ショートケーキは半分こで。〜記憶を失った御曹司は強気な秘書を愛す〜
2-2
こんなにも海斗に似た人と出合えたのは海斗が羽美の目の前から居なくなった十七年間で初めての出来事だ。こんな滅多に無いチャンスを今逃してはいけないと、羽美の心が叫んでいる。羽美は慌てて声を小さくし両手を合わせた。
「あぁ、ごめんなさい! いきなり気持ち悪かったですよね! でも貴方もショートケーキが欲しかったみたいなんで、でも私も食べたくて、だから、その……ごめんなさい、変なこと言ってしましいました」
ちらっと相手の顔を覗くと男性はプッと吹き出し笑い出した。ああ、やっぱり笑った顔が海斗によく似ている。もうこの男性はきっと海斗だと羽美の本能がそう感じていた。小学五年生の時、急に居なくなって十七年間探し求めていた大好きな羽美の初恋の相手が急に大人になって現れたのだ。
「だ、駄目ですか?」
羽美は恐る恐る返事を聞いた。
「ああ、すいません。つい面白くて笑ってしまいました。うん、いいですよ」
「いいですよ、ってことは……?」
「一緒にケーキを食べましょうって事です」
ニコリと笑った海斗に似た男性は店員に「このショートケーキをあっちの席にお願いします」とスマートに頼んだ。
イートインスペースには既に何人かお客さんが座っている。四席あるスペースが羽美と海斗に似た彼で埋まり、満席だ。大きな窓ガラスからは柔らかな日差しが差し込み、小さな空間ながらも開放感に溢れたイートインスペースにも数体妖精の置物が置かれている。可愛らしい赤いドット柄のテーブルクロスが敷かれた四人がけテーブルに二人は向かい合うように座り、羽美はドキドキと高鳴る心臓を必死で落ち着かせようとしていた。
「あ、あの、本当にいいんですか?」
羽美は本当にいいのだろうかと不安で最終確認を取る。
「もちろんですよ。ちょうど時間もあるんでね」
「そ、それはよかったです。ありがとうございます」
小さく微笑んだ彼は絶対にモテるだろう容姿をしていた。綺麗な黒髪に、目鼻立ちのハッキリとした整った顔。高身長で、スーツがよく似合う。男性の赤みが強く薄い唇は口角を少し上げてなんだか楽しそうな表情をしていた。
今、自分の目の前にいる海斗によく似た男性の正体が羽美は気になってしょうがない。正直、海斗本人だと期待している自分がいる。
「あっ、あの、お名前を伺ってもいいですか?」
「もちろん。本郷海斗と申します」
「……か、いと」
名前を聞いた瞬間、息がつまり心臓がばくんと飛び出す勢いで高鳴った。異常な速さでドクドクと脈打っている。この人はきっと海斗だ。ずっとずっと会いたくて、小学五年生の時に行方が分からなくなった羽美の初恋の相手。長年探し求めていた人。名字は違うけれど、お母さんが再婚したのだろうか? まさか結婚!? と思ったが左手の薬指には指輪はついていない。彼の名前を聞いた瞬間から自分の本能がこの人は海斗だと身体の奥底から震えて、泣き叫んでいる。十七年ずっと会いたくて思い続けていたのだ、間違えるはずがない。
「……っ、海斗! 私よ、羽美よ! 」
羽美は嬉しさのあまりテーブルに両手をつけ、乗り上げる勢いで立ち上がった。
羽美、会いたかった! そう言ってもらえると思っていた羽美の期待する答えとは裏腹に男性はキョトンと不思議そうな顔をしている。男性はなにかを考えているのか目線を上にあげ、二人の間に沈黙が数秒続いた。もしかして羽美? そう言われることをこの沈黙の間でさえ少し期待してしまっている自分がる。けれど男性は申し訳なさそうに苦笑いした。
「……あの、人違いじゃないですか?」
「へ?」
素っ頓狂な声が出た。
「すいません、貴女のような美人な方のことを忘れるはずがないと思うんです。思い出そうとしたけど、やっぱり記憶にはなくて。そんなに私は海斗って人に似ているのかな? 名前は確かに同じみたいだけど人違いだと思いますよ」
か、海斗じゃない……?
