「死」んだら「神」になるようで

行方不明

第六話~三途の川と向こう岸~


「よし、ここら辺で十分かな。」
「幻術の影響がなくても、結構大変でしたね。」
「でも、なんでここまで歩く必要があるんだよ。
 あそこから飛んじゃえばよかったのに。」
「幻術の範囲内で空を飛ぶなんて自殺行為ですよ。
 空かどうかなんて関係なく迷います。」

今まで歩いていたのは、幻術の範囲外に来るためだったのか。

「じゃ、ここから下まで飛びますか。」
「風丸、頼んだ。」

来る時と同じようにお姫様抱っこをされる。

「・・・フッ、なかなか滑稽ですね。」
「うるさいぞ、ガヴ。これしかないんだよ。」
「わかってますよ・・・フフッ。」

相変わらずのスピードで山を下りる。
風が目に染みて痛い。
ほとんど景色は見えなかったが、思ったよりも高いところにいたことはわかった。

「よーし、着いた!」

昨日いた山の麓に降ろされる。
カナちゃんとガヴもちゃんとついてこれたようだ。

「はぁ・・・ついていくので精一杯ですね。」
「どうした?この程度で弱音吐いてんのか?」
「やっぱりあなただけ徒歩の方がよかったですか?」
「まぁまぁ、喧嘩しないで。」
「はいはい、わかりましたよーっと。」

「それで、今度こそお別れですね。」
「一日も一緒にいなかったけど、結構楽しかったよ!」

そう言い、また翼を広げる。

「では、また今度会いましょう。」
「二人とも、またな!」

二人は微笑み、山へと飛び去っていく。

「・・・さて、私たちも向かいましょうか。」
「そうだな、さっさと終わらせよう。」

山の麓から大通りに戻る。
大通りを左に曲がってしばらく歩くと、大きな海が見える。

「おお、海なんてあったのか。」
「いえ、これは三途の川ですね。」
「え?この規模で川なの?」
「そうですよ。たまにサメが捕れますが。」
「海だよね?」
「川です。」

三途の川に行くと、舟着き場があった。
泊められている舟は古き良き手漕ぎボートだった。
そして、向こう岸には森が見える。
なんか嫌な予感が・・・。

「えーっと、目的地ってのはあの森の中?」
「そうです。あの森の中にあります。」

せっかく山から戻ってきたのに、今度は森かよ。

「・・・あそこになんか仕掛けとかある?」
「ありますよ。厄介な迷路が。」

はい、またですね。
この過酷さ・・・ほんとにこれが初依頼か?

「まずは船頭を探しましょう。」
「あれが船頭じゃないか?」

オレは、船の上で居眠りをしている少女を指す。

「あぁ、あれですね。たまにはやるじゃないですか。」
「半日くらいしかオレを知らない奴が何言ってんだ。」

船頭は帽子を顔に乗せて眠っていた。
この世界では仕事の意欲が低いのだろうか。

「アヤカさん、起きてください。」

反応がない。

「起きないとビリッとしますよ。」

反応がない。ガヴの手は帯電し始める。

「これが最後です。起きてください。」

反応がない。電気の音が激しくなる。

「・・・寝起きドッキリといきましょうか。」

溜めていた電気を船頭に向かって放出する。
その電流は船から川へと流れ、巻き込まれた魚が浮いてくる。
ああ、かわいそうに。

「いててて、誰だよこんなことすんの。」
「昼間から舟を漕いでいるからですよ、アヤカさん。」
「んぇ?あー・・・これはこれはガヴリエルさんじゃないっスか。」
「お久しぶりですね、アヤカさん。寝起きの感想はどうですか?」
「そうですねぇ、最悪の気分です!」

アヤカさんは百点満点の笑顔でそう答える。随分と楽観的な奴だな。

「正直でいいですね。ということで、さっさと舟を出してください。」
「その前に、ガヴさんの隣の男は誰なんスか?」
「あぁ、この人は・・・」
「まさか・・・彼氏っスか?あぁ、こんな天使にもついに春が・・・」
「違います。そんなこと二度と口にしないでください。」
「あ、はい。」

