私にだって選ぶ権利はあるんです!~お仕置き中の神様に執着されました~
愛美
バレンタインデーに親友の風花に頼んで、愛美は二年間片思いだった同級生の明良に告白し、見事に玉砕した。
もともと明良は同級生の中でも群を抜く容姿で、校内に隠れファンクラブまである。
大学生の美女や自分の容姿に自信がある美少女が常に明良の彼女の席を狙っているのだ。
本当なら愛美が直接明良を呼び出して、一生懸命作った本命チョコレートを渡せば良かったのだが、明良は既にダンボール箱から溢れ出そうなほど沢山のチョコレートを貰っているようだった。
「しっかりするのよ、今日はこのチョコレートを渡して、好きだって伝えるって決めたじゃない!」
悩みに悩んだ愛美は、明良のクラスメイトで親友である風花に泣きつくことにした。
風花は性格が良くて大好きだが、あまり色恋に関心がなく、高校生になっても化粧する訳でもなく、今日もいつも通り教室の自分の席に腰掛けて、本を読んでいた。
シンプルなブックカバーで表紙は分からないけれど、愛美にはそれが純文芸では無く、ラノベだとすぐにわかるくらいには一緒にいる。
風花は嫌そうにしながらも、愛美の願いを叶え、明良を空き教室まで呼び出してきてくれることになった。
はじめに予定していた教室は普段鍵があいているはずなのに、なぜか今日に限って鍵が閉められていて開けられず、仕方なく風花のスマートフォンに場所を変更するSNSのメッセージを送った。
静まりかえっているはずの教室中に響き渡っているのではと錯覚しそうなほど、緊張で愛美の心臓が高なっている。
「逃げちゃだめ」
挫けそうな自分の心を鼓舞し、いつもより長く感じる待ち時間をひたすら耐えた。
しばらくして現れた風花は、約束通り明良を連れてくると、気を利かせたのか、明良の制止の声無視してそそくさと出ていってしまった。
「たく、一体何なんだよあの女……」
「あっ、あの突然こんなところに呼び出してごめんね、私、佐藤愛美って言います!」
風花が出ていった扉を見つめる明良に声を掛ければ、カッコイイ顔を愛美へ向けてくれた。
「あっ、あの! すっ、好きです! お付き合いして下さい!」
頭を深く下げて両手で綺麗にラッピングしたチョコレートを持って明良へ差し出す。
愛美の心臓は今にも飛び出しそうなほど早鐘を打っていて苦しい。
「あ~、ごめんね。 実は気になる人が出来たから君とは付き合えない」
申し訳なさそうに返事をした明良の姿とお断りの言葉に愛美の胸がギリギリと痛む。
(そうだよねこんなカッコイイ人だもの、好きな人や彼女くらいいるよね……何してんだろ私……)
「うっ、ううん。 気にしないでごめんね突然。 えっと……良ければこのチョコレートもらってくれる?」
告白は失敗したけど、せめて頑張って作ったチョコレートは貰ってほしかった。
「うん、ありがとう。 え~と……」
「愛美です!」
「うん愛美さんだね。 ありがたく頂くよ」
明良は愛美の手からラッピングされたチョコレートを受け取ると、格好良く出ていった。
「ハァ〜、フラレちゃった……思っていたよりキツイわ、いつまでも返事を引き伸ばさずに断る明良君もカッコイイわ」
明良が出て行くまでなんとか堪えた涙がとめどなく溢れ出る。
制服のポケットから引き出したハンカチで両目を押さえるようにして涙を吸い取る。
次から次へと溢れてくる涙は止まる気配もなく、二年間の片思いは伊達じゃない。
涙で視界が滲む、取り出したスマートフォンの画面を操作してSNSの登録アドレスから風花とのトーク画面を呼び出すと、震える手で入力する。
『うわ~ん! 明良君にフラれちゃった。 なんか気になる人がいるっぽい。 風花やけ食いでパフェ食べに行こう!』
なるべく明るく、心配を掛けないように文章を入力すれば、すぐに既読のマークがつき返信が返ってきた。
『よっしゃ! 今日はパフェ奢ったげる』
いつもと変わらない、けれど気遣う優しい風花らしい返信にクスリと笑みがこぼれる。
失恋で心は痛いけど、風花の気持ちが嬉しい。
『マジェスタのプレミアムイチゴパフェね!』
だからあえて無茶ぶりをしてみる。
マジェスタと言うのは学校の近くにあるカフェの店名で、プレミアムイチゴパフェは生クリームと二種類のアイス、それから大粒のイチゴがこれでもかとのった一つ千円近いお値段代物だ。
バイトもしていない苦学生にはとうてい手が出せない贅沢品だとわかっていて、ツッコミをして欲しくてあえて上げてみる。
『普通のイチゴパフェ』
案の定すぐに却下のメッセージが届いた。
打てば響くようなやり取りをしているうちに次第に気持ちが上向いていく。
『え~! けち~』
普通のイチゴパフェだって学生には大奮発なのを知っている。
『なら行かない。 要らないのね?』
『いるいる!』
『それじゃぁ放課後ね?』
いつものやり取りで終わったSNSのメッセージ画面を開いたままで、スマートフォンを胸に抱きしめる。
「風花、ありがとう……」
******
バレンタインデーの失恋から二日後、急にアイスクリームが食べたくなった愛美が自宅近くのコンビニエンスストアまで出てきたのは偶然だった。
「おっ、愛美ちゃんじゃん! どうしたのこんな時間に買い物?」
そう言って愛美に声を掛けてきたのは同じ皇桜学園高等部に通う藤堂龍也だった。
