遥か夢こうのデウス・エクス・マキナ

兎月あぎ

第七章 第四話 雨中殻破り

「それでは優勝賞品贈呈です!」
ファンファーレと同時に優勝賞金とクロスメードの所有権が手渡される、手渡されたと同時に再び歓声が沸き上がりイゼは嬉しそうに手を観客に向けて振っていた。その後、2位の純平にも商品が手渡されその際にも歓声が沸き上がっていた。

控室にて。
「イゼちゃんお疲れ様!」
そう言って楓が近寄ってくる。
「えへへ、優勝したよ楓!」
「おめでとう」
そう言って抱き合う二人その背後から一人の人間がやってきた、純平である。
「改めてお疲れ様、本当にいい勝負だったよ」
「どういたしまして!」
「で?何しに来たの」
相変わらず純平には手厳しい楓である。
「いや、これ以上は何もないよ。二人ともお疲れ様、またどこかで会うことがあればよろしくね」
「ふぅん、ならいいけど」
「うん、またね!」
そう言って純平とは別れたのであった。

その夜。
「「乾杯~」」
二人はグロコム内にあるレストランで食事をとっていた、今回のイゼの優勝祝いである。一旦マキナは修理のために格納庫内にて待っていてもらっている、優勝賞品であるクロスメードについても届いておりそれも格納庫内にしまってある。
二人とも今回は祝杯ということで運ばれてくるコース料理に舌鼓を打ちつつ、今まで生きてきた中であった話や試合中の話であったりと仲睦まじく過ごしていた。
そうこうしている内にとっぷりと日が暮れ二人帰路へとついていた、話す内容は今後どうするかということ。とりあえず今回手に入れた優勝賞金はひどく傷ついたマキナの補修、修理、メンテナンス費用に回すことにして生活費用はこれまで通り運送業で稼ごうという話となった。もちろんイゼは最初は全額使うなんてもったいないと言っていたが楓に言いくるめられ了承することとなった。




そのころ…
格納庫内にて。
格納庫内にはマキナとアマディロが鎮座しており非常灯の光に照らされ暗い中でもその装甲は輝いていた。そんな中格納庫内にて異音が響き始める、ギギ、ギギと何かしらが軋む音が聞こえる。その音は徐々に徐々に大きくなりピタッとやんだ。
その後数分間静寂が訪れた後ピキッと何かが割れる音が聞こえてきた、それは軋む音と同じように徐々に音が大きくなりしまいにはビキビキと連続して何かにひびの入る音が聞こえてきた。
そしてパンッと軽い何かの破裂音が響いたのを最後に再び静寂が訪れるのであった。




「ただいま~」
そう言って反重力車の中へと元気良く入り込むイゼ、その後ろを静かについていく楓。荷物を下ろしそれぞれの部屋へと戻ろうとしたとき、二人ともほぼ同時にとある違和感に気づいた。その違和感とは妙に室温が高いのである。現状原因はわからないにしろこの原因の元を見つけなくては、お互いそう考えたのか目を見合わせてすぐさま社内の探索にあたる。
今のところほかの何者かが侵入したといった痕跡はない、もちろんセキュリティは高度なものを搭載しているのでそうそう侵入されることなどないはずなのだが。操縦席側は特に問題なし、休憩室やキッチン、倉庫内も問題はなかった。
では残すところは、格納庫のみである。二人そろって格納庫のある方向へと近づいていく、温度は近づけば近づくほど徐々に高くなっていった。格納庫に入るためのスライド式ドアを開け中へと入る、格納庫内はあまりの暑さに天井に設置されたスプリンクラーが作動している。しかしスプリンクラーから出された水はあるものにあたるとすぐさま蒸発して水蒸気と化す。
「なっ!?」
「えっ!?」
二人の目の前で熱を発し続けるその正体は全身がひび割れあちこちから赤や橙色の光を発しているマキナだった。

「マキナ!」
「イゼちゃん!」
走りだそうとするイゼの首根っこを掴みその場にとどまらさせる。楓はすぐさま近くまでドローンを飛ばし様子を探るのだが。
「あまりの熱量と光で近づけないし何が起こっているのか全く分からない!」
楓も見たことのない現象に戸惑っており何をしていいか分からない状態である。ここから把握できることとしては顔まで全身にひびが入っており恐らく楓では修復できない状態にあること、熱量がとんでもなく恐らく触れてしまえば全身大やけどは免れないだろう。よくよく見れば肩などをロックする部分が上にひん曲がっている、まるで内側から膨大な力をかけられたように。
次の瞬間、二人の耳にバキッと何かが割れたような音がする。音がする方向を見るとマキナの顔の装甲が弾け飛んだ。
「マキナぁ!」
「イゼちゃん危ないから!」
マキナに近寄ろうとするイゼを必死に止める楓、その間にも徐々に徐々にマキナの装甲がはじけ飛ぶ。とりあえずはじけ飛んできた破片にあたらないように物陰に退避させてドローンで状況を確認する。
光により正しい状況を把握することはできないがさらに装甲が崩れていっていることがわかる。熱量も装甲がはがれていくたびに上がっていき、汗がしたたり落ちる。じゅわじゅわとスプリンクラーの水が水蒸気に変えられる、どれだけ時間がたったのだろう。
意外と短かったのかもしれない、だが感覚としては長かった。装甲が剥がれ落ちる音が聞こえなくなった。ドローンはあまりの暑さにダウンしてしまっておりもう目視で確認するしかない。物陰からそっとマキナのある方向を覗く、そこには。

新たな蒼い装甲を纏ったマキナが鎮座していた。

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