ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ
第19話:JKの夢とは
高鳥さんの部屋で、彼女はベッドの上のクッションに背中を預けて座っている。俺は彼女のベッドのすぐ横に座っている。
彼女は自分の夢について教えてくれるらしい。俺は彼女のことが知りたいと思っていた。
「私……こう見えて、学校では人気者なんです」
いきなり自慢とか、普通だったら鼻につく話だ。
でも、彼女は確かに美人だし、足を捻挫したときも保健室の外に男女関係なくたくさんの人がいて励ましていた。やり方は小学生みたいだったけど、それだけみんな彼女のことが好きってことだろう。
「成績も悪くないし、運動もまあまあです。……いまは捻挫しちゃってるけど」
よく考えたら、俺は高校の時に捻挫する程、体育の時に動いてなかったかも。それだけ一生懸命動いてたってことだろう。確実に俺より「リア充」だな、彼女は。
「告白も割とされるし、家もそこそこお金持ちだから欲しいものとかもあんまり困らないし……」
羨ましい限りの人生だな! 俺は告白なんかされたことないし、むしろ告白した相手に邪険にされている人間だよ!
あと、家は「そこそこ」お金持ちではなく、「ちょっと引くほど」お金持ちだよ! 家がマンション一棟ってどんだけお金持ちなんだよ!
「でも、ある時 気づいたんです。『自分がしたいことがない』『自分が欲しいものがない』って」
ある意味羨ましい。全部手に入れたのだから、欲しいものがない。それにつながる欲がない。一度は言ってみたいし、感じてみたいなぁ。
「だから、バイトを始めたんです。社会を見るために」
社会勉強にしては、野菜の仲卸の事務とか かなりニッチなところを選んじゃってるなぁ。
普通、ファミレスの店員とか、カフェの店員とか、コンビニの店員とか、ケーキ屋さん、花屋さんなんかを選びそうだけどなぁ。女子高生だから。
「さすがに現場までは見れないけど、そこには一生懸命働いている人がいて、普段の生活ではその存在も見えないような裏方の人がいて、その人がいるから世の中が回っていて、それに感動したんです!」
普段知らないことを知るのって何となく「裏技」みたいでドキドキする感じ分かるなぁ。
知ってしまったら、誰かに言いたいんだけど、学校の友達とかだと共有できないんだよな。一人でニヤニヤする感じ……彼女もそんな感じなのだろうか。
「その中でも、一番頑張ってるのに目立たない……あー、そうじゃなかった! 私の夢! 夢は……会社を作ることです!」
「また大きく出たね! 何の会社なの?」
「野菜の……仲卸の会社を……もろに今の経験が影響していて恥ずかしいんですけど……笑わないでくださいね!」
「笑ったりしないよ。高鳥さんみたいに若い人が青果の仲卸に興味を持ってもらえるなんて、関係者の端くれとして嬉しいよ」
「若いなんて……狭間さんも十分若いです!」
「あ、そか。ははははは」
俺が高校生の時に、会社を作ってみたいなんて考えたりもしなかった。彼女はお父さんが会社をやっているって言ってたから、その影響もあるのかな。
つまり、サラブレットの子はサラブレット。なにも言わなくても、子供は生まれながらにして英才教育を受けているということか……すごいなぁ。俺とは全く違う。
「その会社では、狭間さんみたいに一生懸命な人がちゃんと評価される会社なんです」
ははは、少なからず、俺は彼女に同情されているな。情けないやら……
「うちは元々おじいちゃんが資産家で、子供はみんな自分の会社を興しているんです」
流石サラブレット!
「私の兄も自分で会社を興しましたし、私も……と思って」
すごい。でも、会社は興すのは簡単でも、収益を上げていったり、継続することが難しいんだ。それを高校生の彼女に伝えるのは、若い芽を潰すことになりそうで違うなと思った。
ただ、一から立ち上げてお客さんを獲得していくとしたら、数年は赤字になるだろう。黒字化するまで社員が頑張れるかどうか……
「おじいちゃんとパパからは経済的援助は取り付けてるんです。市場内での売買参加権の目処も付きました」
具体的! 俺の高校生の時とは全く違う! 彼女なら本当に仲卸業として起業してしまうかもしれない。
家もお金持ちだし、お爺さんもお金持ち。それぞれ会社を経営しているのならば、いくらくらい必要かは検討した上で支援を決めたのだろう。
「その社員1号として、狭間さんを狙ってました」
「え え ええー!?」
単なる夢を聞く話が、とんでもない爆弾を投下してきた。照れながらも、自信を見せる彼女の表情は素直に綺麗だと思ったのだった。
コメント