遥か夢こうのデウス・エクス・マキナ

兎月あぎ

第六章 第三話 灰色の鎌鼬

大鎌と短剣がぶつかり合う、だが膂力はマキナのほうが上だ。徐々にじりじりと押し込んでいく、しかし少し押し込んだところでするりと組み合いから抜けられてしまう。
「ほえっ!?」
背後に回られるも全スラスターを駆動させ高速で回れ右を行い、パイルバンカーの射出準備を行う。体を固定していないと反動で吹っ飛んでしまうのだが今は関係ない。すぐさま距離を詰めてくるナイツキラーに狙いをつけて発射する、のだが大鎌の柄の部分を使い腕を動かされ射線をずらされたため地面に杭を発射することになりその反動で変な体勢でひっくり返ってしまうこととなった。
「狙いが甘いぞ小娘」
もちろんそんな隙を見逃すノックズではない、すぐさま大鎌を振り下ろし腕を切断しようと刃が迫る。狙われたのは肘関節部分、イゼはすぐさまその場から離脱を試みようとするも間に合わない。肘関節部分を切断される、その瞬間イゼはマキナの腕を動かし前腕部分の装甲で受けきる。
ガキーンと硬いもの同士がぶつかる音が鳴り切断されるのは防いだようだった。切断できなかったのを察したノックズはすぐさまその場からナイツキラーを下がらせる。イゼは急いでマキナを立ち上がらせ距離を取り再び両者睨み合いの状態となる。
先に動いたのはマキナのほうだった全身のスラスターをフル活用しとんでもないスピードでまっすぐ突っ込む、その姿は流星のようであった。しかしナイツキラーは大鎌を構え直しただけでその場から動くことはなかった。
衝突する、その瞬間ナイツキラーの構えていた大鎌が少し動いた。そして短剣と大鎌が衝突した瞬間再びするりと避けられてしまい思いっきり壁に衝突する。
「うべっ!………ぴっ!?」
マキナが立ち上がった土煙を割き起き上がった瞬間目に映ったのは、大量の小型ミサイル。マキナは避ける暇もなくミサイルの雨あられを受けることとなる、ドカンドカンとミサイル着弾音がすると同時に操縦席内は揺れバランスを崩しそうになる。
「あわわわわわわ…」
操縦席内の視界パネルに被害報告が表示される、被害報告を見るところそこまでダメージは無いようだが右膝関節部分が一番ダメージを受けていた、だが動きに支障はないようだ。
土煙が上がる中短剣をショックガンと入れ替え、センサーを使い敵機の位置を把握する。恐らくセンサーで探ったのもばれているだろうがそんなことは関係ない、土煙の中から不意をつけるチャンスであるのだ。とあるものを取り出しながらナイツキラーがいるであろう場所に向けてショックガンを次々と放つのであった。




「まだまだ若いな」
小型ミサイル群を喰らったのだ、ダメージを受けるのは免れないだろう。小型とはいえ威力は相当なものだ、今回あの小娘の乗っている機体。今までの人生の中で一度も見たことのない機体だった、最新鋭の機体なのだろうか。ダメージはどこまで入ったのかは分からない。
「…むっ?」
土煙の中から微弱な電磁波を感知した。恐らくセンサーでこちらの位置を探っているのだろう、いったい次はどんな手を使ってくるのか。そう考えているとエネルギー弾が飛んでくる、すぐさま大鎌を使いガードする。しかし防いだ次の瞬間左肩のアーマーにエネルギー弾が着弾する、どうやらあまり狙いをつけずに撃ってきている様だった。
「ふむ…」
しかし一部のエネルギー弾が当たりはすれどほとんどを防いでおりダメージはほぼないに等しい、しょせんこの程度か、そう思っていたのだが何か違和感を感じる。その違和感はすぐにわかった、あまりにも土煙が立ち上っている時間が長すぎるのである。まさかと思い注視して精査するとスモークだということが分かった。その正体に気づいた次の瞬間スモークの中から一際まぶしいマズルフラッシュが見えたと同時に右肩付け根付近に大きな衝撃を受ける。
「ッく…」
スモークを2重に焚いてショックガンのレーザービームのエネルギー充填光を見えにくくしていたのだろう。侮っていた上に初歩的な手であったがために油断していた、勿論本命の攻撃が当たったのなら…そう考えていた次の瞬間スモークを割いてマキナが短剣を上段の構えを取りながら飛び出してきたのであった。




