遥か夢こうのデウス・エクス・マキナ

兎月あぎ

第三章 第一話 煙昇る新天地…だけど

大渓谷の間をゆっくりと移動する影が一つ、マキナである。現在は工業都市ルピスを目指して移動中である、マキナの中では固形食糧を口にしながら操縦するイゼの姿があった。
はらはらはひははぁまだまだ先かなぁ?んぐ…、そろそろ見えてきてもいいんだけど」
あの戦闘からはや数日、同じような風景を見て移動するだけでは飽きてしまっていた。今のイゼにとっては平穏よりも何かが起こって欲しいらしい。今まで住んでいたスラム街を無理やり飛び出す形となってしまい、外の世界の情報をほとんど知らないイゼにとって目新しいものが飛び込んでくるのは楽しいだろう。だからこそ同じような風景が続くと飽きが早く来てしまう。
今の所通ってきたルートが悪いのか、誰ともすれちがうこともなく移動し続けている。こうも人がいないと寂しいなと思っていると、前方にいくつもの煙が立ち上っているのが見えた。瞬間イゼの顔が明るくなる。
「見えた!」
マキナの移動速度が上がる。街の外壁も見えてきた、これから目新しいものが次から次へと現れるだろう。イゼの胸の高鳴りは今や最高潮へと達していた。街へ入るためのゲートらしきものも見え様々な車や機体が出入りするのが見える、そこにできている列に並ぶべくイゼはマキナを動かしたのであった。




「なんでえええええええええ!?」
「うるさいぞ」
場所は変わって工業都市ルピス第八地区仮牢獄・・内、そこにイゼは囚われていた。
「なんでも何もお前には窃盗容疑がかかっていると説明しただろう。結果が出るまでそこで大人しく待っておけ」
そう現在イゼには窃盗容疑がかかっているのである。勿論イゼは窃盗した覚えなどないのだが…。
「窃盗してないもん!こっから出してよ!」
「馬鹿言え!所属不明機に乗っていた上に大量の電子マネー、その上大都市オリゴ近郊のスラム街出身だと?逆に怪しまない方がおかしいと思うんだが、違うか?」
「違う!」
「はぁ…そうか、まぁ大人しくしてろ、精査の結果分かる事だしな」
こうして看守は去っていった。その場にイゼはペタンと座り込み手足をジタバタさせながら不貞腐れる。
「うがー!何なんだよもう!」
工業都市ルピスに入ろうと思ったらこうだ、大体マキナはあの時ひょう爺が乗ってけって言われて乗ったものだし大量の電子マネーに関してはマキナの操縦席内にあったバッグ内の電子財布に入っていたものだ。別に窃盗しているわけでは無い…はず、そう結論付けると床に身を投げ出す。そして改めて自分の服装を見直す、下着にぼろぼろのワンピース1枚だけ。
「私の服装ダメだったのかなぁ?」
もしここから出ることが出来たのなら服装からどうにかしよう、そしてマキナの新しい腕を探そう。そう決意するイゼであった。




「なにこれ…」
一人の少女がゴーグルをぐいっと上げる。その目は信じられないようなものを見る目をしていた。目線の先には第八ゲートで捕縛された機動兵器、そう、マキナがそこにあった。第八ゲートで捕縛された後、第八地区メイン工房へと一時的に搬送されたマキナ、ここで精密検査を受ける予定となっているのだが。
「所長、どうされました?」
「い、いや…何でもない」
所長と呼ばれた少女が返事をする。彼女は再びゴーグルを被りなおしマキナに向かって歩き始めたのであった。

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