遥か夢こうのデウス・エクス・マキナ

兎月あぎ

第一章 第二話 朧な夢、夕焼けに陽炎

広い広い宇宙
星々が瞬くその光景を
私は眺めている
ずっとずっと

目の前を大きな影がよぎる
その姿はまるで流星のよう
星々の間を縫うように
駆け抜けていく

その影は
こちらに気づき近づいてくる
そして手を伸ばし
私を手招く

伸ばされた手を
私は掴み…




鳥のさえずりが聞こえる、昨日の快晴が嘘かの様に空は暗雲に包まれている。イゼは眠い目をこすりゆっくりと起き上がり、硬くなった体をぽきぽきと音を鳴らしながらほぐす。
この地域は天候が悪いもののその分雨水などは潤沢にあるので、それらを使って身を清めていく。雨水を使ったシャワーを浴びている際目を閉じるのだがその時に思い出すのが昨日見た夢である、と言っても詳しくは思い出せないのだが。とてもワクワクするような夢を見ていたはずなのではあるが…やはり思い出せない。
シャワーを浴び終わった後着替えを済ませ盆の上に置かれていた朝食である固形食糧と水で胃袋を満たす。ひょう爺はすでにどこかへ出かけているのか姿はない、その後は身支度を済ませ希少金属くずを探しに出かける。
ここのスラム街では大都市から捨てられた金属くずを回収し、その中にある希少金属くずを食料やその他生活用物品と交換してもらうことが出来る。今日も金属くずを漁りながらまた一日を過ごす、そう思っていたのだけど。

異変に気が付いたのはもう日が暮れようとしていた時だった、スラム街のある方角からもうもうと煙が立ち上っているのが確認できた。
「…?」
イゼは何事かと駆け足でスラム街の方へと移動する。スラム街に到着して目の前に飛び込んできたのは

ごうごうと燃え盛る家々と逃げ惑う人々の姿で会った。
「なっ!?」
イゼは荷物を放り出してひょう爺を探し始める、燃え盛る家々の間を潜り抜けながら。
「ひょう爺!どこ!?ひょう爺!」
しかし返事はない、奥へ奥へと進む。幸いイゼたちの住んでいた場所のある方は火の手がまだ迫ってないらしく難なく進むことが出来た。家までたどり着き中に入ると倒れているひょう爺と謎の装甲服を着た人間が二人、見ればわかる。目の前に立っている二人の人間は、敵だ。
装甲服を着ている人間は突然入ってきたイゼに驚いているのか硬直している。
「ぅらあああぁぁぁッ!」
考えるより体が先に動いていた。装甲服を着ている一人に向かってタックルをかます、いくら装甲服を着こんでおり子供にタックルされたとはいえ突然そんなことをされてはバランスを崩してしまう。イゼの目論見通り装甲服を着た人間はもう一人の人間を巻き込んで倒れてしまう。
「うおっ!?」
「なっ!?お前どけっ!」
二人が倒れてもたもたしている間にイゼはひょう爺に肩を貸しすぐに奥の部屋へと入り、入口を家具代わりにしていたガラクタで防ぐ。そしてすぐにひょう爺の側へと近寄る。
「ひょう爺!大丈夫なの!?」
「ッ…大丈夫だ。ただのかすり傷だ」
そうは言うもののひょう爺のわき腹からは血が滲んできている、明らかにかすり傷なんて言えるものでは無い。そんなこともお構いなしにひょう爺は立ち上がりイゼに向かって手招きをする。
「…イゼ、ついてこい。お前に譲りたいものがある」
「…え?でもそこは入っちゃいけないって」
「いいからこい…今はそんな場合じゃないんだ」
背後からドンドンドンと扉を叩く音が徐々に大きくなっていく、しまいには何か硬いもの同士がぶつかる音がしており扉のきしむ音が徐々に大きくなっていく。
ひょう爺は普段イゼには入らないように言いつけていた扉の先へゆっくりと入っていく、イゼは困惑しながらもひょう爺の後に続きその扉の先へと消えていった。

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