「死」んだら「神」になるようで

行方不明

第二話~ご挨拶~


「うぇっ・・・。」
「おいおい、大丈夫か?」

青白い顔をしながら座り込むガヴ。
どうも乗り物に弱いみたいだ。

「お前、三半規管弱すぎねーか?」
「ハァ・・・ハァ・・・誰にだって弱点はあるものです。
 まぁそのせいで空も飛べないんですが。」
「それは天使として致命的過ぎる弱点だろ。毎回歩いて移動してるのか?」
「いえ・・・私は『能力アビリティ』で瞬間移動が使えるので、
 移動に困ったことはありませんよ。」
「『能力アビリティ』?」
「ああ・・・まだ話してませんでしたね。
 私たちの世界には『能力アビリティ』と言われている力が存在します。
『能力』の種類は様々ですが、全く同じ能力は二つと存在しません。
 例えば、私の能力『瞬間移動テレポート』が使えるのは私以外いないということです。」
「へぇ、じゃあオレにもその『能力』ってのはあるのか?」
「残念ながら”『能力』を持っている者”と”そうではない者”が存在します。
 あなたは後者なので、同じようなことはできませんよ。」
「ちぇっ、つまんねーなぁ。
 こういう転生モノってさあ、主人公に何かしらのバフがかかるもんじゃないの?」
「主人公補正っていうものはこの世界には存在しませんよ。
 まぁ、一つだけバフがかかっているとすれば、
 ”死ににくい”ってところじゃないですか?」
「え?そんなこと明言しちゃっていいの?ネタバレにならない?」
「別に”死ににくい”ってだけで”死なない”とは言ってませんよ。
 だいたい、神っていうのはそう簡単には死にません。
 可能性としては天使や神からの攻撃くらいですね。
 なので、処罰はあまり受けない方がいいですよ?」
「ハハ・・・オテヤワラカニネ?」
「それはあなたの行動次第です。」

ガヴは立ち上がるが、まだ少しふらついている。

「それでは、神凪町の案内といきましょうか。」

駅を出て街へと歩き出す。街には天界よりも多くの種族が見受けられた。
ガヴと同じ天使や頭に角が生えている者、人間のような者まで、本当に様々な種族が存在していた。

これが神凪町か・・・!

「さて、観光より先にすることがありますので、さっさと済ませちゃいましょう。」
「じゃあさっき言ってた『能力』で連れてってくれよ。
 歩くよりはそっちの方が楽だろ?」
「残念ですが、私の『能力』で移動できるのは私自身のみです。
 私だけが先に行っていいのであれば遠慮なく行きますが。」
「何も知らない場所で一人は酷じゃないですかね?」
「だったら楽しないで歩きますよ。」
「・・・はい。」

しばらくガヴと街を進んでいくと、裁判所のような場所に着いた。
建物に取り付けられている白黒の天秤のアイコンがとても印象的だ。

「はい、着きましたよ。」
「裁判所・・・だよな?何?オレ早速なんかした?」
「大丈夫ですよ。ここにはただ挨拶に来ただけですから。」

ガヴは裁判所の扉を開けて中に入る。
オレも後に続くと、入ってすぐにカウンターのようなものがあるのに気が付く。
そこには受付嬢が立っていて、まるで裁判所とは思えない。

「おいおい、なんで受付が裁判所にあるんだよ?」
「あなたの物差しでこの世界を図ろうとしないでください。
 ここは『天神裁判所』。
 この世界の裁判所ですが、あなた方の世界とは裁くものが違います。」
「それって天国か地獄かを決めるていう・・・。」
「そうです。死んだ者・・・人間であろうと神であろうと、ここで判決が下されます。」
「だとしたら、オレはなんで連れてこられたんだ?」
「それは閻魔大王に会う為です。」
「なんでまた閻魔大王なんかに・・・。」
「閻魔大王はあなたの上司にあたる人です。挨拶をしなければ無礼ですよ。」
「はぁ、社会ってこういう感じなのか・・・。」
「文句言ってないで受付に行きますよ。」

受付へ進むと受付嬢がニコリと笑う。ショートヘアーがよく似合う元気そうな人だ。

「こんにちは!ガヴちゃん、今日は何の用事?」

この受付嬢は何故こんなにフランクなのだろう。仮にも相手は四大天使なのに。
昔からの知り合いなのか、ただ単にナメられているだけなのか・・・。

「閻魔大王への挨拶です。私の後ろにいるこの新人の付き添いですけど。」

ガヴはオレへ指をさす。
受付嬢はこちらを見てまた笑顔を作る。

「こんにちは!新人さん、お名前はなんていうんですか?」
「あ、あぁ、オレはショウっていう名前で・・・。」
「ショウさんですね!これからよろしくお願いします!」
「え?これからって?」
「あなたが依頼を完了したときにはここに持ってくるんですよ。
 その時にこの子にお世話になるんですから、名前くらいは覚えてください。」

受付嬢はササッと自身のネームプレートを見せる。
そこには顔写真と名前が書いてあった。この子はマイという名前らしい。

「じゃあ、マイさん、これからよろしくお願いします。」
「はい!こちらこそ、改めてよろしくお願いします!あと、マイでいいですよ!」

自己紹介を済ませると、マイと二人でいろいろと話し始める。
話を聞くと、マイは悪魔らしく、もともとは魔界に住んでいいたらしい。
身体や服で隠れていただけで、尻尾もちゃんとあるようだった。

しばらくして、ガヴがマイに話しかける。

「・・・挨拶が終わったのなら、さっさと閻魔に許可を取ってきてもらえますか?」
「は、はい!ソッコーでやってきます!」

マイさんは受付の奥へと走っていった。
と思ったらすぐに戻ってくる。
なんだ?なんかのトラブルか?

