恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~

寧子さくら

過去とこれから(2)

 結局お風呂場だけで啓さんが満足するわけはなく。ベッドに移動した後も散々愛し合い、だらしない体をベッドに沈み込ませた。
 いくら体の相性が良いと言っても、彼のタフさには敵わない。疲れ切った私の体を労わるようになぞり、彼は小さく微笑んだ。

「仁菜のことはいくらでも抱いていられるが、一緒に寝る時間も至福だからな」
「もう……」

 ごく自然に腕枕をされ、しっとりと素肌が重なると、抱かれていた時とはまた違う幸福に包まれた。
 この幸せを彼と共有できていることが嬉しくて、彼の胸に顔をうずめる。あまりに心地良くて、すぐに夢の中に落ちてしまいそうだ。
 ぼんやりとした思考の中で、彼がおもむろに口を開いた。

「仁菜。来週末って空いてるか?」
「ふふ、もう来週の話ですか? 多分大丈夫だとは思いますけど」

 まだ今週末すら迎えていないのに、既にデートの約束だろうか。相変わらず寂しがりやの彼を微笑ましく思ったのも束の間、啓さんはどこか真剣な様子だ。

「どうかしたんですか……?」
「実は、父に会おうと思うんだ」
「え……」

 啓さんの父親は確か、母親が亡くなった後で行方をくらましたと聞いていた。そして、彼自身も父親に会う勇気はないと。

「七滝が居場所を知っていたんだ。俺に内緒で」
「確か七滝さんって、啓さんのお父様の秘書で……」
「……七滝とはそんなことも話すのか」

 啓さんは不機嫌そうにムスッと唇を尖らせた。

「い、いえ流れで聞いただけで……」
「まったく。あいつにだけは嫉妬したくないんだがな」

 啓さんは冗談っぽく、だけど本気で嫌そうにこぼした後で、話を戻す。

「いつまでも過去に囚われている自分が嫌なんだ。それに、不眠症だって治したいと思ってる。君にも心配をかけたくないから」
「はい……」
「だからこそ、父に会いたいんだ。でも、やはりまだ少し怖い。一緒に来てくれないか?」
「いいですけど……私でいいんですか?」
「仁菜がいいんだ。父に会おうと決心できたのも君のおかげだし、君といると不思議と勇気が出る」

 啓さんにそう望まれてしまっては、断る理由などはない。

「……わかりました。私でよければ」
「ありがとう」

 彼の父親に会うのは、私もすごく緊張する。でも彼がトラウマを克服し、前を向こうとしてるのだから、応援したかった。

「ちなみにどこに住んでいらっしゃるんですか?」

 場所によっては遠出になるかもしれない。事前に尋ねると、啓さんは早くも船をこぎ始めていた。

「……もう寝ちゃったんですか?」

 声をかけても、やはり彼は戻ってはこない。今週はどれくらい眠れたのだろうか。口には出さないけれど、いつも気がかりだった。
 啓さんが父親に会うことで、少しでも改善するといいけれど……。
 そっと頬を撫でると、くすぐったそうに身を捩る。そんな姿も可愛くて笑みをこぼすと、彼に抱かれながら深い眠りについた。



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