売れ残り同士、結婚します!
5話 心地良い朝
懐かしい夢を見たからか、目覚めはとても穏やかな気持ちだった。
しかし気がつくと見覚えのない天井と部屋、それから自分のものとは違うベッドの寝心地と直に感じる布団の肌触りに、一瞬パニックになってしまった。
……そうだ、昨夜"試してみるか"なんて言って冬馬と一夜を共にしたんだった。
思い出すと、ぶわっと全身が熱くなる気がした。
ものすごく、甘く濃密な時間だった。
何度も求められて、何度も愛を注がれて。
狂おしいほどの気持ちを、心身共に刻み込まれた気がする。
下腹部のだるさがその激しさを物語っており、じわじわと恥ずかしさが増していった。
天井を見つめてボーッとしつつ、ふと頭の下に硬いものがあると思って隣を見る。すると冬馬が私に腕枕をしながら眠っていた。
規則正しい寝息。薄く開いた唇を見て、昨夜何度も何度もその唇とキスをしたことを思い出す。
そして、
"あの約束をした時から。……いや、それよりずっと前から。ずっと昔から、お前が好きだ。俺と結婚してほしい"
昨夜の冬馬の言葉が、何度も頭の中をこだまする。
驚きと嬉しさで、また夢の中なんじゃないかと思ってしまう。
ずっと昔からって、一体いつから私を想ってくれていたのだろう。
あの時、どんな気持ちで私と約束したのだろう。
再会した時、どんな気持ちで私を呼び止めたのだろう。
嬉しい反面、頭が全然追いつかない。
すでに窓の外では陽が登り始めているようで、カーテンの隙間から眩しいほどの朝陽が入り込んできている。
シルクのような肌触りのシーツが心地良くて、正直言えばこのまま起きたくない。
今日が休みでよかった。この心地良い朝を、少しでも堪能していたい。
冬馬の腕の中に擦り寄ると、寝ぼけているのか力強く抱き寄せられて。
抱き枕みたいで少し苦しいけれど、とても温かくて嬉しかった。
そう思っていると、ベッドサイドの方から聞きなれないアラーム音がする。
「ん……」
それを止めようと、冬馬はあくびをしながら目を覚ました。
「……もう朝?」
「うん」
「ん……はよ、しずく」
そう言って、アラームを止めてから一つキスを落とす冬馬。
「っ……おはよう」
ふわりと笑った顔が本当に幸せそうで、寝起きには刺激が強すぎる。顔を見ていられなくて思わず視線を逸らすものの、逃がさないと言いたげに私の背中に手を回し、しっかり抱きしめたまま撫で回すようにして、またキスをする。
ゆっくり、しっかりと味わうように。
何度も啄むように交わされるキスが、柔らかくて温かくてとても気持ちいい。
こんなの、甘すぎておかしくなりそう。
それなのに、もう少し、もう少しと。離れてほしくなくて、自然と私からも舌を絡めた。
唇が離れた時、お互いの顔を見て照れ隠しに薄く笑う。
「……昨夜、気持ち良かった?」
「……うん」
素直に頷くのは恥ずかしくてたまらなかったけれど、確かにその通りだったから嘘をつくのは嫌だった。
私が顔を真っ赤にして逸らしたからか、冬馬は噴き出すように笑って私の頭を撫でる。
「俺も最高に気持ち良かった」
無邪気な笑顔に私は胸を高鳴らせながらも、
「そういうことっ、あんま言わないで」
と憎まれ口しか言えない。
なのに、それすらも冬馬は面白そうに笑っていて。
「可愛い反応すんなよ。また襲いたくなる」
「っ」
「本当、好き」
冬馬から甘ったるい視線を向けられると、朝から胸焼けしてしまいそう。
*****
「────え、これから仕事なの?」
「あぁ。本当はもっと一緒にいたいんだけどな。今日は無料相談会があるからもうそろそろ出ないといけないんだ」
「そっか……。弁護士って土日関係ないもんね」
「まぁそうだな」
冬馬のアラームが鳴った時間は、早朝五時半だった。
そこから三十分ほど布団の中で過ごし、散らばった服をかき集めて身につけ寝室を出た私たち。
コンシェルジュの方が用意してくれたと言うトラベルセットと着替え。それでシャワーと歯磨きを済ませてからリビングに向かう。
