遥か夢こうのデウス・エクス・マキナ

兎月あぎ

第三章 第二話 思案と脱出

第八地区メイン工房にて、所長と呼ばれていた少女がマキナの操縦席を開けようと試行錯誤している姿があった。普通の機動兵器ならばいじれば操縦席を開いてくれる部品があるのだが、この機体からはその部品が見つからない。他の部分にあるのかはたまた部品自体がないのか。
現状操縦席が開けれないことが分かったので他の部分を見ていく、それにしても。
「こんな綺麗な機動兵器今まで見たこと無いんだよねぇ…ん?」
機体の装甲部分を指で撫でているとザラっとした部分に当たる。そこを見ると何かが彫られていた。
「…擦れてて全部は読みにくいな、なになに?ス…マキナ?読みにくいし…この機体名称かな?にしても掘った人は何考えてるんだ、こんな乱雑に掘ったら亀裂になって装甲がはげちゃうのに…いや?」
少女は突然堀跡を爪でカリカリと削る。
「この装甲…旧世代オルジェネ級じゃないの?なら装甲が壊れてないのも納得だし、だとしたらこの機動兵器全部が旧世代級?残ってるのが不思議なくらいだけど…だから見たことがなかった…?いやでもこの僕が…」
そうぶつぶつと呟く少女を周りが不思議な目で見る中、とことことどこかへ歩いていくのであった。




あれからニ日ほどたったのだが未だこの牢獄から出られる気配がない。イゼは看守に何度も説得を試みているのだが一向に開放してくれる気配もなく、というか反応すらしなくなってきたのだが。
「いい加減出してくれないかなぁ…ご飯は美味しいんだけども」
そう、ここでは固形食糧ではなくパンや野菜が出てくるのである。逆に言えばそれだけなのであるが、イゼにとっては珍しいものである、さすが都市部。次はどんな手で看守の注意を引こうかと考えていると。
「おい、一応バッグの中身の精査は終了したぞ。端末内からは血液、遺伝子情報が一致するデータが見つかったことからお前のものであると一応判断された。機動兵器に関してはまだ精査中な上呼び出しが来ている、地図は端末に入れておいたからそれで見るといい、今日中には工房まで行くように」
とうとう牢屋の中から解放される時が来たのである、イゼは空に向かって両腕を突き上げる。
「やっと出れるぅぅぅ!やったあああぁぁぁ!」
「あぁ、うるさい!さっさと行け!」
しっしと手を振る看守、荷物を受け取ったイゼは急いで牢を出る。パタパタと足音を響かせながらイゼはその場を去っていったのであった。

昼食に久しぶりの固形食糧をかじりながら街中を歩くイゼ、周囲にはそれなりに人通りもあり、たまにイゼの方を見る人はいれどすぐに横を通り去っていくため視線はそこまで気になるものでもなかった。イゼを見る人はぼろぼろな服装を気にしてか、はたまたその容姿に見惚れているか恐らくその2択に分かれるであろう。
そんなイゼは工房までの地図をくるくる回し眺めながら歩いていた。
「それにしても便利なものだなぁ…でもなんで私の遺伝子情報?とか入ってたんだろう。最初に触ったのはマキナの中だったしなぁ」
画面をトントン叩くが反応はいまのところない、これをどうにかしていた人物…ひょう爺ぐらいだろうか。ところで今ひょう爺はどこで何をしているのだろうか、そう考えるも勘当だと言い渡され喧嘩しているような状態で腹も立てていたイゼはすぐさま頭を振りその思考を振り払った。
「工房?はここか…ちょっと遠いな。ん、商店街がある!先にこっちに行ってからでいいよね、よし!」
そう決めるとイゼはバッグを背負い直し歩道を駆け商店街方面へと走っていったのであった。

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