はタイミングよく運ばれてきたランチプレートの鶏肉にナイフを刺しながらうんうんと頷いている。
「社長が気に入る、ですか?」
羽美は驚いて安藤を見た。聞き捨てならない言葉に心臓が期待でドキドキしてしまう。
安藤はもぐもぐと鶏肉を噛んで飲み込んだ。
「どう見ても社長は大倉さんのこと気に入ってるよね。いつもと違って社長の周りに花が飛んじゃってるもの。浮足たってるね、完全に」
「そう、なんですか?」
嬉しくて顔が、とろんとふやけそうになる。
「もう何年社長の秘書やってると思う? ってもまだ三年だけどね。でも三年も毎日一緒にいればすぐ気づいちゃうのよ。あ、でも私は旦那一筋だから心配しないでね」
毎日一緒にいると聞いて羽美の顔色が少し不安になったのを安藤はすぐに気づいたのか自分は旦那だけだからとすかさずフォローを入れてきた。
「大倉さん、私は恋する乙女の味方だからね! 応援してるわよ!」
「ふふ、ありがとうございます。安藤さんが応援してくれてると思うと恋も仕事も頑張れそうです」
「そうよ! 頑張りましょう。もう毎日好きって伝えちゃうくらいでいいのよって、なんだか恋愛だけ応援してるアドバイスになっちゃったわね」
「ははっ、仕事もしっかり頑張りますっ!」
海斗が自分の事を本当に気に入ってくれているのかはわからないけれど、安藤の気遣いが凄くうれしかった。
(毎日好きって伝えるか……それってすごくいいかも。気持ちを伝えるって大切なことだよね)
安藤となら仲良く仕事をやっていけそうだ、そう思いながら羽美は残りのご飯を頬張った。
「よし、じゃあ午後も頑張りましょう」
「はい、お願いします」
海斗へのサンドイッチをテイクアウトし、会社に戻るとスマホを肩に挟みながら電話対応し、パソコンを打っている海斗と目が合った。ドクンと胸が高鳴る。安藤がデスクの上にサンドイッチを置くと海斗は口パクで「ありがとう」と言いながら仕事を進めていた。大きな不動産会社の社長。やはり想像以上に忙しそうだ。
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書籍化作品
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