恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~

寧子さくら

おためしは未来永劫へ(1)

 その後は啓さんの幼いころのアルバムを見たり、彼の父親のまるで料亭のような食事を楽しんだりした。気付けばすっかり日が暮れてしまって、名残惜しい気持ちで別れを告げた。

「悪かった。こんな遅くなってしまって」
「いえ、楽しかったです」
「そのようだな。あんなに仲良くなって」
「す、すみません。啓さんのお父様、とっても話しやすくて……」

 とても明るくて、話し上手で、気付けば完全に持っていかれていた。さすが元経営者とだけあって、コミュニケーション能力の高さに脱帽したくらい。
 だけど……。

「なんだ。俺とは大違いだって?」
「そんなこと言ってません! 心を読まないでください……!」
「仕事での交渉力だけあれば十分だろ」

 父親との違いが分かっているのか、啓さんは開き直って口を尖らせる。たまにこうやって子供っぽいところは、ある意味よく似てるけど。

「まあでも楽しそうでよかった。家族と仲良くしてもらえるのは嬉しいものだな」
「あ……はい」

 家族、という言葉に思わず反応してしまう。確かに啓さんはさっき、私と結婚すると言っていた。しかしながら、そんなことは一言も聞いていない。

「あの、さっき……」

 思い切って聞いてみようとすると、彼はハンドルを切って来た道とは明らかに違う道を曲がる。

「どこへ行かれるんですか?」
「少しだけ寄り道してもいいか? 今日は何もないだろ」
「はい……?」

 私の質問はすっかり流れてしまったけれど、何だか聞けそうな雰囲気ではない。
 あとで折を見て話そうと思いながら、車はどんどんと明かりがほとんどない山道を登って行った。


 山頂へ到着すると、車を停める。
 彼に促され外へ出ると、ぴゅうっと強い風が吹き抜けた。

「ちょっと寒いか。おいで」

 手を引かれながらついていくと、整備された階段を上ったところで目の前に綺麗な夜景が広がった。

「わ……すごい……」

 東京で見るような、高層ビルが立ち並ぶギラギラと眩しい夜景ではない。光の粒が何か所かに密集し、疎らに目下を照らしている。

「綺麗だな。と言いつつ俺も初めて来たんだが」
「ふふ、そうなんですね」

 控えめな夜景を見つめながら、どうしてここに寄ってくれたのだろうかと考える。ちらりと彼に視線を向けると、自然と目が合い体を向かい合わせた。

「さっきは悪かった。あの場で勝手に」

 その一言で、何の話かはすぐに分かった。

「言った通り、俺は仁菜と結婚したいと思ってる。嫌か?」
「い、いえ……ただ急すぎて驚いているというか……」

 そんな雰囲気もなかった上に、私たちはまだ恋人同士になったばかりだ。

「俺なりに考えて、やっぱり俺には恋愛が向いていないんだ」
「え……」
「君との時間も大切にしたけれど、仕事が大事であることは変わらないから、これから寂しく思わせてしまうこともあると思う」
「それは承知してます。平気ですよ? 私は」

 啓さんは私の恋人である以前に社長だ。仕事より優先して欲しいなんて思うわけもないし、そんな仕事に一生懸命な彼だから好きになったのだ。

「仁菜ならそう言ってくれると思った。でも俺が嫌なんだ。仕事以外では君との時間を大切にしたいし、ずっと傍にいてほしいと思ってる」
「啓さん……」
「だから恋人なんていつか切れてしまう契約なんかより、君と永久的な契約を結びたいんだが……どうだろう」

 彼の瞳に、キラキラと夜景の明かりが反射して見える。そしてその奥には、しっかりと私をとらえていた。

「……私も啓さんと一緒にいたいです。断る理由なんてあるわけないじゃないですか」
「そうか……。よかった。これでも緊張してたんだ」
「えっどこかですか!?」

 父親の前でといい、今ですら啓さんからは緊張のきの字すら見えない。やっぱり彼は分かりづらい。

「仁菜が言う平凡なプロポーズ、というのがよく分からず悩んだが……これでよかったか?」
「あ……覚えててくれてたんですね」

 以前、二人で結婚式やプロポーズについて話したことを思い出す。咄嗟に出たことをちゃんと覚えててくれるなんて。
 正直、特別こだわりなんてなかったけど……。

「啓さんだったら何でも嬉しいです」

 言いながら、自ら彼に抱きつく。しっかりと抱きしめられると、額にキスが落とされた。

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