遥か夢こうのデウス・エクス・マキナ

兎月あぎ

第八章 第一話 思考の一日

賭博都市グロコムから約二日ほど車を走らせた場所にて。
「イゼちゃん調子はどう?」
「ちょっとぎこちないかなぁ…もうちょっと動いてみるね?」
「了解」
あの事件から3日が経った、マキナがああなった以上安易にイゼを乗せるわけにはいかなかったのでとりあえず換気の後すぐさまドローンを飛ばしスキャンを行った。内部フレームに特に異変はない、だが装甲パーツがすべて今までとは別のものに置き換わっていた。それも構造式は本来組み合わさることがない物同士で構成されており、この装甲を自らの手で再現できようものならば人生を左右しかねないほどである。
変わっていない部分があるとすれば臨時でつけているハドワーカーの腕ぐらいである。こちらは戦闘後の傷ついた状態だったため、今回の事件で置き換わったのはマキナ本来の装甲部分であることがわかる。
「ふっ、とうっ、やっ!」
「………」
今は放置していても状況は何も変わらないため今まで通りの修理、メンテナンス作業を行い、グロコムを出発。広大な土地があることを生かして新しくなったマキナの稼働実験を行っている。
今のところ大きな問題もなく進んでおり一通りの動きはし終わったところである。
「ちょっぴり動きが重い気がするんだよねぇ、なんだか固い感じ」
「装甲が変わって重くなったのかな…でも総重量はそこまで変わった様子はなかったし、とりあえず関節部分の締め付けを少し緩くするね」
「はーい」
そう言ってマキナが格納庫のほうへと戻ってくる。そのタイミングでハッチを開け、中にマキナを入れ固定し関節の締め付け作業に移行する。しばらくして締め付け作業も滞りなく終了し再びマキナが外へと出る。
次はスラスターを使用した空中駆動の稼働実験である。少し軽い運動をこなした後、空へと飛びあがり様々な方向へと向きを変え着地する。これを数度繰り返した後さらに高くへ飛びあがりぴったりとその場に留まり姿勢制御を行う、これも数度繰り返し入念にチェックを行う。
「うん、問題ないよ~。ただやっぱりなんか違和感あるなぁ」
「了解、違和感かぁ…事象を理解できてないから対応しようがないのがなんともね。とりあえず稼働実験はこれで終わりかな?お疲れ様」
マキナが格納庫内へと戻ってくる。
「お風呂入ってくるね~」
「はい、行ってらっしゃい」
戻ってくるなりそう言ってイゼは風呂場へと駆けていった。
楓は引き続きマキナのメンテナンスを続ける、と言っても最終確認だけなのでやることもほとんどないのだが。確認作業も終わり一息つく楓、その目線の先にはマキナの元装甲の破片の山が積みあがっていた。
あの事件の後冷えた装甲をすぐさま回収小さなかけらは分析器にかけている、結果はすでに構造式が崩壊し始めており徐々にボロボロになっていき最終的に粉のようになってしまうことがわかっているのでなんとかインゴット状にできないか悪戦苦闘している所だ。
熱に弱いのだろうかと考えて小さなかけらの端っこを炙ってみたのだが、特に変化はなかった。全てが砂状になる前に一度大きな工房に寄って精錬炉に掛けてみたいのだが、そう考えている内に風呂場からイゼが返ってきた。
「ただいま~、楓もお風呂に入ったら~?」
「あっ、うん。そうするね」
一旦冷静になるのも兼ねてイゼの勧め通りお風呂場へと向かう楓であった。

「マッキナ~マッキナ~♪強いぞマッキッナ~♪」
即興で作ったのだろう、へんてこな歌を歌いながらイゼはマキナの操縦席に乗り込む。イゼがマキナの操縦席に乗り込むと同時にマキナが起動、様々な画面が展開され今のマキナの状態を映し出す。それらを鼻歌を歌いながら読み上げていくイゼ、その中に一つだけみなれないものがあったが読むことすらままならない物であったためとりあえず放置しておくことにした。
まだまだマキナの機能もすべてを把握しているわけではないためもし新しいものだったとしても判別がつかない、こういったものはすべてわかるまでは楓に放りっぱなしにしている。下手に触って暴走されても困るのだが。
それにしても少し前までのイゼでは想像もつかないような状況となっている、というのも読み書きすらほとんどしてこなかった人生だったが今では読みのほうは何とかなる領域まで来ている。スラム街に住んでいれば経験することのないこともいっぱいできたそのことについてはマキナとひょう爺、それに楓に感謝している。
そんなことをしていると楓が風呂場から上がったのかこちらにやってくる、先ほど見つけた情報のことを楓に話しマキナのことについて語らうのであった。

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