「はい、許可取れました!こちらからどうぞ!」

嘘だろ こんな短時間で 

「はい、ありがとうございます。」

しかしガヴの反応を見る限り、これが通常運転のようだ。
そしてオレたちは受付の横のドアに案内される。

「いってらっしゃーい!」

元気よく手を振るマイを後に、扉の奥の廊下へと歩き出す。

「な、なんか異様に仕事早くねーか?」
「そうですか?ここの受付というのは、あれぐらい早くないと雇ってもらえませんよ。」

やっぱり、オレの世界を物差しにしてはいけないようだ。

「はい、着きましたよ。」
「え?」

気がついたら、目の前には大きな扉が佇んでいた。
扉の横にかけられているプレートには”大王の間”と書かれている。
しかし、さっき歩き始めたばかりだというのにもう着いたのか。

ガヴがコンコンとノックをして扉を開く。

「失礼します。こんにちは、お久しぶりですね、世華せいかさん。」
「おぉ、ガヴちゃん、久しぶり!」
「ちょっと!抱きつこうとしないでください!」
「えぇ~いいじゃんか、少しくらい。減るもんじゃないでしょ?」
「私に減るものはありませんが、あなたの閻魔としての威厳がなくなりますよ?」
「そんなの最初っからないからいーの!」
「少しは努力をしてくださいよ!」

ガヴは一人の少女に抱きつかれて、必死に抵抗している。
少女は金髪で、角が二本生えていた。
もしかしてあれが閻魔大王なのか?

「あの、あなたがショウさんでお間違いありませんか?」

急に話しかけられて後ずさりする。声の主は少し幼い少女だった。
少女は、オレが驚いたのを見て頭を下げる。

「あっ、すみません。驚かせてしまいました。」
「ああ、いや、気づかなかったオレも悪いからさ、大丈夫だよ。」

少女は頭を上げてまた「すみません。」と言うと自己紹介を始める。

「私は小野おのの彼千代かれちよと申します。
 あの、あそこでガヴリエルさんに抱きついていらっしゃる大王様の秘書をしています。」

あれが閻魔大王なのか まぁ、言われてみれば閻魔っぽい帽子もかぶってるし、服装もそれっぽい。
・・・閻魔大王って聞いたから、怖そうなイメージだったけど・・・なんか明るいな。

「やっぱりそうだったのか。で、あれは何をしているんですか?」
「ただじゃれているだけだと思います・・・あ、そろそろ準備してくださいね。」
「え、何の」
「いい加減にしてください!」

ガヴの怒鳴り声とともに、部屋に放たれる。

「え?ちょっ、え?」

一瞬、彼千代の方を見ると、何やら結界のようなものを張っている。

彼千代さん オレの分は?

結局、結界の中にいないオレはモロに雷を受けてしまった。

******



「いや~、ごめんごめん。少し遊びすぎたかな?」
「反省してください。」
「いや、反省するのはお前もだよ。
 なんでオレまで巻き添え食らわなきゃいけないんだ。」

オレは焦げてチリチリになった頭を指さす。
それを見て笑っている閻魔大王も被害を受けたはずなのに、焦げ一つもないところに腹が立つ。

「すみません、私がショウさんにも一緒に結界を張っていれば・・・」
「それは申し訳ありませんが、
 どうせ後々やらかすので先行投資だったと思ってもらえれば。」
「謝るのか開き直るのかどっちかにしてくれよ。」
「じゃあ開き直ります。私は悪くありません。」
「オレ、お前のそういうところ嫌いだわ。」
「そうですか?私は自分のこういうところ大好きですよ。」
「まぁまぁ、二人ともケンカしないで・・・」
「もともとはあなたのせいなんですけどね。」

閻魔大王は笑いながら、こちらに向き直る。

「じゃあ、自己紹介をしよう。私の名前は閻魔世華。かの有名な閻魔大王だよ!」
「あ、あぁやっぱり、そうなんすか。」
「なんだよその微妙な反応は~。たしかにさっきはお見苦しいところを見せたけどね。」
「初見であんなところを見せられたら、誰だって困惑しますよ。」
「ハハハ、それもそうだね!」