流石にこうはっきりと言われると傷つくな。
まぁ、年齢=彼女いない歴のオレからすればなんてことないんだが。
・・・あれ、なんだろう。目から熱い水が・・・。

「で、結局誰なんスか?」
「私が監視している死神です。」
「鎌持ってないのに?」
「あぁ、忘れてましたね。後で渡しましょうか。」
おい、何忘れてんだ。オレも今気づいたけど。
「お兄さんはなんていう名前なんスか?」
「オレはショウって言います。」
「ハハハ、そんなにかしこまらなくていいっスよ。
 僕はアヤカって言います。よろしく。」
「えー・・・っと、性別はどちらで?」
「うん?僕は男だよ?」
あ、そうなのね。すいませんでした。
「髪が長いからてっきり女かと・・・。」
「まぁまぁ、よく言われるからしょうがないね。」

この街で性別を見分けるのは、なかなか困難なことなのだろうか。
風丸といい、アヤカといい、とても紛らわしい。

「てか、この世界の男と話したのって初めてじゃないか?」
「そ言われてみれば、そうですね。確かに今まで全員女性でした。」
「おお、じゃあショウさんのは僕が奪っちゃったってわけっスね。」
「言い方に悪意しか感じない。」
「童貞卒業おめでとうございます。」
「いや本当に止めていただきたい。」

「よし、こんなところで終わりにして・・・
 ガヴさんたちは何しにここに来たんスか?」
「あそこの依頼主に荷物を届けに行くところですよ。」

ガヴは対岸の緑色を指して言う。

「カノンさんのとこっスか。凄いところからの依頼っスね。」
「ということで、あそこまで運んでください。」
「それはいいっスけど、ガヴさん船酔いしますよね?」
「運んでもらうのはショウだけでいいですよ。運賃も後で渡します。」
「了解っス。じゃあショウさん、乗ってください。」

オレはアヤカと向かい合うように舟に乗る。

「じゃあ、先にあちらに行ってきますね。」

ガヴは『能力アビリティ』で姿を消す。

「よし、こちらも出発しますか。」

アヤカはオールを回す。舟はゆっくりと進んでいく。

「そういえば、アヤカの種族はなんなんだ?」
「僕は船幽霊っスね。海に落とされて死んだんス。」
「落とされて?落ちたんじゃなくて?」
「そうっス。一緒の船に乗ってたやつの恨みで殺されたってだけっスよ。
 その結果幽霊になって、ソイツのことは殺してやりましたけどね。」
「そんなテンションで話せるってスゴいな。」
「まぁ、もう何百年も昔の話っスからね。思い出みたいなもんスよ。」
「何百年って・・・そんなに未練があるのか。」
「僕は海が好きなんスよ。だから、ずっと未練がなくなることはないっスね。」
「へぇ、海で殺されたのに好きなのか。」
「海に罪はないっスからね。殺した奴が悪いっス。」

アヤカはキラキラとした目で川を眺めている。
手のオールは全く動いていない。

「川眺めんのはいいけどさ、ちゃんと漕いでくれよ。」
「大丈夫だよ。ちゃんと進んでるから。」

そう言われて、少しずつ向こう岸に近づいていることに気づく。
オールは回っていない。

「本当だ。・・・もしかして水を操る『能力』?」
「うーん、ちょっと違うかな。
 僕の『能力』は『船長リーダーシップ』っていうやつで、
 僕と同じ船幽霊を操ることができる『能力』なんスよ。」
「じゃあ今、舟を動かしてるのも幽霊ってことか。」
「そうっスよ。みんな暇なんで手伝ってくれるんス。
 よく一緒にポーカーとかもしてるんスよ。」
「いや、ちゃんと仕事しろよ。」
「そう言われても困るっスね。
 そもそも、向こう岸に用がある人がそんなにいないんス。
 いたとしても大体翼で飛んで行っちゃうっスから、仕事がないんスよ。」
「それでよく生活できるな。」
「幽霊は飲まず食わずでも大丈夫っスからね。なんせもう死んでるもんで。
 ・・・おっと、そろそろ着きますよ。」

