売れ残り同士、結婚します!

青花美来

エピローグ

*****

初夏の爽やかな空気が気持ち良い、六月上旬。

例年の梅雨入りを目前に控えた今日、私と冬馬は結婚式を挙げる。

真っ白なプリンセスラインのウエディングドレスに、ブルースターとかすみ草で仕立ててもらったウエディングブーケ。

この日のために伸ばして手入れを欠かさなかった髪の毛にも同じ花を編み込んでもらい、ネイルにも同じ花のデザインを描いてもらった。


「……お父さん」

「……しずく。綺麗だよ」

「ありがとう」

「母さんも見たかっただろうなあ」

「……うん」


教会の扉の前。新婦の入場の前に、お父さんが私の姿を見て涙ぐむ。


「ほら、まだ式は始まってないんだよ?泣かないでよ」

「すまん。感極まってな。……しずくには本当に今まで苦労をかけたから、その幸せそうな顔が見られて本当に嬉しいんだ。ありがとう。幸せになれよ」

「うん。ありがとうお父さん」


頷いて、お父さんの腕に手を添える。


「新婦が入場します」


アナウンスが聞こえ、スタッフの合図で扉が開いた。


「うわぁ……綺麗」


どこかから聞こえてきた声に緊張が増す。

お父さんと一緒に一礼して、顔を上げる。

真っ白な花たちで埋め尽くされた教会は、ガラス張りの窓から差し込む日差しでキラキラと輝いていた。

眩しいくらいの煌めきの中、たくさんの拍手と共に一歩一歩歩いていく。

その向こうで笑顔で待つ、ライトグレーのタキシードに身を包んだ冬馬が、本当にかっこよくて。


「冬馬くん。しずくのことよろしくお願いします」

「はい」


力強い返事に頷いたお父さんから、冬馬の腕に手を添え直した。

讃美歌を歌い、誓いの言葉を経て、そして指輪の交換をする。


「それでは、誓いのキスを」


神父の言葉に、冬馬の方を向いて少し下を向いて膝を曲げた。

そっとあげられたヴェール。

優しさと愛情に満ち溢れた表情に視線を奪われていると、そっと肩に手が添えられた。

ゆっくりと角度を変えて近付く冬馬の顔。

そして、誓いのキスを交わす瞬間。

冬馬の唇が薄く開いて、言葉を残す。


「……しずく。愛してるよ」


聞こえた言葉と共に、そっとキスを交わした。

たくさんの拍手に包まれて、心がぶわりと熱を持つ。

苦労の多かった人生だった。悩んだことも苦しくて泣いたこともたくさんあった。

周りを妬んだり、羨んだりしたこともあった。

けれどもうそれは全部忘れてしまおう。

今この瞬間、こんなにも幸せなんだから。

一緒にいられるだけで、こんなにも幸せなんだから。

これから先の人生がどんなに大変でも、冬馬と一緒ならきっと乗り越えられる。

そう、思わずにはいられない。


「……私も。愛してるよ」


冬馬にだけ聞こえる声で笑顔を返すと、幸せそうに微笑んでくれて。


温かくて愛おしくて、溢れるほどの幸せが私たちをぎゅっと包み込んでくれていた。



end

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