ショートケーキは半分こで。〜記憶を失った御曹司は強気な秘書を愛す〜
1-2
「羽美、あそこのコンビニ寄っても良い?」
海斗は海岸近くにある小さなコンビニを指さした。羽美たちが小さい頃からずっとあるコンビニだ。
「……っ、いいけど海斗お金あるの? 私一応お小遣い全部財布に入れてもってきたけど、これはこれからのご飯とかに使いたいし、今日もどっか子どもだけで泊まれる場所探さないといけないし……」
「お金は僕も持ってるからさ。大丈夫だから、ね、行こう!」
海斗はぎゅっと繋いでいた手に力を入れ、羽美を引っ張りコンビニへと向かった。
海の近くの小さなコンビニに入ると海斗はキョロキョロしながら「あった!」とデザート売り場へ小走りで向かう。その後ろ姿は羽が生えた妖精のように軽やかだった。
「海斗、なにがあったの?」
「これだよ、これ! 最後の一つが残っててよかった〜!」
海斗が満面の笑みでデザート売り場から手にしたのはたった一つだけ残っていたショートケーキだった。片手をポケットに突っ込んだ海斗はジャリっと小銭を握り出し、手のひらで数を数えて「足りて良かった〜」と頬を緩め、安堵の溜息を吐いた。
「え? ケーキが食べたかったの? そんなのまた今度にしようよ。今はほら、甘いもの食べたいならこっちの三十円のチョコにしよ」
羽美は海斗を引っ張りお菓子コーナーに置いてあった一個三十円のチョコを指さした。今の自分達には三十円でも大金なのに三百九十八円のケーキなんて買ってしまったら貧乏もいいところだ。
「だーめ。今日はケーキじゃないと駄目なんだよ」
いつも羽美の前ではニコニコ笑っている海斗が珍しく真剣な顔だ。そんなにケーキが食べたいのだろうかと羽美は不思議に思った。
「なんでよ? お金がもったいないよ」
「なんでって……いいから。コレ買ったらもう我儘言わないからさ。ね、羽美お願いっ!」
パチン、と両手を合わせて羽美にねだってくる海斗。まるで熟年夫婦みたいな会話にプッと羽美は吹き出した。おかしくって、笑いが止まらない。「仕方ない、今日だけだよ〜」と羽美が言い、海斗は「はーい」なんて返事をする。たった一つの売れ残っていた三百九十八円のショートケーキを買って大事に抱えながら、コンビニを出た。
防波堤に二人で並んで座り、なけなしのお金で買ってきたショートケーキを海斗は羽美の膝に上に置いた。
「はい、羽美」
「ん? 私はいいよ、海斗が食べたかったんでしょう」
「違うよ」
海斗が急に大人のように落ち着いたトーンで真剣な顔をしたので、羽美の心臓がドキンと高鳴った。男の子って急に大人びて見える時がある。
「え? 海斗が食べたかったんじゃないの? ならなんで買ったのよ〜」
ぶすっと口を尖らせる羽美に海斗は変わらず真剣な眼差しを真っ直ぐ羽美に向けたまま口を開いた。
「羽美、お誕生日おめでとう。今日は十一月二八日だよ。まさか、自分の誕生日忘れたの?」
海斗は羽美の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
「あ……」
そうだった。今日は自分の誕生日ということを忘れてしまうくらい羽美は海斗のことで頭がいっぱいだった。
羽美は海斗のことを一番に考え、海斗は羽美のことを一番に考える。それが羽美と海斗の間ではごく自然に、まるで息をするのと同じくらい自然としてしまうのだ。
「僕のことばっか心配させちゃって、ごめんね。でも羽美の誕生日今年も一緒に祝えてよかった。おめでとう羽美」
「海斗っ……ありがとうっ……うれしい」
思いがけないサプライズにずっと堪えていた涙が羽美の頬を濡らす。
どうしてこんなに優しい海斗を大人は傷つけるの? 悔しくて、その思いも一緒に混じって涙が更に溢れ出した。
「羽美、泣きすぎ。ほら、ケーキ落としたらもったいないよ。早く食べよう」
海斗は自分の服の裾で羽美の涙を拭い取り、プラスチックの小さなフォークでケーキをすくって羽美の口元へ差し出した。
「はい、あ〜ん」
「っ、あーんって子どもじゃないんだからっ!」
羽美はズズッと鼻水を啜り、弾けるような笑顔を海斗に向けた。
「ははっ、でも僕たちはまだまだ子どもだけどね。ほら、早くしないと落ちちゃうよ」
羽美は急いで口を開けて海斗の差し出すケーキをパクリと口の中に入れた。クリームが甘くて口の中で溶け出す。疲れ果てていた身体が糖分を喜んで吸収し、ぐぅとお腹の虫が鳴った。
「ははっ、すごい音!」
羽美の口からフォークを抜き取った海斗がニコニコと嬉しそうに笑うのを見て羽美も笑みが更に湧いてくる。
「だって、美味しいんだもん! ケーキ食べたら更にお腹がすいちゃったの〜!」