閻魔大王は結構な笑い上戸なのだろうか。それともただのバカなのか。

「ま、私ってこんなんだからさ。ショウもタメで話してもらって構わないよ。」
「じゃあ、遠慮なく。」
「はぁ、そんなんだからナメられるんですよ?」
「いいじゃないか、みんなから親しく話しかけてもらえるとこっちも気が楽なんだよ。・・・よし、挨拶も終わったし、早速初仕事でもしてきなよ。」
「え?もう?初日から働くのか?」
「そりゃ勿論!最近、死神の数が足りてないからね。」

株式会社閻魔、なんともブラックな職場である。

「じゃあ、ガヴちゃん。あとは任せたよ。」
「自分の欲だけ満たして後は丸投げですか。いい御身分ですね。」
「そりゃ毎日裁判漬けだもん。閻魔だってストレスは溜まるよ。」
「それはきちんと仕事をしてから言ってくださいね、大王様。」

彼千代にツッコまれて、閻魔は明後日の方向を向いている。
本当に閻魔大王が務まっているのか、甚だ疑問である。

「それでは失礼しますね。
 彼千代さん、あの閻魔バカにはもう少し厳しくしてくださいね。」
「はい、善処はします。」
「ガヴちゃん、ショウ、またね~!」
「おう、またな。」

別れの挨拶を済ませ、二人はこの部屋を後にする。
二人の声と足音が聞こえなくなった頃、世華は閻魔帳を開く。

「ショウか・・・なかなかに胆力のある奴だな。」
「そうですね、仮にも大王様の御前でしたのに、あんなに堂々として・・・。」
「ちょっと?仮にもってなんだよ。ちゃんと大王なんだよ。」

世華はあるページでめくるのを止める。

「まぁ、『ウリエル』からは聞いてたけどさぁ・・・



まさか、こんなに真っ白だとは思ってなかったよね。」



閻魔帳のショウのページに載っていたのは、名前と年齢くらいであった。
人生の中の行いや出来た友、家族関係などは空白になっている。

「こんなことは初めてだよ。生者ならともかく、死者の情報がないなんて・・・。」
「ショウさんは何かに巻き込まれたのでしょうか。」
「そうかもしれないね。ここ最近にあった事件って確か・・・」
「『百鬼夜行』ですか?」
「ああ、それだ。でも、そんなことがあるのか?」
「偶然だとしても不可解・・・ですね。」
「ま、推測は調査が進んでからにしよう。今は頭の片隅に置いておくくらいでいい。」

置時計を見ると、時刻はもうすぐ午後三時を迎えようとしていた。

「おっと、もう三時か・・・よし、ティータイムといきましょうか!」
「ダメです。まだまだ仕事が残っているんですから。」
「え~、そんなの後でやるからさ~。」
「ダメです。ただでさえ仕事が止まっているんですよ!
 これ以上やると、報告しますよ。」
「報告って、誰にさ?」
「カノンさんに報告いたします。」
「・・・ッスゥゥウ、やりま~す・・・。」

******



受付に戻ってくると、マイがなにやら慌てた様子で出迎えてくれる。

「だ、大丈夫でしたか?雷でも落ちたような音がしましたけど・・・。」

あっ、犯人は目の前にいますよ。

「私は大丈夫ですよ。特に被害はありませんでした。」

そりゃそうだよ。だってお前が原因なんだもん。

「あ、ショウさん、イメチェンしたんですね。え、えと・・・似合ってますよ!」

マイは無理矢理笑顔を作って見せる。
おそらく嘘をつくことに慣れていないのだろう。
なので、どう頑張っても苦笑しているようにしか見えない。

「さぁ、行きましょうか。」

ガヴは何事もなかったように裁判所を出ようとする。
おい、なに上司ヅラしてんだ。

「あ、ちょっと待ってください!」

マイはバタバタと受付に戻り、何かを持ってくる。
そして手紙のようなものをガヴに渡す。

「はい!新しい依頼が届いてましたよ。」
「・・・ほう、丁度いいですね。」

ガヴは手紙の内容を見るなり、オレに渡してくる。

「ショウ、あなたの初仕事が届きました。早速受けましょうか。」

初仕事?一体どんな・・・

【ここへお使いに行ってもらいたい。明日までに頼む。】

手紙にはその一言と丸が付けられた地図が入っている。
丸のついているところは恐らく目的地だろう。

・・・それだけ?
え?なんか安全を守ってもらうとか言ってたけど・・・これ?

「おつかいも・・・オレらの仕事?」
「そうですよ。まだ駆け出しなので、こういうものばかりですね。」
「あ、はい。」

別にね、期待なんかしてなかったけどね。
俺TUEEEできると思うじゃん!なんでそうじゃないのさ!
作者お前《自主規制》の《自主規制》にして《自主規制》してやるからな!

「はぁ・・・仕方ない、やるか。」
「仕方ないってなんですか、これの依頼主は結構な大物ですよ。」

そう言われて、手紙の裏面を見てみる。

【カノン・リアラ】

これが依頼主の名前か・・・。
だからなんだっていうんだ。見たところで全然凄さがわからない。

まぁ・・・何はともあれ、これが初仕事だ。
気合い入れてくか!

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