「ご、ごめんなさい! 凄く私の探していた人に似てて、私舞い上がっちゃって。そうですよね、十七年も会ってないんですもん、間違えるわけだぁ」
はははと無理やり笑う。自分で墓穴を掘っておいておきながら心臓を切り裂かれたような痛みが走った。海斗じゃなかった絶望感と堂々と人間違いをしてしまい恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。こんなにも海斗に似ているのに違ったなんて。やっぱり小学生の時の海斗の面影と、大人になった今じゃ見た目もだいぶ変わっているだろう。どうしてそんな簡単なことに気づかなかったのだろうか。
今、自分の目の前にいる座っている人が同じ海斗と言う名前だけであって、羽美の探し求めている中嶋海斗ではなかった。確かに、この人は自分の事を本郷海斗と名乗っていたのだから。
「本当にすいませんでした。ずっと探していた人と貴方がそっくりだったもので。気分悪くされましたよね、すいません」
羽美は椅子に座り直して深く頭を下げた。
「顔をあげてください」と優しい声が頭上に降り注がれ、ゆっくりと視線を正面に戻す。もう一度本郷海斗と名乗る男性を見た。やっぱり似ている。こんなにも似た人が存在するなんて。人間ってのは三人似ている人が存在するって言うのは本当だったんだと羽美はしみじみ思った。
「そんなに私と貴女の探している人は似ているんですか?」
海斗に似た男性は興味津々な目で羽美を見てくる。
(うう、どうしよう。海斗じゃないって分かってもすごく似てるからか、見られてるだけで心臓が破裂しそう)
羽美は控えめに「似てます」と小さく答えた。
「そっか〜、そんなに似てるんですね。もしかしてその人と勘違いしてたから誘ってくれたんですか?」
「うっ……そうなんです」
「ははっ、素直な人ですね。人違いだったみたいで逆に申し訳ない。だったら私は席を外したほうがいいですかね?」
椅子から立ち上がろうとしている海斗に似た本郷海斗と名乗る男性を羽美は咄嗟に「待ってください!」と引き止めた。海斗じゃないと分かったはずなのに、なぜか目の前にいる本郷海斗のことが気になってしまっている。
「せせせせ、せっかくなんで一緒に食べませんか? 私も貴方もショートケーキが食べたいわけですし。人間違いしてしまったお詫びも兼ねて」
つい大きい声で話してしまい、だんだんと恥ずかしさが勝り羽美は意気消沈していった。純粋にケーキが食べたいとか言って、本当は海斗によく似た本郷の事が知りたかっただけ。人違いと言われても心の奥底では納得していない自分がいるのだ。
「いいんですか? 私は貴女の探している海斗さんではないんですよ?」
「いいんです! いつか絶対会えるって私は信じているんで。なので今は本郷さんとケーキを食べたい、という訳なの……です」
あれ? これってなんか変な発言だよね? 好きな人がいるけど、貴方のことも気になります。的な!?
発言した後に物凄く優柔不断な女発言していることに羽美の顔は青ざめた。
「あああああ、あのっ、そのっ」
「ははっ、落ち着いてください。じゃあ、まずは貴女の名前も伺ってもよろしいですか?」
本郷の声ではっと我に返り「大倉羽美です!」と勢いよく答えた。
「羽美……素敵なお名前ですね」
今自分の名前を褒めてくれた男性はずっとずっと大好きな海斗では無い。そのはずなのに彼にボソリと呟いて呼ばれた名前でも嬉しくてキュッと胸が締め付けられるようだった。頬が紅潮しているのが自分でも分かるくらい、熱い。
「あぁ、ごめんなさい! いきなり気持ち悪かったですよね! でも貴方もショートケーキが欲しかったみたいなんで、でも私も食べたくて、だから、その……ごめんなさい、変なこと言ってしましいました」
ちらっと相手の顔を覗くと男性はプッと吹き出し笑い出した。ああ、やっぱり笑った顔が海斗によく似ている。もうこの男性はきっと海斗だと羽美の本能がそう感じていた。小学五年生の時、急に居なくなって十七年間探し求めていた大好きな羽美の初恋の相手が急に大人になって現れたのだ。
「だ、駄目ですか?」
羽美は恐る恐る返事を聞いた。
「ああ、すいません。つい面白くて笑ってしまいました。うん、いいですよ」
「いいですよ、ってことは……?」
「一緒にケーキを食べましょうって事です」
ニコリと笑った海斗に似た男性は店員に「このショートケーキをあっちの席にお願いします」とスマートに頼んだ。
イートインスペースには既に何人かお客さんが座っている。四席あるスペースが羽美と海斗に似た彼で埋まり、満席だ。大きな窓ガラスからは柔らかな日差しが差し込み、小さな空間ながらも開放感に溢れたイートインスペースにも数体妖精の置物が置かれている。可愛らしい赤いドット柄のテーブルクロスが敷かれた四人がけテーブルに二人は向かい合うように座り、羽美はドキドキと高鳴る心臓を必死で落ち着かせようとしていた。
「あ、あの、本当にいいんですか?」
羽美は本当にいいのだろうかと不安で最終確認を取る。
「もちろんですよ。ちょうど時間もあるんでね」
「そ、それはよかったです。ありがとうございます」
小さく微笑んだ彼は絶対にモテるだろう容姿をしていた。綺麗な黒髪に、目鼻立ちのハッキリとした整った顔。高身長で、スーツがよく似合う。男性の赤みが強く薄い唇は口角を少し上げてなんだか楽しそうな表情をしていた。
今、自分の目の前にいる海斗によく似た男性の正体が羽美は気になってしょうがない。正直、海斗本人だと期待している自分がいる。
「あっ、あの、お名前を伺ってもいいですか?」
「もちろん。本郷海斗と申します」
「……か、いと」
名前を聞いた瞬間、息がつまり心臓がばくんと飛び出す勢いで高鳴った。異常な速さでドクドクと脈打っている。この人はきっと海斗だ。ずっとずっと会いたくて、小学五年生の時に行方が分からなくなった羽美の初恋の相手。長年探し求めていた人。名字は違うけれど、お母さんが再婚したのだろうか? まさか結婚!? と思ったが左手の薬指には指輪はついていない。彼の名前を聞いた瞬間から自分の本能がこの人は海斗だと身体の奥底から震えて、泣き叫んでいる。十七年ずっと会いたくて思い続けていたのだ、間違えるはずがない。
「……っ、海斗! 私よ、羽美よ! 」
羽美は嬉しさのあまりテーブルに両手をつけ、乗り上げる勢いで立ち上がった。
羽美、会いたかった! そう言ってもらえると思っていた羽美の期待する答えとは裏腹に男性はキョトンと不思議そうな顔をしている。男性はなにかを考えているのか目線を上にあげ、二人の間に沈黙が数秒続いた。もしかして羽美? そう言われることをこの沈黙の間でさえ少し期待してしまっている自分がる。けれど男性は申し訳なさそうに苦笑いした。
「……あの、人違いじゃないですか?」
「へ?」
素っ頓狂な声が出た。
「すいません、貴女のような美人な方のことを忘れるはずがないと思うんです。思い出そうとしたけど、やっぱり記憶にはなくて。そんなに私は海斗って人に似ているのかな? 名前は確かに同じみたいだけど人違いだと思いますよ」
か、海斗じゃない……?
