ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ
第10話:大量の野菜がそろわない理由とは
食後、大きな革張りのソファに座って、壁の大画面テレビで番組を見ていた。見てはいるど、内容は全く入ってこない。
会社が大量受注案件を落とし始めたというから、他社の担当者の連絡先を紹介したりしようと思ったのに、バカにされてしまったのだ。
そもそも急な解雇だったので引継ぎなど全然できてなかった。それでいいのか!? 会社の方は。
大きな画面では、お笑い番組で軽快なコントが放送されているけど、俺の気持ちは重たいままだった。
「さっきの電話ですか?」
高鳥さんが、俺の前にコーヒーを置いてくれた。
「ありがと。親切のつもりだったんだけど、後輩の俺がアドバイスとか思い上がっていたのかな……」
「そんなことはありません! 狭間さんは売上1位じゃないけど、書類の量は一番多かったです! 他の人の売り上げまで上げてませんでしたか!? 事務なら字で分かるんですよ」
確かに、エリアで起きた大量受注はエリアの担当者に上げるみたいな流れはあった。俺はみんな仲間だと思っていたから特に気にしてなかったけどな……
「そう言えば、靴が泥だらけだったんですけど、今日はどこに行ってたんですか?」
「あ、ごめん!玄関汚した?」
「全然気にしないでください」
「今日は、何件か仕入れ先の農家さんのところに行ってたんだ」
「え? そんなのあるんですか?」
「あ、そうか。これも一旦俺口座で仕入れてるから、事務的には1件になるのか」
担当している農家さんから何件も連絡が着て、「ジャガイモそろってるよ」とか「ズッキーニが良い具合」とか「新しく作付けした空芯菜を見て欲しい」とか色々あったのだ。
そもそも、会社が大量受注に対応できた理由の一つは、農家さんからの助けがあったからでもある。連絡すると出荷できる状態の物を早めに渡してもらったり、融通を利かせてくれていたのだ。
農協にはサイズなんかが決まっていて、出荷できる野菜と出荷できない野菜がある。うちはなんでも買い取っていたけど、もしかしたら、農協分もこっちに回してくれていたかもしれない。
大量の野菜がそろわなくなった理由は、他社とのコミュニケーション不足だけではないのだ。そんな農家さんとの信頼関係の場所は壊したくない。
俺が退職したことを伝えつつも、約束した野菜は俺が買うことを伝えてきた。もちろん、うちで食べる量と考えたら圧倒的に多すぎる量だ。
つまり、俺は仕入れた野菜を売りに行かないといけない。
うちの会社……いや、元の会社では価格が合わなかったスーパーとか、八百屋に行って事情を話して買い取ってもらう手配をしていたのだ。
農家さんたちの不安な顔、そして、八百屋さんやスーパーの担当者の人も不安な顔をしていた。
「お金 大丈夫だったんですか!?」
「それほど貯金がある訳じゃなかったから、割と綱渡りだったけど、軽トラのレンタル代を差し引いても多少は利益がでたよ」
「その……今度、その農家さんのところに私も連れて行ってもらえませんか?」
「え?……いいけど。別に面白いところじゃないよ?」
「いいんです!行きたいんです!」
高鳥さんには、お世話になりっぱなしだ。住むところも食べる物も準備してもらっている。彼女の望みならば、普段会っている人のところに連れて行くなんてお安い御用だ。
今度の週末、農家さんのところに行くことが決まったのだった。
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