ショートケーキは半分こで。〜記憶を失った御曹司は強気な秘書を愛す〜

森本イチカ

3-1

 寝不足の目を擦りながら耳元でうるさいアラームを羽美は指を連打して消した。昨日の夜はなかなか寝付けず、眠い。小さな1LDKのアパート。南向きの窓から差し込む朝日がカーテンの隙間から光の筋をつくって覗いてくる。


 いつもなら布団の中でしばらくもぞもぞグダグダしてしまう羽美も今日は違った。ハッと起き上がりスマートフォンを手に取ると自然と笑みがこぼれてきた。笑みというよりニヤケに近いかもしれないが。


 本郷海斗と記された連絡先。昨日の夜、羽美は本郷にお礼の連絡をするつもりだったが打っては消してを繰り返し、いつの間にか寝落ちてしまっていたようだ。スマートフォンには今日はありがとうございました、と打ち掛けの文章が残っている。むしろ途中で寝ぼけて変なことを送っていなくて良かったと羽美はほっと胸を撫で下ろした。


「あ〜夢じゃないんだ……」


 昨日、本郷から送られてきた変な棒人間スタンプを見てつい頬が緩んでしまう。


「海斗……」


 羽美は寂しげにボソリと呟いた。海斗のことは忘れていない。今も会いたいと思っている。好きで好きで片時も頭の中から消えたことはない。頭の中は海斗しかいなかったはずなのに、昨日から違う人物が羽美の頭の中に居座りはじた。本郷海斗。羽美の初恋の相手、中嶋海斗によく似た男。なんだか浮気をしてしまったような罪悪感を羽美は少し抱いていた。


「って、っもうこんな時間!? やばっ!」


 羽美はベットから飛び降りた。今日は就職面接の日だ。羽美は以前勤めていた会社でも秘書として勤務していたため、少しでも身につけたスキルを活かそうと秘書を募集している会社に就職先を絞り、今日は本郷不動産の面接日。既に四社面接で落ちているので、今日が正念場とも言えるであろう。 


「よし、気分を切り替えて頑張ろう!」


 羽美はリクルートスーツに見を包みシャンっと胸を張って家を出た。

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