「ヒットぉ!次ぃ!」
地面に埋め込んでいた2個のスモークグレネードを破壊しナイツキラーにすぐさま襲い掛かる。
短剣を思いっきり振り下ろしナイツキラーと再び組み合う、次は絶対にすり抜けられないように力の加減を調節しながら様子を見る。次の瞬間大鎌がすっと動くも今回はすり抜けない、大鎌の軌道の後を追うように短剣を押し付ける。
そのまま盾を使い殴り掛かる、頭部にヒット。だが首が多少を横に向いただけでダメージには至らない。次にナイツキラーが大鎌を引いたと思ったらすぐさまその場で回転、大鎌によるなぎ払いだ。
これはすぐさま盾で防ぐ、硬いもの同士がぶつかった音がすると同時にパキッと軽い音が同時に聞こえた。音のした方向を見ると盾に小さくひびが入っていた、こうなってしまうと盾はもう数度しか使えないだろう。それだけあの大鎌は脅威であるのだ、油断できない。
すぐさま短剣を使い反撃に出る一撃二撃と攻撃を加え休む暇を与えはしない、しかしそれらの攻撃はすべて防がれてしまう。それでもなお攻撃する手は休めない、しかし相手もただ黙ってやられているわけではない。こちらの攻撃の間に少しではあるが相手も攻撃を挟み込んできている、どれも致命傷ではないものの少しずつダメージにはなってきている。
「機体性能の力に任せっきりで技量が追い付いていない、それじゃあ勝てんぞ小娘!」
「なにをぉ!ぐぅっ…説教は昔っから嫌いだぁ!」
確かにその通りなのである、イゼはマキナの機体性能に技量が追い付けていないのは楓から見ても分かってしまうのである。今までの相手はその力のごり押しで勝てていたものの今回の相手はあのノックズ、戦場での経験値が違う。
それでもかまわず攻撃を続けるイゼ、それをキレイに防いでいくノックズ。ノックズの防戦一方に見えて攻撃を受けているのはイゼ、このままでは負けてしまう。なにか形勢逆転できるようなものは無いのか。
次の瞬間マキナのハドワーカー側の肩装甲が弾き飛ばされた。
「なっ!?」
「あっ!?」
楓も思わず声を上げてしまう、ずしんと肩装甲が地面に落ち関節部分があらわになる。もちろんそんな隙を見逃すノックズではない、露わになった肩関節めがけて大鎌を振り下ろす。

間一髪、短剣が間に入り軽く切断は免れたものの切り込みを入れられてしまった。恐らく激しく動かしてしまえば徐々に動かなくなってしまうだろう。ここまでほぼ一方的にやられている、どうにかして一撃でも入れなければと焦るイゼ。
そんなイゼがとった行動は。
「うおおおおおお!」
「ただただ突進とは、とち狂ったか小娘!」
壊れかけの盾を構えながらのまっすぐ突進、そんな突進に対してノックズは大鎌を上段に構える。ブンと殺気とともに振り下ろされた大鎌は、盾に軌道をずらされ盾は大鎌の勢いを殺しきれず破壊されてしまう。
「今!」
イゼはチャンスを逃さなかった、軌道をずらされた大鎌は地面に刺さりすぐに引き戻せる状況ではない、そこにパイルバンカーの照準を合わし。
「いっけえええぇぇぇ!」
ガシュンと音とともに杭が発射され反動で腕がちぎれ飛ぶ。発射された杭はナイツキラーの肩に刺さり小さな爆発を起こす。
「ぬおっ!?」
ナイツキラーの左腕は今の一撃で使用不能となったのだ。
「どうだ!思い知ったか!」
自身の片腕もちぎれ飛んでいるのだがそんなこともお構いなしに相手を挑発するイゼ。そんなイゼに対しノックズは驚きを隠せないでいた。
「ふん!…まだ首は飛んでおらんわ、首を飛ばしてからそのセリフを言うんだな!勝負はついていないぞ小娘!」
「いいもん、決着をつけてやる!」
再び距離を取りお互いに片手で獲物を構え睨みあうマキナとナイツキラー。勝利の女神はどちらに微笑むのか。

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