「ほら、もっと食べなよ。羽美のために買ったケーキなんだから。誕生日おめでとう」
また海斗は優しくケーキをすくって羽美の口元に差し出してきたので羽美は躊躇なくパクッと口の中に入れた。有名なケーキ屋の高いケーキじゃなくて、小さなコンビニで買った安いケーキのはずなのに今まで食べたケーキの中で一番美味しく感じるのは何故だろう。美味しくて、全部食べるのがもったいないくらい。
「海斗も食べなよ」
「僕はいいよ、羽美が全部食べて」
その時ぐぅとお腹の虫の音が聞こえた。羽美の音ではない。やばっと恥ずかしそうに俯く海斗に羽美は海斗からフォークを奪いケーキを一口、海斗の口元に運んだ。
「半分こしよう。このケーキ世界で一番美味しいから海斗も食べてみて」
「でも、それは羽美の誕生日のために買ったケーキだから……」
海斗は視線を落とし、口を尖らせた。
「つべこべ言わずに! 私が半分こって言ってるんだからいいの! はい、あーん!」
でも……と、小さく開いた海斗の口に羽美は容赦なくケーキを突っ込んだ。一瞬驚いた顔をした海斗もすぐに頬が緩みふにゃりとした笑みがこぼれた。
「ね! 美味しいでしょう」
「うん、美味しい。ケーキなんて久しぶりに食べたよ」
「ほら、もっと食べなよ」
羽美は大きくケーキをフォークですくい海斗の口に持っていった。
「そんなに食べたら羽美のが無くなっちゃうよ」
「大丈夫、次は私がたくさん食べるから。それに海斗と一緒に食べた方が凄く美味しいからいいの!」
「うん。羽美、ありがとう」
大きく口を開けてケーキを美味しそうに食べる海斗のキラキラした笑顔が脳裏に張り付いて離れない。
「あ、でも羽美、苺は羽美が食べてね? 羽美の誕生日ケーキなんだから」
今度は海斗が羽美からフォークを奪い取り、ぶすっと苺を突き刺すと羽美の口元に運んできた。
「はい、あーん」
「あ、ありがとう……」
羽美はそっと口を開けて小さな苺を口の中に迎え入れた。甘くて、でもすっぱくて、今まで食べた中で一番美味しい、特別なショートケーキの上に乗ってる苺だ。
「ん、美味しい。海斗、ありがとう」
海斗は照れくさそうにふにゃっとした笑顔を羽美に見せた。海斗は照れたり、嬉しかったりするといつもふにゃっとした可愛い笑顔を見せてくる。羽美の大好きな海斗の笑顔だ。
海斗は海岸近くにある小さなコンビニを指さした。羽美たちが小さい頃からずっとあるコンビニだ。
「……っ、いいけど海斗お金あるの? 私一応お小遣い全部財布に入れてもってきたけど、これはこれからのご飯とかに使いたいし、今日もどっか子どもだけで泊まれる場所探さないといけないし……」
「お金は僕も持ってるからさ。大丈夫だから、ね、行こう!」
海斗はぎゅっと繋いでいた手に力を入れ、羽美を引っ張りコンビニへと向かった。
海の近くの小さなコンビニに入ると海斗はキョロキョロしながら「あった!」とデザート売り場へ小走りで向かう。その後ろ姿は羽が生えた妖精のように軽やかだった。
「海斗、なにがあったの?」
「これだよ、これ! 最後の一つが残っててよかった〜!」
海斗が満面の笑みでデザート売り場から手にしたのはたった一つだけ残っていたショートケーキだった。片手をポケットに突っ込んだ海斗はジャリっと小銭を握り出し、手のひらで数を数えて「足りて良かった〜」と頬を緩め、安堵の溜息を吐いた。
「え? ケーキが食べたかったの? そんなのまた今度にしようよ。今はほら、甘いもの食べたいならこっちの三十円のチョコにしよ」
羽美は海斗を引っ張りお菓子コーナーに置いてあった一個三十円のチョコを指さした。今の自分達には三十円でも大金なのに三百九十八円のケーキなんて買ってしまったら貧乏もいいところだ。
「だーめ。今日はケーキじゃないと駄目なんだよ」
いつも羽美の前ではニコニコ笑っている海斗が珍しく真剣な顔だ。そんなにケーキが食べたいのだろうかと羽美は不思議に思った。
「なんでよ? お金がもったいないよ」
「なんでって……いいから。コレ買ったらもう我儘言わないからさ。ね、羽美お願いっ!」
パチン、と両手を合わせて羽美にねだってくる海斗。まるで熟年夫婦みたいな会話にプッと羽美は吹き出した。おかしくって、笑いが止まらない。「仕方ない、今日だけだよ〜」と羽美が言い、海斗は「はーい」なんて返事をする。たった一つの売れ残っていた三百九十八円のショートケーキを買って大事に抱えながら、コンビニを出た。
防波堤に二人で並んで座り、なけなしのお金で買ってきたショートケーキを海斗は羽美の膝に上に置いた。
「はい、羽美」
「ん? 私はいいよ、海斗が食べたかったんでしょう」
