私にだって選ぶ権利はあるんです!~お仕置き中の神様に執着されました~

紅葉ももな(くれはももな)

想いと決意

 明良の意識が戻ったとの知らせを受けて寝室へと駆け込んだ風花は、熱で浮かされたようにとろんとした瞳で風花の姿を見付けるなり微笑んだ。


 潤んだ瞳も熱に浮かされて乱れた荒い息遣いも色気がだだ漏れている明良の姿に風花は僅かにたじろぎ後退る。


「ふ……うか?」


 風花に伸ばされた手を躊躇いつつも軽く握ると明良は力を入れて握り返す。


「行く……な、行かないで……」


 どこか強引な明良の常とは違う弱気な懇願。


「行かないよ……ここに居るからもう少し休みなよ」


 気付けば肯定する発言をしていた風花は、額の上にあったはずのずれ落ちた濡れタオルを乗せ直して再度ベッドへ促す。


「風花の手、冷たくて気持ちいいな」


 明良は繋いだ風花の手を移動すると冷たさに懐くように自らの頬に触れる。


「そっ、そう? もともと平熱低いからかな、平熱三十五度台だもん」


 手に触れる明良の頬は艷やかでハリがあり、風花の心臓が早鐘を打つのを誤魔化すように告げる。


 明良は頬に触れる手の感触に安堵したかのように詰めていた息を吐き出すと、また夢の中へと戻って行った。


 暫くして明良が目を覚ますと目の前には見慣れた天井があった。


「あれ? なんで実家に居るんだ……そうか……神力を暴走させて……うわっはっ!?」


 熱は引いたものの寝ぼけた頭は、状況を把握しきれず、明良は何か柔らかな触り心地の良いものを握り締めていることに気が付き視線を伝う。


 視線の先にすっかりベッドによりかかるようにして床に座り寝入った愛しい風花の姿を見付けて、驚きに大きな声を上げそうになった自らの口を繋いでいない方の手で塞ぐ。


「……むにゃ……もう食べれないよ」


 幸せそうに顔を綻ばせ、風花の口から漏れた寝言に明良は笑いたいのを堪えて必死に耐えた。


「夢の中で何食ってんだ」


 男の寝室で警戒心のカケラもなく寝入る風花の姿に愛しさは募るばかり。


 風花をいじめから救うために愛美と付き合うことにしたが、その決断がそもそも間違いだったのかもしれない。


 風花を悲しませるつもりなんて無かった。


 愛美と一緒に居るところを風花に見られたとき、悲しみを覆い隠すように微笑みを貼り付けた風花、明良はその様な表情をさせる為に愛美の提案を受け入れたわけではない。


 風花の顔に掛った柔らかな黒髪を人差し指で払いのける。


「愛美とは別れる……俺が欲しいのはお前だけだ風花……」
 
 あどけなさが残る風花の頬に唇を寄せて僅かに触れる。


「今度こそ、守ってみせる」


「それならさっさと治してください」


 突然かけられた声に明良が驚き顔を上げると、入り口近くの壁に背中を凭れて白い着物に身を包んだ因幡が明良を伺っていた。


「それから寝ている女性を襲うような情けない男にお育てした覚えはありませんよ」


 因幡はゆっくりと壁から背中を離して明良の近くへ歩み寄る。


「分かっている……」


 痛いところをつかれて苦虫でも噛み潰したような顔をする明良をよそに、因幡は床に座り込んだまま未だに目覚める様子がなく夢に意識を沈め続ける風花の側にしゃがみ込む。


 風花の両膝と背中に手を回すと揺らさないように気をつけてゆっくりと抱き上げた。


「因幡!?」


「いつまで女性を床に座らせておくつもりですか、風花殿は貴方の看病でお疲れなんですよ」


 因幡に言われて、夢現に風花が付きっ切りで看病をしてくれていた事実に気がついた。 
 
 よく見なければ分からないが、目の下が僅かに隈で色付いている。


 因幡はそのまま風花を抱き上げたまま部屋の出入り口へ向けて歩き出す。
 
「待て! 俺も行く」


 慌てて掛ふとんを跳ね上げて飛び起きると、明良は因幡から風花の身体を奪い取った。
 
 いくら育ての親と変わらない因幡であろうとも、他の男に風花を運ばせたくはない。


「はぁ、嫉妬深い男は嫌われますよ?」


「うるさい、さっさと客室まで先導しろ。 風花の部屋は用意してあるんだろう?」


 明良は大人げない独占欲で因幡を顎でしゃくる。


「はぁ、困ったぼっちゃまですね」


「うるさい」


 明良の態度に肩を竦めると因幡は優雅に先導を始め風花を抱いた明良がその後に続く。


 明良に背を向けて歩き出した因幡の口元が僅かに緩む。


 人に封じられたばかりの荒んだ時期を知っている因幡は、まるで宝物のように風花を抱く明良の姿に安堵する。


 そして明良を変えるきっかけとなった風花に心の中で感謝した。









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