恋と遺伝子~相性98%のおためし同居生活~

寧子さくら

初めてのデートと二度目の×××(1)

 週末。約束のデートの日を迎え、社長の運転する車の助手席に座る。普段車に乗ることもなければ、男性とこうして二人で出かけるのも久しぶりだった。
 二人きりの車内。運転する社長を横目で見ると、澄ました顔で進行方向を見つめている。今日の社長は抜け感のあるジャケットに白のTシャツを覗かせた、とてもラフな格好だ。普段スーツが驚くほど似合う人だけれど、こうしたプライベートの姿も新鮮で、つい見惚れてしまう。
 視線を送りすぎてしまったのか、運転の合間に彼がこちらを見てドキリとした。

「なんだ、緊張してるのか」
「まあ、多少は……こういうの、久しぶりなので」
「そういえば恋人はいないと言っていたな」

 言われて、初めて社長と支店で会った際に、「恋人はいるか」と質問されたことを思い出す。今思えばそれも私に気を使ってくれていたのだと悟った。

「いつからいないか聞いてもいいか?」
「実は……もう三年近くいなくて」
「それは驚いたな。男が放っておかなそうなのに」
「まったくそんなことは……。フォローさせてしまってすみません」
「いや本心だ。君は綺麗だから」

 何の恥じらいもなく、社長が告げる。突然の誉め言葉に、私だけが動揺してしまって恥ずかしい。

「反応に困りますし、恐れ多いので、そう言っていただかなくて大丈夫です……」
「はは、謙虚だな」

 この一週間、意識的に二人の時間を作るようになって気付いたことがある。
 彼はよく笑う。たぶん私以上に。もちろん口を開けて大笑いなどはしない。けれど口角をあげて、とても上品に柔らかい表情を作る。……たまに意地悪く不敵な笑みを浮かべることもあるけれど。私はそんな彼の表情が好きになった。

「でも長い間恋人がいないのは気になるな。出会いがないのか、作る気がないのか」
「どうなんでしょう……。仕事が忙しかったのもありますが、興味がなかったに近いかもしれません」

 これまで付き合ってきた人たちは、みんな告白されてなんとなく付き合った人たちばかり。初めは上手く行っていても、そのうち「俺のこと好きじゃないでしょ」と振られてしまった。
 自分ではちゃんと好きだったとは思っていたけれど、振られてもさほど傷つかなかったことから、実際はそうではなかったのかもしれない。

「来るもの拒まず去る者追わずタイプ、か」
「そういうわけでは……。でも確かに流されるままに付き合ってた感じは否めないですね」

 会いたいと言われれば会うし、キスして欲しいと言われればする。何でも相手の望む通りにしていたら、つまらないと言われてしまうことがしばしば。おまけに相手が何をしてようと嫉妬もしないものだから、逆ギレされることもあって散々だった。

「だから恋愛って面倒だなって思って、ちょっと遠ざかってました。私に向いてないのかな~とか」
「なるほど。それは、君が自ら好きだと思える相手に出会ってないからかもな」
「うーん……そもそも好きってなんなんでしょうね」
「俺も助言できる立場ではないが、相手の為に何かをしてあげたいと思うことも関係あるんじゃないか。君みたいに相手に頼まれてじゃなくて」

 言われてみれば、自ら思ったことは一度もないかもしれない。恋愛だけでなく仕事でも、いつもいつも頼まれたら断れない性格だから。

「でも難しいですね。自分でもあまりこうしたいってことが普段からなくて」
「それなら今日は練習だな。行きたい場所やら希望があれば何でも言ってくれて構わない」
「えっ」

 そう言われても、正直これと言ってすぐには思いつかない。

「と言いつつ、俺もこうやって出かけること自体滅多にないから、思いついてないんだ」
「私に投げただけですか!?」
「はは、悪い。ま、適当に行こう。思いついたらお互いに言うでいいか?」
「はい、わかりました」

 ここまでノープランのデートも珍しい。けれどそれはそれで、気持ちが楽になった。

「ちなみに、社長のことも聞いていいですか?」
「なんだ?」
「いえ、恋愛はしないって仰ってたので……実際そっちの方はどうなのかな、と」

 それに、彼のような人がどんな恋愛をしてきたのか、単純に気になった。

「そうだな。だいたい振られるというのは君と似てるかもしれない」

 いつも仕事を優先してしまって、相手との時間を作れない。それが彼が恋愛する上で、一番の問題点だったらしい。
 一瞬社長のようなハイスペックな男性でも振られてしまうのかと思ったけれど、理由を聞けば納得だった。

「でも結局、相手の為に時間を割けないのも、振られて傷つかないのも、俺がちゃんと相手を想えてなかったからかもな」
「……何だか似てますね。私たち」
「まあ遺伝子上は相性が良いらしいからな。価値観も似るんじゃないか?」
「ふふ、確かに」

 話せば話すほど、私たちは似ている気がする。そしてなんとなく、まだまだ共通点があるようにも思えた。
 今日また、彼の新しい一面を知るのだろうか。それが少し楽しみで、心を弾ませた。

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