遥か夢こうのデウス・エクス・マキナ

兎月あぎ

第九章 第三話 闘いの前日

純平がとある部屋の一室に入る。中には一人の青年がいた、年齢的にはそこまで純平と大差ないだろう。
「おぉ、もう来たのかどうぞ座ってくれ」
「それでは失礼して…では本日の話し合いはいいものにしましょうイブックさん」
微かに笑みを浮かべる純平と笑うイブックが対面するのであった。




「イゼ、グレネード!」
「了解!」
格納庫のハッチを開け後方を確認しながらスモークグレネードをマキナを使い投げる、後方には数体の機動兵器に反重力車。現在検問をスルーしようと別ルートを通っていたところ補足されてしまい全速力で逃げている途中だ。
「次、フラッシュ!」
「ほい!」
タイミングを見計らいフラッシュグレネードを投げる、マキナの顔をすぐさま引っ込め楓はゴーグルを装着する。焚かれたスモークの中から機動兵器が先に出てくる次の瞬間、フラッシュグレネードが炸裂。辺りを白い光が包み込み追手の機動兵器の足が止まる、煙の中から反重力車が出てくるも馬力はこちらのほうが上。ぐんぐんと追手を引き離し何とか逃げ切ることができるのであった。

「あーもう!失敗した!」
「しょうがないよ、楓も頑張ってるし。ね?」
楓をなだめるイゼ、何とか先ほどの追手から逃げきれ一旦獣道に入り休憩している。楓も長時間の運転の上検問を通る際には慎重にならざるを得なく精神的にも疲労する、ミスの一つや二つあってもおかしくないのだ。
「一旦ここで仮眠しよ?」
「ごめん…ふぅ、そうしよっか」
現在位置はユーラシア大陸と北アメリカ大陸を渡ってしばらくした場所、ユーラシア大陸最東端と北アメリカ大陸最西端をつなぐ一本の長い橋を渡らなければならずその際に橋の下を使って通過しようとしていたところを補足されたのだ。
ここから先はまた道なき道を通って行かなければならない。運転は楓にまかせっきりのためダウンされては元の子もない、イゼは楓が寝室に入っていくのを確認した後外の空気を吸いに車外へと出るのだった。