ダイニングに腰掛けると冬馬が朝ごはんを作ってくれて、カリカリに焼かれたトーストにハムとチーズと卵とレタスを乗せて、サンドイッチ風にして食べている時にこれから仕事だと聞かされた。
保育士も隔週で土曜日にシフトが入ることはあるけれど、その分平日にお休みがある。
でも弁護士は平日は裁判で忙しいだろうし、クライアントからの依頼はやはり土日が多いらしく、冬馬の話を聞いているとほとんど休みなんて無さそう。
現に冬馬は先月も片手で足りるほどしか休みが無かったらしく、それも半分は午前休や午後休など、半日しか休みは取れなかったらしい。昨日の休みが奇跡的なんだとか。
それでも、独立して個人事務所を経営している人よりは休みは多い方なんだと言っていた。
「大丈夫?ちゃんと食べてる?」
「ははっ、食べてるから大丈夫だって。それに、しずくと一緒にいたら疲れなんてどっか行った」
私がお礼に食器を洗っている間、シャワーに入って新しいスーツに着替えた冬馬は、オンモードでピシッとしていてとてもかっこいい。
ただでさえ良いスタイルがさらに強調されていて、思わず見惚れてしまう。
胸に咲くひまわりと天秤の弁護士バッチがとても輝いていて、本当に弁護士なのだと実感した。
「冬馬」
「ん?」
「ネクタイ曲がってる」
「え」
「ちょっと貸して」
それなのに、こういうちょっと抜けたところを見ると昔の冬馬のままだとわかってホッとしてしまった私がいた。
サッとネクタイを整えてあげると、
「……なんか、こういうのいいな」
と微笑む冬馬。
「え?」
「いや、こっちの話」
「そう?……じゃあ、お皿も洗い終わったし私も帰るから一緒に出るね」
「あぁ。悪いな、皿洗ってもらって」
「気にしないで」
コンシェルジュに用意してもらったと言うサラッとしたシフォンワンピースに着替えたものの、着てきた服は洗濯したいし家主のいない家に居座るほど非常識ではない。
冬馬と一緒に部屋を出て、オートロックの扉が閉まる音が聞こえた。
それを確認して、エレベーターに乗りこむ。
当たり前に一階に降りると思っていたら、そのまま通り過ぎて地下に向かったから驚いた。
エレベーターの扉が開くと、そこには地下駐車場が広がっていた。
そりゃ弁護士だもん。車くらい持ってるよね。
冬馬は降りる時に私の手を握り、そのまま車へ向かっていく。
高級車を取り扱っていることで有名なメーカーのエンブレムがついている黒い車。
車については詳しくないからよくわからないけれど、多分お高いんだろう。
「乗って」
助手席の扉を開けてくれて、乗り込む。
ふかふかのシートに身体が沈んだ。
そのまま冬馬は運転席に乗り込むと、私の住所を聞いてナビに打ち込む。
駐車場に降りた時にうっすら気が付いていたけれど、どうやら私の自宅まで送り届けてくれるらしい。
車で来たからまだ道もわからないし、正直言うとありがたい。
「今日の無料相談会の会場がそっち方面なんだ。ちょうど良かった」
ほら、と見せられた事務所のホームページ。確かにここから私の自宅の方面に向かった先にある大きなホテルで行われることになっていた。
でも多分、冬馬なら私の家が反対側方面でもホームページは見せずに全く同じことを言って送ってくれただろう。
そういう人だ。冬馬は昔から変わらず本当に優しい。
意外にも冬馬の自宅から私の自宅までは車だとすぐ近くで。なんとなく道もわかった気がする。
「送ってくれてありがとう。仕事がんばってね」
「あぁ。またあとで連絡する」
「……わかった。じゃあね、気を付けて」
手を振ると、車はゆっくりと走っていってすぐに見えなくなる。
それを見送って、私も自分の部屋に入った。
すぐに持って帰ってきた服を洗濯機に入れて、来ていたシフォンワンピースをハンガーにかけて部屋着に着替える。するとスマートフォンに佐藤先生から連絡が来ていることに気が付いた。
"今日何時にするー?"
