話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

第7話:売れるのに売れない野菜とは


 時間はたっぷりあるので、自分のアパートから高鳥さんの家まで荷物を運んだ。引っ越しだ。

 ただ、粗方の物が準備されていたし、高鳥さんの家のもの方が数段良いものだったので、着替えやパソコンなど以外はリサイクルショップに引き取ってもらった。

 この時、古い家電なんかはお金にならないことを初めて知った。しかも、6年とか7年を過ぎると「古い」家電になるのだそうだ。

 引っ越しとは言いながら、力仕事もなく、自分の家と高鳥さんの家を往復するだけで終わった。服はそれほど多いという訳ではなくても、タンス一個分はあるのだから、それなりの量だ。

 高鳥さんの家の車をお借りしてしまった。レクサスってぼろい服を乗せても法律で咎められたりしないですよね?

 ぎこちないながらも、高鳥さんの家での生活が始まった。彼女は毎朝2階のリビングで食事を取る。そして、あの家には住み込みの家政婦さんがいた。そりゃあ、一人であんな大きな家は管理できないよね。

 朝食、夕食は家政婦さんが作ってくれる。掃除も家政婦さん。洗濯も家政婦さん。俺の出る幕が全くない。俺は何を期待されてここに呼ばれたのか……

 新しい生活になって数日、ようやく慣れ始めてきた矢先、会社での小さな異変を高鳥さんが伝えてくれた。


「狭間さん、今日は2つ話があります!」


 リビングの椅子の方のテーブルに座って高鳥さんが言った。「椅子の方」とは、この部屋には2つのテーブルがあって、テーブルに椅子がある背の高いテーブルと屋久杉的な大きな木を縦にスライスした様な天板の低いテーブルがあるのだ。

 低いテーブルの方は下にラグが敷かれていて、床に座ることもできるようになっていた。

 高鳥さんはもっぱら背の高い方のテーブルに座って生活をしているようだった。俺的には床の方が合っていると感じていたけど。


「1つ目は、狭間さんの悪い噂が社内で流れ始めました」


 会社を辞めた人は悪く言われないと、今いる人が「良い人」になれないのだろうか。そんな会社は間違っていると思うのだけど……


「狭間さん、不正口座を開いたって言われてましたけど、心当たりありますか?」

「不正口座……あー、いわば『俺口座』があるわ。商品を社員が買うのは禁止だからうちの親がやってた八百屋名義で色々買ってたことかな」


 会社対会社で取引するには、口座を開く必要がある。信用のおけるお客さんとしか取引をしない。

 そして、ある程度の量を買ってくれるとか、定期的に買ってくれるとか、条件がいくつかあるのだ。

 俺は、実家の八百屋名義で取引口座を開いた。まあ、既に主を失って名前だけの八百屋だけどな。手続きは正しくやったので、ここは問題ない。正規価格で売るという約束をして、会社にも話は通してある。


「え  なんで自分で売ってるものを買ってたんですか?」

「まぁ、色々あるけど、売れ残ったものを買ってうちで食べてたりとか……」

「え、それって定価ですか? それとも社員価格?」

「野菜に定価はないから何とも言えないけど、ちゃんとお客さんに出す販売価格で買い取ってたよ?」

「それって別に悪くないんじゃないですか?」

「それでも、社員が自社の野菜を買うことは社内ルールで禁止されていたしね。黒じゃないけどグレーくらいかな?」

「それは、私的にはセーフです。では、もう一つの方の話です」


 高鳥さんは、前のめりで話していたけど、俺の話を聞いて椅子に座りなおした。まあ、不正はしていないのでよしとしてもらっておこう。


「もう一つは、会社内でのトラブルです。狭間さんの担当エリアは一部を中野さんが回っているみたいなんですけど、高級レストランのシェフたちから試食はないのかと言われて、ないと答えたら野菜を買ってもらえなかったみたいです」


 中野さんとは俺の1個上の男性先輩。入社時には色々教えてくれたけど、どうもプライドが高いみたいで高圧的な感じで中々本当の意味では仲良くなれなかった人だ。

 決まったルールを1ミクロンも破らない堅物なところがある。ちょっと行き過ぎた正義感の人という感じだろうか。


「高級レストランのシェフは、見た目だけじゃなくて味で確かめたい人が多いからね。しかも、箱で持って行っても、トマト1個しか要らないとかよくあるんだよ」

「うちは1個売りとかしてませんもんね。卸しだし」

「そう。その代わり、新鮮だし、素性の知れた最高の品を届けることができる。だから、気に入った野菜は数倍の値段で買ってくれるんだ」

「へー、そんなニーズがあるんですね」

「ただ、会社的には決まった最低販売数量があるから、俺が一旦買って、小分けにしてシェフに売ってたんだよ。全数売れる訳じゃないから、一部は試食にしたり、他に売ったりしてた」

「え  じゃあ、それがさっきの不正口座ですか!?」

「そうなるね。ただじゃ売れないから、売れる形にパッケージし直すための口座かな」

「余った野菜はどうなるんですか?」

「八百屋とか、スーパーとかに安く卸したり、量が少なかったら自分で食べたりしてとかかな」

「それって売り上げはどうなんですか?」

「バラす前の野菜は適正価格で俺が買ってるし、その分はお金は当然支払うから会社的には損はないね」

「でも、八百屋さんとかスーパーに売ってたらうちの会社の機会損失になるんじゃ!?」

「難しい言葉を知ってたね」


 機会損失とは、俺が野菜を売ってしまうことでその八百屋やスーパーが野菜をそれ以上買う必要がなくなり、会社が売ろうとしていた野菜が売れなくなることをいう。


「この場合の八百屋やスーパーは、うちの価格では絶対買わないお客さんなんだ。開拓自体も自分でやった所だし、個人的に販売していることも話してるからそのお店に聞きに行っても店長とか仕入れ担当の人は何も言わないと思うよ?その代わりかなり安く卸してたからね」

「それじゃあ、売れるのに売れない形にしかしていない会社の方が機会損失……」


 機会損失好きだなぁ……うちの会社はワンマン社長が決めた売り方しかできない。

 一方、シェフたちは高いお金を出してでも最高の素材を手に入れたい。一握りの最高の素材以外は重要視されておらず、賄に使われたり、酷いところでは余って捨てられていることもあるようだ。

 せっかくの野菜たちだから、俺は無駄にならないような形にして売ることを思いつき、できるだけクリーンにして販売しているという訳だ。


「中野さんはお客さんのところで大クレームな上に売れなくてギャーギャー言ってましたよ」


 キシシと悪い顔でほくそ笑む高鳥さん。元々ちょっと意地悪な顔をしているから、こういう表情が似合うなぁ。

「ポンコツ扱いされて仕事をクビになったら会社は立ち行かなくなり元カノが詰んだ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く