いつの間にか、森が目前にまで迫っていた。

「おいおい、流石に早くないか?さっきまで結構距離あったぞ。」
「三途の川は渡る人によって長さが変わるっスからね。
 悪行をした分だけ長くなり、善行をした分だけ短くなるんスよ。」
「じゃあオレは悪人の類ではないのか。」
「そうなるっスね。しかもショウさんは結構短い方っスよ。」
「そんなに善行を積んだ覚えがないんだけどな・・・。」

船着き場に舟が泊まる。それに気づいたガヴがこちらへ向かってくる。
オレは舟から降り、ガヴを待つ。

「思ったより早かったですね。」
「普段の行いがいいからだな。」
「まだ一日しかここにいないくせに何言ってるんですか。」
「それを言ったらお終いだよ。」

「あのさ、僕ってショウが帰ってくるまで待ってた方がいいっスか?」
「そうですね。どうせ帰りも使いますし、待っててください。」
「なるべく早く終わらせてくださいね?」
「心配しないでください。迷わない限りは大丈夫ですよ。」
「迷う可能性があるから言ってるっス。」

オレたちは一旦アヤカと別れ、森へと足を踏み入れる。
森の中は木漏れ日が注いでおり、とても気持ちがいい。
しばらく進むと、少し開けたところに出る。
そこには石板が、円を描くように五つ並んでいた。
石板には何かの魔法陣が書かれている。
そして石板の向いている方向はバラバラで、
真ん中には土台のようなものが置いてある。

「こ、これは・・・?」
「ただのカラクリですよ。」

そう言って、ガヴは一つの石板を土台に向ける。
他の石板も同じように向けると、石板に書かれていた魔法陣が光り出す。
その光は土台に集まり、何も書かれていなかった土台に魔法陣が浮かび上がる。

「さぁ、これに乗りますよ。」
「あ、あぁ。」

オレは言われるがままに土台の上に乗る。

「うわっ!」

その瞬間光に包まれ、思わず目を閉じる。

しばらくして目を開けると、
同じような土台に乗ってはいるが、先程とは違う景色が広がっていた。

「え?何が起きた?」
「カラクリを解いたので転移魔法が発動したんですよ。」
「転移魔法って・・・ガヴの『能力』と同じじゃねーか。」
「この魔法が使えれば、疑似的に私の『能力』が使えますよ。」
「もしかしてお前の『能力』って微妙だったりする?」
「はっきり言って微妙です。でも、何もないよりはマシですね。」
「やめろ。その言葉はオレに刺さる。」

また森の中を進んでいくと、今度は大きな扉があった。
その扉には大きな石の枠が取り付けられている。
その近くには四角い石が転がっていた。
その石には模様が描かれているが、単体で見るとわけが分からない。

「えーっと、今度は何?」
「この小さな石を正常な位置に入れて魔法陣を完成させるんですよ。
 要するにただのパズルです。」
「ほんとにコレいるのか?」

ガヴに言われた通りに小さな石を入れる。
すると、また同じように魔法陣が光り、扉が開く。

「確か次が最後だったはずですね。」
「どうせ最後も同じような感じだろ?」
「いえ、最後は急にやる気を出してきて、難易度が高いですよ。」

扉の奥の道は迷路のようになっていた。
右、右、左、右、右、右、左、左・・・ガヴは何のためらいもなく進んでいく。
こればっかりはオレはついていくことしかできなかった。
そして、また開けた場所に出る。
そこには最初と同じような石板が置いてあった。

「これが最後?なんかシンプルだな。」
「書いてあるものを見てみてください。」

そう促され、石板に刻まれた文字を読む。

『一人の大人と九人の子供が並んでいる。次の十個のヒントから、文章を導け。
 ①大人は一番左にいる。
 ②左から二番目、五番目、九番目の子供は三つ子である。
 ③左から四番目と右から三番目の子供は双子である。
 ④子供の中には背が高い子供は二人いて、どちらも三つ子の誰かの隣である。
 ⑤左から五番目の子供は嫌われている。
 ⑥鏡を見せると、大人と左から三番目の子供だけが自分が映っているとわかる。
 ⑦右から五番目の子供は鏡に映ると別人になる。
 ⑧左から二番目の子供は大人になると鏡に映る自分を認識する。
 ⑨逆立ちができるのは大人だけである。
 ⑩左から六番目の子供は大人になっても何もできない。』

・・・なんだコレ?

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