ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

第44話:逆に勤務時間が長くなった人とは


 さやかさんは、やるときは徹底的にやるみたい。まだまだ さやかさんのターンは続いていた。


「逆に、労働時間がやたら伸びた岸部さん、最近残業が多い理由は何だと思いますか?」


 岸部くんは入社3年目の若手。先輩たちから色々厄介事を任されたりしてる。クレーム対応なんかは かなりこっちで もらってあげてたけど、今やそれもできないからなぁ。


「お、俺はちゃんと仕事してます! 最近はクレーム処理で時間をくってて……クレームは絶対にゼロにはならないから……」


 やっぱり。客商売において、クレームがゼロになるのは難しい。注意して少なくすることはできても、ゼロが意外と難しいのだ。


「クレームの件数は、記録されていないので増減は分かりませんが、電話の記録を見た限り劇的に増えていませんよね?」

「そんなはずは! 実際、かなりの件数対応してます」

「それは、以前まで狭間さんの仕事だったのでは?」

「「「……」」」


 完全に営業たちは沈黙している。それどころか、動けないでいる程だ。

 ここまでで、俺の悪行とされていた事は疑いが晴れた。盲目的に俺のせいだと思わされていた節はあるけれど、少なくともそれは違うと証拠を叩きつけ、ここにいる全員が確かにおかしいと思っている。

 俺は正規に仕入れたものを、バラ売りができない会社の意向を崩さないように、間に入って、一旦商品を自腹で買い、バラ売り対応していたのだ。

 余った食材は試食に使って新規開拓をしたり、他のところにバラで売ったり、最終的に残ったものは、破格で八百屋やスーパーに卸していた。

 当初の売り上げ以外にあがった額は、空売りして会社に入れていたので、俺の手元にはお金は全く残っていない。元々会社のお金だからね。

 一方で、現金での集金で対応している客先について、納入量をごまかしたり、売り上げをごまかしたりして横領が蔓延しているようだった。

 売り上げが上がらないのを、なぜか既にクビにした俺のせいにして数カ月放置していたのも驚いた。

 さらに、大変なクレーム対応は俺の代わりに新人を充てて自分たちは取り組まない姿勢を貫いていたらしい。

 さやかさんの話では、俺が悪者になるように、印象操作をしたり、誘導していた人物がいるという。やたら雑用を任されたり、他人の仕事までやっているのに罵倒されたりしていたのはそのためだったか。


「さて、みなさんが落ち着かれたところでもう一度申し上げますが、株式会社神羅万象青果の代表は私、高鳥たかとりさやかが務めますが、専務にこの狭間新太はざまあらたを就けます」


 そこで、さやかさんはあえて話を止めたけれど、誰も不満を言ったり、騒いだりする人間はもういなかった。

 それは、専務の山本裕子さんもそうだし、リーダーの長谷川さんも含まれていた。誰も何も言わなかった。いや、言えなかった。

 そこからは、全員が新しい株式会社神羅万象青果の制度について さやかさんの話を前のめりで聞いていた。



 その内容はこうだった。

 有給は100%取得を目標にする。

 販売に関してインセンティブ成果報酬を設定し、頑張れば頑張るほど手取りが多くなるようにする。逆に、不正は見つけ次第、懲戒処分。これは解雇も含まれる。

 クレーム対応については、原因を作った人にペナルティ。なお、軽度なものは含まない、客先の一方的なものは含まない、過失によるものなど、避けられないものは含まないなど、とりあえずの条件が発表になった。

 これは、横領するのは犯罪なので、それだったら正規に稼いで堂々とお金をもらおうという考え。額は変わるのだろうが、数万円程度を横領することで職を追われて、刑事・民事で告訴されるリスクを考えたら、誰もやらないという「脅し」でもあった。

 今後 売り方は、柔軟に対応することとし、アイデアを出し、採用されれば社長賞を出すというものもあった。

 その他、大口案件の情報は、それだけで評価、実績になれば報酬対象となる。

 他社との情報交換が重要であることから、共同勉強会や交流会(飲み会)も開催されることとなった。

 頑張る人には より手厚い手当があり、会社に背を向けるものには厳しい鉄槌があるという、分かり易い内容。

 ここにいる営業たちの多くは既に横領に手を染めているので そっとしておくという選択肢はないのだ。デッドオアアライブ生か死か。すでに、会社の意向に逆らうことなどできない状態だった。

 こうして、さやかさんの完全勝利で社内の発表は終った。


「あ、そうだ。その他、結婚祝い金の制度も設けます。ハネムーン休暇も設けます。何度もするもんでもないのかもしれませんが、年齢制限や回数制限を設定しませんので、トライされてください♪」


 従来は、有給休暇もあってなきがごとしだったし、会社カレンダーもなかったし、年間休日も法定最低限の105日も割っていたし、休日出勤の手当てもなかった。分かりやすいくらいのブラック企業。それが株式会社森羅万象青果だった。

 それから考えたら段違いの改善だった。


「あのー」


 手を上げたのは中野さんだった。


「はい、中野さん」


 さやかさんが指名した。


「社長と結婚したいんですけど……」

「社員同士の結婚の場合、両方にお祝い金を支給しますけど、私は既に予約が入っているのでごめんなさい」


 さやかさんが、いたずらっぽく笑った。

 このタイミングで求婚する中野さんもどうかしているけど、一刀両断のさやかさんは本当に高校生なのだろうか。特に、他社との飲み会のアイデアなどは、誰か裏にブレーンがいそうだ。


 最後に、現専務の裕子さん、現リーダーの長谷川さんを呼んで、新社長さやかさん、新専務俺での4人での会議が始まった。

 なお、前社長は今後出社せず、そのまま引退の方向に進むという事で会議の前に帰ってしまったのだった。

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