ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ
第43話:いまさら俺の不正を疑われるとは
株式会社神羅万象青果の代表交代の話の時、彼女は現状自社が抱えている問題……闇の部分をいきなり暴き始めた。
心当たりのある関係者は静かになった。
ただ、その火の粉は俺の所にも飛んできていた。
「因果応報」、「塞翁が馬」これらは相反する言葉ではないだろうか。「因果応報」とは、過去の行いが現在に反映するという考え。良いことをすれば良い結果が返り、悪いことをすれば悪い結果が返るということ。
対して、「塞翁が馬」の方は、人生の幸不幸は予測できないもの。日ごろの行いは良い結果、悪い結果に無関係という無慈悲な考えだ。
さて、この場合はどうなるのか 正直、俺もグレーな部分があったのは認めるところ。
不正を主導していたと思われるリーダー長谷川さんの「狭間くんはもっとやっていたはず」というコメントに さやかさんがニヤリとした。
「調査対象は、当然 解雇になった狭間さんについても行いました」
さやかさんがそう言うと、視線で東ヶ崎さんに合図を送った。東ヶ崎さんは、「仕入れ額-販売額-粗利率」表を全員に配った。
資料が全体に行き渡ったところで、さやかさんが続けた。
「狭間さんは、逆の意味で異常でした。他の方の粗利率を見ると、15%程度でした。これは恐らく一般的な仲卸の粗利率より下回っています」
一拍置いて、営業たちを見ながら続けた。この辺、間の取り方も完璧だ。
「そして、狭間さんの粗利率は30%近かったです。約2倍ですよ!? もし、この方法が他の方でも実現できるなら、現状の販売方法は最適ではないことになりますね。改善の余地があります」
要するに、売上金を着服しているので、会社から見たら商品は納めているのに売り上げが上がらない商品が出てきているということ。粗利率が下がる→儲かっていない、ということになる。
確かに、俺は一旦自分で買い上げた商品をバラして売っていただけ。売りやすい形にパッケージしなおし、売れやすくしただけだ。
売り上げは当然会社に計上するけれど、当初の想定よりも高く売りあがることがある。その時は、適当に何かしらの商品を俺口座に売ったことにして、会社に売り上げを計上していたのだ。
この表は、「箱売りは崩さない、ばら売りはしない」という会社の方針は間違っている、ということも同時に証明してしまった。
「いま、変な話になっていますが、1円だって会社のお金を自分の物にしたら横領ですからね? さすがに正確な金額までは把握できませんが、おおよその横領額は分かります」
ここでさやかさんが、少し表情を緩めた。ゆっくりと室内を見渡してから言った。
「横領の時効は7年。7年分の横領額っていくらでしょうね?」
そんなことをしているヤツがいるのか……俺も他人の商品のロスまではチェックしてないから気づきもしなかった……
リーダー長谷川も黙ってしまった。完全敗北という事だろう。
まだ、さやかさんのターンらしい。追撃は止まらない。
「ソフトでは、勤怠管理もできます。ホテルエリア担当の中野さん」
「は、はい!」
中野さんが飛び上がるように返事をした。もう、降参していると思うけど……これ以上はオーバーキルでは!?
「大口受注ができると、商品をかき集めますよね? それがない現在と去年で勤務時間にほぼ差がないんですけど、去年はどうやって商品を集めたんでしょうね?」
「商品集めは……その、みんなで……やってるから……」
「みなさんの勤怠もチェックしましたけど、減ってないんですよね……勤務時間」
「あう……それは……」
「今後、営業車にGPSを付けることもできますけど、そうなると誰が今どこにいるか分かって効率的にお仕事ができますよね?」
「あ……ああ……」
中野さん、仕事中に知られると困るようなところにいるのかな?
「私が言いたいのは、商品を集めているのって結局 狭間さんがメインだったんじゃないですか? その狭間さんに電話でなんて言ったんですか?」
「あ……あ……狭間くん……ごめん……」
中野さんが俺の方を向き、謝罪の言葉を述べた。
どうも さやかさんは、以前の電話のときの中野さんの心無い言葉のことを覚えてくれていたらしい。
あの電話の意趣返しを俺に代わってしてくれたという事か。後で彼女にお礼を言わないと……10歳も俺より年下なのに、しっかりしすぎている。
以前、高校生だからという事だけで社長としての能力があるか疑った自分が恥ずかしい。彼女の実力は間違いないと確信した。
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