恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~
さよならとキス(1)
啓さんの言う通り、お見合いの件は私には関係がない。何度も自分に言い聞かせたが、簡単に納得できないのが人間というもの。分かってはいるのに、寝ても覚めても彼のことを考えてしまっている自分がいた。
なぜここまで脳内が彼に侵されているのか――
ダメだ。また良からぬ方向に思考がいってしまっている。この気持ちには蓋をしておかないと。
「はあ~……」
行き場のない、やるせない気持ちに大きなため息が漏れる二十一時過ぎ。週の前半ということもあって、今日はいつもより残業をしている人が少ない。私はというと、誰に仕事を依頼されたわけでもなく、ただ悩み過ぎて仕事がはかどらないという最悪な理由で残業していた。
プライベートを仕事に持ち込むなんて、社会人失格だ。
ちゃんとしないと、とパチンと頬を叩くと、同じく残業をしていたマネージャーが近づいてきた。
「姫松さん、まだ残ってたんだ。この間もらった企画書、フィードバックしてもいい?」
「は、はい」
残業中の急な声かけに背筋を伸ばす。
以前社長直々のアドバイスを貰ったあと、自分なりに会員の目線に立って、どんなサービスがあったらいいかを考えてみた。そこで過去に女性会員から実際に『相手の服装が嫌だった』や『デートの場所にセンスがない』などの不満があったことを思い出し、それを解消できるサービスを検討したのだ。
「方向性はよくなったと思うから、もう少しブラッシュアップしてくれる?」
「本当ですか……!」
「うん。一旦これで進めてみて。今は女性会員にしか目が向いていないのも気になるから、あわせて検討してもらえると」
「はい、ありがとうございます」
まだ企画が通った段階ですらないが、初めてマネージャーの好感触な反応を得られて頬が緩む。頭を下げると、マネージャーは「あまり遅くならないでね」と言い残し、先に退勤していった。
やはり褒められると嬉しい。同時に、仕事に全く身が入っていない自分を反省した。今は仕事中なんだから、他のことを考えるのはやめよう。
「よし、頑張ろう……!」
残りの作業はあと少し。改めて気合を入れ直すと、もう一度パソコンへ意識を向けた。
なんとか二十二時までに仕事を終え、退勤をする。ほとんど人がいないオフィスを歩いていくと、社長室の扉が開いていることに気が付いた。
せっかく啓さんのことを考えないようにしていたというのに。もしかしたら彼がいるかもしれない……そんな好奇心で近くを通りかかると、ちょうど中から七滝さんが出てきた。
「あ、姫松さん。お疲れ様です。社長に何か御用ですか?」
「え!? えっと……」
突然のことに理由を考えられておらず、部屋の奥を覗くと、啓さんとばっちり目が合ってしまった。
どうにか誤魔化そうと口から出た言葉は……。
「いえ、社長ではなく七滝さんに」
「私ですか?」
「はい、あの内見の件、お願いしたくて……」
「もちろんです。そういうことなら直接ではなく連絡していただいても」
「あ、そうですよね! すみませんお忙しいところ」
私が見え見えの嘘をついていることを見透かしているのか、七滝さんは小さく笑う。
そんなやり取りをしていると、啓さんがどこか不機嫌そうに社長室から顔を出した。
「二人で何話してるんだ」
「あの、内け――」
「社長には内緒、ですよね」
「え!?」
大したことではないのに、七滝さんはわざとらしく人差し指を立ててみせる。啓さんはそれが気に入らなかったのか、ジロリと七滝さんに鋭い視線を向けた。
「おっと、私は怒られないうちに席を外しますね。では失礼します」
丁寧にお辞儀をして、七滝さんがその場を離れていく。
「なんなんだあいつは……」
「で、ですね。では私もそろそろ失礼しますね」
啓さんは未だ不機嫌そうな様子で、私も変に追及されないうちにと、踵を返す。
しかし、彼に手を引かれ社長室の中へと連れ込まれた。
なぜここまで脳内が彼に侵されているのか――
ダメだ。また良からぬ方向に思考がいってしまっている。この気持ちには蓋をしておかないと。
「はあ~……」
行き場のない、やるせない気持ちに大きなため息が漏れる二十一時過ぎ。週の前半ということもあって、今日はいつもより残業をしている人が少ない。私はというと、誰に仕事を依頼されたわけでもなく、ただ悩み過ぎて仕事がはかどらないという最悪な理由で残業していた。
プライベートを仕事に持ち込むなんて、社会人失格だ。
ちゃんとしないと、とパチンと頬を叩くと、同じく残業をしていたマネージャーが近づいてきた。
「姫松さん、まだ残ってたんだ。この間もらった企画書、フィードバックしてもいい?」
「は、はい」
残業中の急な声かけに背筋を伸ばす。
以前社長直々のアドバイスを貰ったあと、自分なりに会員の目線に立って、どんなサービスがあったらいいかを考えてみた。そこで過去に女性会員から実際に『相手の服装が嫌だった』や『デートの場所にセンスがない』などの不満があったことを思い出し、それを解消できるサービスを検討したのだ。
「方向性はよくなったと思うから、もう少しブラッシュアップしてくれる?」
「本当ですか……!」
「うん。一旦これで進めてみて。今は女性会員にしか目が向いていないのも気になるから、あわせて検討してもらえると」
「はい、ありがとうございます」
まだ企画が通った段階ですらないが、初めてマネージャーの好感触な反応を得られて頬が緩む。頭を下げると、マネージャーは「あまり遅くならないでね」と言い残し、先に退勤していった。
やはり褒められると嬉しい。同時に、仕事に全く身が入っていない自分を反省した。今は仕事中なんだから、他のことを考えるのはやめよう。
「よし、頑張ろう……!」
残りの作業はあと少し。改めて気合を入れ直すと、もう一度パソコンへ意識を向けた。
なんとか二十二時までに仕事を終え、退勤をする。ほとんど人がいないオフィスを歩いていくと、社長室の扉が開いていることに気が付いた。
せっかく啓さんのことを考えないようにしていたというのに。もしかしたら彼がいるかもしれない……そんな好奇心で近くを通りかかると、ちょうど中から七滝さんが出てきた。
「あ、姫松さん。お疲れ様です。社長に何か御用ですか?」
「え!? えっと……」
突然のことに理由を考えられておらず、部屋の奥を覗くと、啓さんとばっちり目が合ってしまった。
どうにか誤魔化そうと口から出た言葉は……。
「いえ、社長ではなく七滝さんに」
「私ですか?」
「はい、あの内見の件、お願いしたくて……」
「もちろんです。そういうことなら直接ではなく連絡していただいても」
「あ、そうですよね! すみませんお忙しいところ」
私が見え見えの嘘をついていることを見透かしているのか、七滝さんは小さく笑う。
そんなやり取りをしていると、啓さんがどこか不機嫌そうに社長室から顔を出した。
「二人で何話してるんだ」
「あの、内け――」
「社長には内緒、ですよね」
「え!?」
大したことではないのに、七滝さんはわざとらしく人差し指を立ててみせる。啓さんはそれが気に入らなかったのか、ジロリと七滝さんに鋭い視線を向けた。
「おっと、私は怒られないうちに席を外しますね。では失礼します」
丁寧にお辞儀をして、七滝さんがその場を離れていく。
「なんなんだあいつは……」
「で、ですね。では私もそろそろ失礼しますね」
啓さんは未だ不機嫌そうな様子で、私も変に追及されないうちにと、踵を返す。
しかし、彼に手を引かれ社長室の中へと連れ込まれた。
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