「ではひとまず協定は先ほどのものでよろしいでしょうか」
「あぁ、問題ない。これで組ませてもらおう」
イブックが満足そうに背もたれにどっしりと寄りかかる、その背後にはマキナとイゼ、楓の写真に刺さったナイフ。純平はそれを見つけてとある話題を切り出す。
「ところでイブックさんデウス・エクス・マキナを探すのに注力しているそうで」
イブックの片眉が軽く持ち上がる。
「どうです、何か進展はありましたか?」
「あ、あぁ。徐々に追いつめている所だ、何も問題はないぞ」
「そうですか」
にこにこと笑いながら話す純平に対して少し機嫌が悪くなっている様子のイブック、そんなイブックは逆に純平に聞き返す。
「純平殿はどうしてあの悪魔のことが気になっているのかな?」
「いえいえ、あのイブックさんがかなりの人員を注がれているので気になっただけです、ところで悪魔とは?」
イブックは鼻をフンと鳴らし話し始めた。
「悪魔はあのデウスなんちゃらというやつのことだ、これはじいやから聞いた話だが過去の大戦において数々の機動兵器を破壊し集落や町は焼き尽くされその数は数えきれないほど」
「ほう?」
イブックは話を続ける。
「いくつもの研究施設を襲った挙句最重要器物まで盗まれたとも言われている、その際に出た被害人数は万にも上るといわれている。そんな悪魔が再び現れたのだ、悪魔のことを知っている人間は快く思っていないだろうな。それに…」
「それに?」
「奴の首をとれば私の将来は安泰だろう?おっと横取りしようだなんて思わないでくれ、これは私が先に目を付けたのだからな。まぁ純平殿には荷が重いでしょうが」
にやりと笑うイブック、そんな姿を見た純平はとある提案をする。
「大丈夫ですよ、そんなことしません…ですが。あなたの祖父、先々代から続く横領に悪事、これらに目をつけているのですがその件についてはどういたしましょう」
「なっ!?なぜそれを!?」
イブックが慌て始める、純平はぴらりと目の前に資料をぶら下げる。
「私が集めた資料によると…集落や町を強襲、後に金銭を強奪。抵抗が見受けられた場合には行き過ぎた武力行使、その数数百にも及んでおり」
イブックが資料を奪わんと襲い掛かるもそれをひらりと躱す純平、イブックはそのまま壁に衝突。
「デウス・エクス・マキナがとある研究施設を強襲、その騒動に紛れてあなたの父親は様々な最重要器物を盗み闇市で他国へと売りさばいた。そうして莫大な資産を手に入れたあなたたちはほかにも様々な悪事を働き、すべての罪をマキナにかぶせるように噂を流し続けこうしてイブックの重鎮まで上り詰めたと…そういうことですよね?」
「貴様ァ!調子に乗るのもいい加減に!」
そうイブックがナイフと何かのリモコンを持ち出し喋っていると外からドタドタと何かが走ってくる音が聞こえてくる。そして二人のいる部屋の前まで足音が来るとそのまま勢いよく扉が開かれ機動特殊部隊が突入してきた。
それはイブックの4大勢力の内の一つカワカの機動特殊部隊だったのだ、というのも4大勢力は日々メガシティイブックのポジション争いをしており常に険悪な中成り立っている。そんな時4大勢力のうちの一つが悪事を働いておりポジション争いから脱してくれるとなればこうして証拠さえ出せば動いてくれるのも容易である。その中でも正義感の強いカワカに純平は頼み込んだのだ。
「そこまでだイブック・フール!貴様等の悪事はすべて証拠が集まったぞ、貴様の祖父と父親は既に拘束済みだ!そのままおとなしく投降しろ!」
悔しそうに歯ぎしりをするイブック、だがすぐさま机の後ろに隠れ何かを操作し始めたのだ。次の瞬間ガコンと音と共にビル全体が揺れイブックと純平たちのいた床が切り離される。
「なっ、なんだ!?」
「こうなったばかりは仕方ないこの地球ごと滅ぶがいいわ!」
「何を言っている!」
そうこうしている内にイブックは離れた場所に行ってしまいすぐに捕まえることのできない場所まで行ってしまった、特殊機動部隊はすぐさまイブックを追いかけ始めたが捕まえることができるかは分からない。
それよりイブックが去り際に言っていたこの星ごと滅ぶがいいということ、この真相を確かめるため純平はすぐさまとある場所に連絡するのだった。




メガシティイブックまであと数時間というところまで来たイゼと楓、検問は最初期ほどの数は配置されておらず慎重に進めば何とか通り抜けることのできるほどであった。
そんな折レーダーにとあるものを感知したと同時に純平から連絡が入ってきたのだ。
「純平、何かわかったの?」
「そんな場合じゃない!今から落ち着いて聞いてくれ、現在地球の衛星軌道上にある2つの人工衛星がイブックに落ちてきていることが分かった!その上未確認の星らしき物体が急速にイブックに接近中らしい、これらがぶつかればイブックどころか地球が崩壊してしまう!」
そんな話をしている中イゼが声を上げる。
「ねぇ、楓。禍ツ星がどんどん近づいてきてるよ!」
「なっ!?」
楓がレーダーを確認すると確かに速度を上昇させ地球へと近づいてくる禍ツ星を確認することができた。
「純平、よく聞いて未確認の星らしきものは恐らく禍ツ星と呼ばれてるもの。こちらも今接近しているのを確認したわ」
「そうか…しかしどう対処すればいいのかは分かるか?」
楓が受話器から耳を外すとイゼに向き直り真剣な眼差しで見つめる。
「イゼ、マキナはいつでも出せるけどあなたはあれと戦う覚悟はある?」
「何を言っているんだい!?イゼちゃんにあれを止めてもらうつもりかい、そんな無茶な!?」
「あんたには聞いてない!マキナとイゼならできると分かってるから聞いているの!」
受話器に向かって怒鳴る楓、それに委縮したのか純平の声が聞こえなくなる。
「イゼ…頼める?」
「私で…できるの?」
「できる、私が保証する」
数秒の間静寂が訪れる、イゼが口を開け答えたのは。
「…じゃあ、やる」
「覚悟は決まったね。純平!今からイブックに行くから衛星軌道に機動兵器を撃ち出せるよう衛星飛行用飛行場を開けておいて!今すぐに行動、あと人工衛星2つはあんたたちでなんとかして、いいね!」
「そんな急に!?」
「イゼ、今から教えることをよく聞いておいてね?」
こうして禍ツ星を止めるための闘いが始まったのであった。

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