ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ
第25話:JKとデートとは
「狭間さん! デートに連れて行ってください!」
「え!?」
高鳥さんから食事中に言われた。
彼女の家にお世話になっている俺は、ちょっと色々麻痺し始めていた。
彼女の家は少し変わっていて、マンション1棟が丸々自宅というチートな金持ちの家の娘さんで、一人暮らしの上に家政婦さんが住み込みでいるという、現代の日本では中々見かけないタイプのお金持ちの家の子だった。
いや、俺が貧乏過ぎて知らないだけで、割といるのか!? こんな境遇の子!?
とにかく、彼女に……正確には彼女の家に、朝晩の食事と住む部屋を提供してもらっている。
2階がリビングで食事などはここだし、彼女と話すのもほとんどこのリビング。
5階は個人の部屋になっていて、エレベーターを出たら廊下があって玄関ドアもあってそれぞれの個人の部屋がある感じ。
俺の部屋の隣が彼女の部屋だけど、同じマンションの別の部屋に住んでいるような感じに捉えている。
ただ、食事は2階で一緒に食べるのでシェアマンションみたいな?
夕食中に高鳥さんから言われたのがデート。
額面通りに受け取れば「遊びに行きましょう」ということだけど、会社を興したいと自分の夢を語った彼女が歳が10個も違う俺に頼むということは、何か勉強になるとこに連れて行って欲しいということだろうか。
農家の家はこの間 連れて行ったからどんな感じかは分かっただろう。
「実は、いまちょっと勉強しているのが、『野菜の直売所』なんだけど、週末行ってみる?」
「はい! 狭間さんとならどこでも!」
彼女のキラキラした目を見ると、ちょっと誤解しそうになる俺。
俺が教えるものは素直に見て、学ぶと言っているだけであって、俺とならどこにでも行きたいという意味ではない。
***
週末、高鳥さんが休みの日に俺たちは出かけることになった。もっとも? 俺は? 毎日休みですけど? 訳の分からない農家周りで忙しくて? 転職活動できてませんけど?
そんな語尾に「?」がつきまくる自虐ネタを言いながら、彼女の家の高級セダンを1台お借りして運転させていただいていることろだった。
高鳥さんがメチャクチャ可愛い服装で今日に臨んだ。
なんて言ったらいいのか分からないけど、白いブラウスでふわっふわの感じで袖の部分の紐が蝶結びになっているやーつー。
スカートはブラウンで、ウエストがすごくくびれていて、背中の部分でこれまた紐が結ばれている。
全体に夏らしくすごく可愛らしい服だった。完全なるデート服。なぜ彼女はこの服を選んだのか⁈ 行先は予告通り野菜の直売所だよ!?
***
市外の野菜直売所に来た。ベンツのシートのお尻の形を覚えさせる機能ってお金持ちの人はみんな使ってるの!?
俺は今日、その機能の存在を知ったけど! 本当に必要!? これ!!
市内から車で約1時間かけてきたのは野菜直売所。
野菜直売所と言ったら小さくて無人の小屋で、100円を竹の集金箱に入れる様なイメージもあるかもしれないけれど、ここは広さ1500㎡はあり、ちょっとした学校のグラウンドくらいの広さがあった。
建物も立派で、外観だけを見たらスーパーみたいな感じ。
車も100台以上停められ、産地直送の野菜だけじゃなく、新鮮な魚、花、お惣菜などが扱われている一大食材販売テーマパークと言える。
すごいのは、ここに野菜や魚を持ち込む個人、会社、団体など登録者数が1600名、社近いあることだ。
その全てが県内で朝採って朝には商品として並べることができるようになっている。
しかも、商品がなくなったら その日のうちに商品を補充できるのだ。野菜なんかも置いているし、加工食品も置いている。つまり、絵にかいたような六次産業の成功例がここにあった。
「すごい。野菜も新鮮だ……あ、これとか仕入れたい!」
「ふふ、狭間さんお休みの日まで野菜なんですね」
高鳥さんに笑われてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「ここは六次産業の成功例なんだよ」
「ロクジサンギョウ……ってなんですか?」
「生産が一次産業、加工が二次産業、販売が三次産業で、それら全部をひとつのところでやってしまうのが、六次産業っていうの」
「あ、テレビで見たことあるかも」
そう言って、広い店内に置かれた棚の上の大量の野菜をみる俺たち。
「今はエリアごとの農家さんにリーダーを作ってそこに野菜を集めてもらってるけど、エリアごとにこんな直売所があったら、農家さんの野菜はもっともっと売れると思ってさ!」
「はー…そんなこと考えてたんですかぁ」
「だって、いつでも農家の人が野菜を持ち込めるんだよ?」
「そっか、仕入れとしても足りないと分かった時点で直売所に連絡を入れて野菜を準備してもらったらいい訳ですからね!」
「そうそう! この間の話じゃないけど、急に大量に必要になったらすごく助かると思って」
「でも、それだったら既に他でもやってるんじゃないですか?」
「そう! すごく頭いいね! 高鳥さん! ここは人が野菜をわざわざ車に乗って買いに来るんだよ。だから、農家さんはこの直売所に商品として並べるだけでいい。お客さんがここに来たくなる理由が何かあると思ってさ。それを見に来たんだよ」
「つまり、今日は、ここで私と楽しんだらミッションコンプリート?」
「ははは、そうなるね」
この施設では、地元の材料を使った飲食店もあり、見て、買って、食べて楽しめるようになっていた。
駐車場の開けたところではプチ夏祭りみたいなイベントもしていて、金魚すくいやヨーヨー釣り、射的なんかもあった。
俺は歳を忘れて高鳥さんと楽しんでしまった。風船プレゼントでは彼女はしっかり風船をもらっていたし、風船を持った彼女はとても可愛かった。
その後は、高鳥さんと一緒にご飯を食べて、その後デザートも食べた。
「あ! クレープ! 目の前で焼いてるの面白い!」
高鳥さんの目が一段と輝いた。流石JK。高鳥さんも甘いものには目がないらしい。確かに作ってるのが見れると、つい見ちゃうよね。
「あ、中にアイスが入ってる。クレープ生地がまだ温かいのに、アイスは冷たい! しかも、中に大きな苺のスライスがいっぱい入ってる!」
「あれは、地元のブランド苺だね。アイスがすぐに溶けちゃうから、ここでしか食べられないもの貴重だね」
クレープ生地がまだ温かいくらいでアイスを包むから、溶けるのは早い。つまり、ここでしか食べられないメニューなのだ。ちゃっかり地元のフルーツも使われている。
偉そうに分析しているけど、見ているうちに俺も食べたくなった。
「食べてみようか? 中くらいのヤツ?」
「んーん、デラックス!」
「一番大きいのかよ!」
「甘いものは別腹です」
高鳥さん、ほっそいのに食べ物どこに仕舞ってるんだよ!?
それでも、野菜直売所とか色気のないところにJKを連れてきてしまったのに、意外と楽しめたし、高鳥さんが喜んでくれたのが無性に嬉しかった。
「おいしい」って言った時の高鳥さんの笑顔がすごく印象的で……
そんな自分の気持ちに気づいた気がした休みの日だった。
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