佐藤先生に聞いてほしいことがたくさんある。
多分、こんな話したらびっくりすると思うけれど。
スマートフォンを手に、洗濯機を回しながら返信した。
しかし気がつくと見覚えのない天井と部屋、それから自分のものとは違うベッドの寝心地と直に感じる布団の肌触りに、一瞬パニックになってしまった。
……そうだ、昨夜"試してみるか"なんて言って冬馬と一夜を共にしたんだった。
思い出すと、ぶわっと全身が熱くなる気がした。
ものすごく、甘く濃密な時間だった。
何度も求められて、何度も愛を注がれて。
狂おしいほどの気持ちを、心身共に刻み込まれた気がする。
下腹部のだるさがその激しさを物語っており、じわじわと恥ずかしさが増していった。
天井を見つめてボーッとしつつ、ふと頭の下に硬いものがあると思って隣を見る。すると冬馬が私に腕枕をしながら眠っていた。
規則正しい寝息。薄く開いた唇を見て、昨夜何度も何度もその唇とキスをしたことを思い出す。
そして、
"あの約束をした時から。……いや、それよりずっと前から。ずっと昔から、お前が好きだ。俺と結婚してほしい"
昨夜の冬馬の言葉が、何度も頭の中をこだまする。
驚きと嬉しさで、また夢の中なんじゃないかと思ってしまう。
ずっと昔からって、一体いつから私を想ってくれていたのだろう。
あの時、どんな気持ちで私と約束したのだろう。
再会した時、どんな気持ちで私を呼び止めたのだろう。
嬉しい反面、頭が全然追いつかない。
すでに窓の外では陽が登り始めているようで、カーテンの隙間から眩しいほどの朝陽が入り込んできている。
シルクのような肌触りのシーツが心地良くて、正直言えばこのまま起きたくない。
今日が休みでよかった。この心地良い朝を、少しでも堪能していたい。
冬馬の腕の中に擦り寄ると、寝ぼけているのか力強く抱き寄せられて。
抱き枕みたいで少し苦しいけれど、とても温かくて嬉しかった。
そう思っていると、ベッドサイドの方から聞きなれないアラーム音がする。
「ん……」
それを止めようと、冬馬はあくびをしながら目を覚ました。
「……もう朝?」
「うん」
「ん……はよ、しずく」
そう言って、アラームを止めてから一つキスを落とす冬馬。
「っ……おはよう」
ふわりと笑った顔が本当に幸せそうで、寝起きには刺激が強すぎる。顔を見ていられなくて思わず視線を逸らすものの、逃がさないと言いたげに私の背中に手を回し、しっかり抱きしめたまま撫で回すようにして、またキスをする。
ゆっくり、しっかりと味わうように。
何度も啄むように交わされるキスが、柔らかくて温かくてとても気持ちいい。
こんなの、甘すぎておかしくなりそう。
それなのに、もう少し、もう少しと。離れてほしくなくて、自然と私からも舌を絡めた。
唇が離れた時、お互いの顔を見て照れ隠しに薄く笑う。
「……昨夜、気持ち良かった?」
「……うん」
素直に頷くのは恥ずかしくてたまらなかったけれど、確かにその通りだったから嘘をつくのは嫌だった。
私が顔を真っ赤にして逸らしたからか、冬馬は噴き出すように笑って私の頭を撫でる。
「俺も最高に気持ち良かった」
無邪気な笑顔に私は胸を高鳴らせながらも、
「そういうことっ、あんま言わないで」
と憎まれ口しか言えない。
なのに、それすらも冬馬は面白そうに笑っていて。
「可愛い反応すんなよ。また襲いたくなる」
「っ」
「本当、好き」
冬馬から甘ったるい視線を向けられると、朝から胸焼けしてしまいそう。
*****
「────え、これから仕事なの?」
「あぁ。本当はもっと一緒にいたいんだけどな。今日は無料相談会があるからもうそろそろ出ないといけないんだ」
「そっか……。弁護士って土日関係ないもんね」
「まぁそうだな」
冬馬のアラームが鳴った時間は、早朝五時半だった。
そこから三十分ほど布団の中で過ごし、散らばった服をかき集めて身につけ寝室を出た私たち。
コンシェルジュの方が用意してくれたと言うトラベルセットと着替え。それでシャワーと歯磨きを済ませてからリビングに向かう。