「違うよ」
海斗が急に大人のように落ち着いたトーンで真剣な顔をしたので、羽美の心臓がドキンと高鳴った。男の子って急に大人びて見える時がある。
「え? 海斗が食べたかったんじゃないの? ならなんで買ったのよ〜」
ぶすっと口を尖らせる羽美に海斗は変わらず真剣な眼差しを真っ直ぐ羽美に向けたまま口を開いた。
「羽美、お誕生日おめでとう。今日は十一月二八日だよ。まさか、自分の誕生日忘れたの?」
海斗は羽美の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
「あ……」
そうだった。今日は自分の誕生日ということを忘れてしまうくらい羽美は海斗のことで頭がいっぱいだった。
羽美は海斗のことを一番に考え、海斗は羽美のことを一番に考える。それが羽美と海斗の間ではごく自然に、まるで息をするのと同じくらい自然としてしまうのだ。
「僕のことばっか心配させちゃって、ごめんね。でも羽美の誕生日今年も一緒に祝えてよかった。おめでとう羽美」
「海斗っ……ありがとうっ……うれしい」
思いがけないサプライズにずっと堪えていた涙が羽美の頬を濡らす。
どうしてこんなに優しい海斗を大人は傷つけるの? 悔しくて、その思いも一緒に混じって涙が更に溢れ出した。
「羽美、泣きすぎ。ほら、ケーキ落としたらもったいないよ。早く食べよう」
海斗は自分の服の裾で羽美の涙を拭い取り、プラスチックの小さなフォークでケーキをすくって羽美の口元へ差し出した。
「はい、あ〜ん」
「っ、あーんって子どもじゃないんだからっ!」
羽美はズズッと鼻水を啜り、弾けるような笑顔を海斗に向けた。
「ははっ、でも僕たちはまだまだ子どもだけどね。ほら、早くしないと落ちちゃうよ」
羽美は急いで口を開けて海斗の差し出すケーキをパクリと口の中に入れた。クリームが甘くて口の中で溶け出す。疲れ果てていた身体が糖分を喜んで吸収し、ぐぅとお腹の虫が鳴った。
「ははっ、すごい音!」
羽美の口からフォークを抜き取った海斗がニコニコと嬉しそうに笑うのを見て羽美も笑みが更に湧いてくる。
「だって、美味しいんだもん! ケーキ食べたら更にお腹がすいちゃったの〜!」
「ほら、もっと食べなよ。羽美のために買ったケーキなんだから。誕生日おめでとう」
また海斗は優しくケーキをすくって羽美の口元に差し出してきたので羽美は躊躇なくパクッと口の中に入れた。有名なケーキ屋の高いケーキじゃなくて、小さなコンビニで買った安いケーキのはずなのに今まで食べたケーキの中で一番美味しく感じるのは何故だろう。美味しくて、全部食べるのがもったいないくらい。
「海斗も食べなよ」
「僕はいいよ、羽美が全部食べて」
その時ぐぅとお腹の虫の音が聞こえた。羽美の音ではない。やばっと恥ずかしそうに俯く海斗に羽美は海斗からフォークを奪いケーキを一口、海斗の口元に運んだ。
「半分こしよう。このケーキ世界で一番美味しいから海斗も食べてみて」
「でも、それは羽美の誕生日のために買ったケーキだから……」
海斗は視線を落とし、口を尖らせた。
「つべこべ言わずに! 私が半分こって言ってるんだからいいの! はい、あーん!」
でも……と、小さく開いた海斗の口に羽美は容赦なくケーキを突っ込んだ。一瞬驚いた顔をした海斗もすぐに頬が緩みふにゃりとした笑みがこぼれた。
「ね! 美味しいでしょう」
「うん、美味しい。ケーキなんて久しぶりに食べたよ」
「ほら、もっと食べなよ」
羽美は大きくケーキをフォークですくい海斗の口に持っていった。
「そんなに食べたら羽美のが無くなっちゃうよ」
「大丈夫、次は私がたくさん食べるから。それに海斗と一緒に食べた方が凄く美味しいからいいの!」
「うん。羽美、ありがとう」
大きく口を開けてケーキを美味しそうに食べる海斗のキラキラした笑顔が脳裏に張り付いて離れない。
「あ、でも羽美、苺は羽美が食べてね? 羽美の誕生日ケーキなんだから」
今度は海斗が羽美からフォークを奪い取り、ぶすっと苺を突き刺すと羽美の口元に運んできた。
「はい、あーん」
「あ、ありがとう……」
羽美はそっと口を開けて小さな苺を口の中に迎え入れた。甘くて、でもすっぱくて、今まで食べた中で一番美味しい、特別なショートケーキの上に乗ってる苺だ。
「ん、美味しい。海斗、ありがとう」
海斗は照れくさそうにふにゃっとした笑顔を羽美に見せた。海斗は照れたり、嬉しかったりするといつもふにゃっとした可愛い笑顔を見せてくる。羽美の大好きな海斗の笑顔だ。
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