「ご、ごめんなさい! 凄く私の探していた人に似てて、私舞い上がっちゃって。そうですよね、十七年も会ってないんですもん、間違えるわけだぁ」
はははと無理やり笑う。自分で墓穴を掘っておいておきながら心臓を切り裂かれたような痛みが走った。海斗じゃなかった絶望感と堂々と人間違いをしてしまい恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。こんなにも海斗に似ているのに違ったなんて。やっぱり小学生の時の海斗の面影と、大人になった今じゃ見た目もだいぶ変わっているだろう。どうしてそんな簡単なことに気づかなかったのだろうか。
今、自分の目の前にいる座っている人が同じ海斗と言う名前だけであって、羽美の探し求めている中嶋海斗ではなかった。確かに、この人は自分の事を本郷海斗と名乗っていたのだから。
「本当にすいませんでした。ずっと探していた人と貴方がそっくりだったもので。気分悪くされましたよね、すいません」
羽美は椅子に座り直して深く頭を下げた。
「顔をあげてください」と優しい声が頭上に降り注がれ、ゆっくりと視線を正面に戻す。もう一度本郷海斗と名乗る男性を見た。やっぱり似ている。こんなにも似た人が存在するなんて。人間ってのは三人似ている人が存在するって言うのは本当だったんだと羽美はしみじみ思った。
「そんなに私と貴女の探している人は似ているんですか?」
海斗に似た男性は興味津々な目で羽美を見てくる。
(うう、どうしよう。海斗じゃないって分かってもすごく似てるからか、見られてるだけで心臓が破裂しそう)
羽美は控えめに「似てます」と小さく答えた。
「そっか〜、そんなに似てるんですね。もしかしてその人と勘違いしてたから誘ってくれたんですか?」
「うっ……そうなんです」
「ははっ、素直な人ですね。人違いだったみたいで逆に申し訳ない。だったら私は席を外したほうがいいですかね?」
椅子から立ち上がろうとしている海斗に似た本郷海斗と名乗る男性を羽美は咄嗟に「待ってください!」と引き止めた。海斗じゃないと分かったはずなのに、なぜか目の前にいる本郷海斗のことが気になってしまっている。
「せせせせ、せっかくなんで一緒に食べませんか? 私も貴方もショートケーキが食べたいわけですし。人間違いしてしまったお詫びも兼ねて」
つい大きい声で話してしまい、だんだんと恥ずかしさが勝り羽美は意気消沈していった。純粋にケーキが食べたいとか言って、本当は海斗によく似た本郷の事が知りたかっただけ。人違いと言われても心の奥底では納得していない自分がいるのだ。
「いいんですか? 私は貴女の探している海斗さんではないんですよ?」
「いいんです! いつか絶対会えるって私は信じているんで。なので今は本郷さんとケーキを食べたい、という訳なの……です」
あれ? これってなんか変な発言だよね? 好きな人がいるけど、貴方のことも気になります。的な!?
発言した後に物凄く優柔不断な女発言していることに羽美の顔は青ざめた。
「あああああ、あのっ、そのっ」
「ははっ、落ち着いてください。じゃあ、まずは貴女の名前も伺ってもよろしいですか?」
本郷の声ではっと我に返り「大倉羽美です!」と勢いよく答えた。
「羽美……素敵なお名前ですね」
今自分の名前を褒めてくれた男性はずっとずっと大好きな海斗では無い。そのはずなのに彼にボソリと呟いて呼ばれた名前でも嬉しくてキュッと胸が締め付けられるようだった。頬が紅潮しているのが自分でも分かるくらい、熱い。
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