ダイニングに腰掛けると冬馬が朝ごはんを作ってくれて、カリカリに焼かれたトーストにハムとチーズと卵とレタスを乗せて、サンドイッチ風にして食べている時にこれから仕事だと聞かされた。
保育士も隔週で土曜日にシフトが入ることはあるけれど、その分平日にお休みがある。
でも弁護士は平日は裁判で忙しいだろうし、クライアントからの依頼はやはり土日が多いらしく、冬馬の話を聞いているとほとんど休みなんて無さそう。
現に冬馬は先月も片手で足りるほどしか休みが無かったらしく、それも半分は午前休や午後休など、半日しか休みは取れなかったらしい。昨日の休みが奇跡的なんだとか。
それでも、独立して個人事務所を経営している人よりは休みは多い方なんだと言っていた。
「大丈夫?ちゃんと食べてる?」
「ははっ、食べてるから大丈夫だって。それに、しずくと一緒にいたら疲れなんてどっか行った」
私がお礼に食器を洗っている間、シャワーに入って新しいスーツに着替えた冬馬は、オンモードでピシッとしていてとてもかっこいい。
ただでさえ良いスタイルがさらに強調されていて、思わず見惚れてしまう。
胸に咲くひまわりと天秤の弁護士バッチがとても輝いていて、本当に弁護士なのだと実感した。
「冬馬」
「ん?」
「ネクタイ曲がってる」
「え」
「ちょっと貸して」
それなのに、こういうちょっと抜けたところを見ると昔の冬馬のままだとわかってホッとしてしまった私がいた。
サッとネクタイを整えてあげると、
「……なんか、こういうのいいな」
と微笑む冬馬。
「え?」
「いや、こっちの話」
「そう?……じゃあ、お皿も洗い終わったし私も帰るから一緒に出るね」
「あぁ。悪いな、皿洗ってもらって」
「気にしないで」
コンシェルジュに用意してもらったと言うサラッとしたシフォンワンピースに着替えたものの、着てきた服は洗濯したいし家主のいない家に居座るほど非常識ではない。
冬馬と一緒に部屋を出て、オートロックの扉が閉まる音が聞こえた。
それを確認して、エレベーターに乗りこむ。
当たり前に一階に降りると思っていたら、そのまま通り過ぎて地下に向かったから驚いた。
エレベーターの扉が開くと、そこには地下駐車場が広がっていた。
そりゃ弁護士だもん。車くらい持ってるよね。
冬馬は降りる時に私の手を握り、そのまま車へ向かっていく。
高級車を取り扱っていることで有名なメーカーのエンブレムがついている黒い車。
車については詳しくないからよくわからないけれど、多分お高いんだろう。
「乗って」
助手席の扉を開けてくれて、乗り込む。
ふかふかのシートに身体が沈んだ。
そのまま冬馬は運転席に乗り込むと、私の住所を聞いてナビに打ち込む。
駐車場に降りた時にうっすら気が付いていたけれど、どうやら私の自宅まで送り届けてくれるらしい。
車で来たからまだ道もわからないし、正直言うとありがたい。
「今日の無料相談会の会場がそっち方面なんだ。ちょうど良かった」
ほら、と見せられた事務所のホームページ。確かにここから私の自宅の方面に向かった先にある大きなホテルで行われることになっていた。
でも多分、冬馬なら私の家が反対側方面でもホームページは見せずに全く同じことを言って送ってくれただろう。
そういう人だ。冬馬は昔から変わらず本当に優しい。
意外にも冬馬の自宅から私の自宅までは車だとすぐ近くで。なんとなく道もわかった気がする。
「送ってくれてありがとう。仕事がんばってね」
「あぁ。またあとで連絡する」
「……わかった。じゃあね、気を付けて」
手を振ると、車はゆっくりと走っていってすぐに見えなくなる。
それを見送って、私も自分の部屋に入った。
すぐに持って帰ってきた服を洗濯機に入れて、来ていたシフォンワンピースをハンガーにかけて部屋着に着替える。するとスマートフォンに佐藤先生から連絡が来ていることに気が付いた。
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