硬派な明良と人気を二分する龍也もやはり見た目はカッコイイ。
だけど、同じイケメンでも女性を取っ替え引っ替えしている軟派な龍也が愛美は苦手だったりする。
「うん、急にアイスが食べたくなっちゃって」
会計を済ませながら告げる。
「もう遅いし、一人で帰るのは危ないから送るよ」
龍也の申し出に一瞬断ろうかとおもった。
龍也が送り狼になりかねない。
「最近若い女性を狙った不審者も出てるみたいだよ」
(うっ、それを言われると否とは言いにくい。)
つい先だっても高校生位の女の子が行方不明になっていて、いまだに発見されていない。
自分が巻き込まれるとは思えないけど、確かに夕方に一人で出掛けたのは迂闊だったかもしれない。
「えっと……お願いできますか?」
「もちろん」
そう言って愛美の横に並んだ龍也と共に歩き出した。
コンビニエンスストアを出てしばらく歩いた時、片側二車線の道路を挟んだ向こう側に先日告白してフラレた明良の姿を見つけて足が止まった。
明良は可愛いワンピースを纏った女の子と手を繋ぎ楽しそうに笑っている。
胸がギリギリと軋むように痛みを訴える。
「愛美ちゃん、急に立ち止まってどうしたの?」
突然立ち止まった私を不審に思ったのか、龍也が愛美の視線を辿る。
「ん、明良か。 女の子と一緒なんて珍しいことも有るもんだな」
どうやら同性の龍也から見ても明良が女性と一緒に居るのは珍しいと感じるらしい。
それでも愛美は明良よりも、彼の隣で楽しそうに笑っている女の子から目が離せなかった。
どろりとした黒い感情がジワジワと身体を侵食して行く。
明良は気になる子がいると言っていた。
あれだけの美形だから彼女がいるだろうことも、わかっているつもりだった。
失恋の痛みで薄く弱った心に、ピシリピシリと亀裂が入っていくような感覚。
「明良くん……えっ、風花?」
(明良君が好きな人は風花なの?)
風花は愛美が二年前から明良を好きなことを知っているはずだ。
風花は明良と付き合っていたのに愛美に黙っていたのだろうか。
信じられない……信じたくないと思う矛盾した気持ちに、愛美の中の大切なナニかがバリンと大きな音を立てての崩れ去った。
もともと明良は同級生の中でも群を抜く容姿で、校内に隠れファンクラブまである。
大学生の美女や自分の容姿に自信がある美少女が常に明良の彼女の席を狙っているのだ。
本当なら愛美が直接明良を呼び出して、一生懸命作った本命チョコレートを渡せば良かったのだが、明良は既にダンボール箱から溢れ出そうなほど沢山のチョコレートを貰っているようだった。
「しっかりするのよ、今日はこのチョコレートを渡して、好きだって伝えるって決めたじゃない!」
悩みに悩んだ愛美は、明良のクラスメイトで親友である風花に泣きつくことにした。
風花は性格が良くて大好きだが、あまり色恋に関心がなく、高校生になっても化粧する訳でもなく、今日もいつも通り教室の自分の席に腰掛けて、本を読んでいた。
シンプルなブックカバーで表紙は分からないけれど、愛美にはそれが純文芸では無く、ラノベだとすぐにわかるくらいには一緒にいる。
風花は嫌そうにしながらも、愛美の願いを叶え、明良を空き教室まで呼び出してきてくれることになった。
はじめに予定していた教室は普段鍵があいているはずなのに、なぜか今日に限って鍵が閉められていて開けられず、仕方なく風花のスマートフォンに場所を変更するSNSのメッセージを送った。
静まりかえっているはずの教室中に響き渡っているのではと錯覚しそうなほど、緊張で愛美の心臓が高なっている。
「逃げちゃだめ」
挫けそうな自分の心を鼓舞し、いつもより長く感じる待ち時間をひたすら耐えた。
しばらくして現れた風花は、約束通り明良を連れてくると、気を利かせたのか、明良の制止の声無視してそそくさと出ていってしまった。
「たく、一体何なんだよあの女……」
「あっ、あの突然こんなところに呼び出してごめんね、私、佐藤愛美って言います!」
風花が出ていった扉を見つめる明良に声を掛ければ、カッコイイ顔を愛美へ向けてくれた。
「あっ、あの! すっ、好きです! お付き合いして下さい!」
頭を深く下げて両手で綺麗にラッピングしたチョコレートを持って明良へ差し出す。
愛美の心臓は今にも飛び出しそうなほど早鐘を打っていて苦しい。
「あ~、ごめんね。 実は気になる人が出来たから君とは付き合えない」
申し訳なさそうに返事をした明良の姿とお断りの言葉に愛美の胸がギリギリと痛む。
(そうだよねこんなカッコイイ人だもの、好きな人や彼女くらいいるよね……何してんだろ私……)
「うっ、ううん。 気にしないでごめんね突然。 えっと……良ければこのチョコレートもらってくれる?」
告白は失敗したけど、せめて頑張って作ったチョコレートは貰ってほしかった。
「うん、ありがとう。 え~と……」
「愛美です!」
「うん愛美さんだね。 ありがたく頂くよ」
明良は愛美の手からラッピングされたチョコレートを受け取ると、格好良く出ていった。
「ハァ〜、フラレちゃった……思っていたよりキツイわ、いつまでも返事を引き伸ばさずに断る明良君もカッコイイわ」
明良が出て行くまでなんとか堪えた涙がとめどなく溢れ出る。
制服のポケットから引き出したハンカチで両目を押さえるようにして涙を吸い取る。
次から次へと溢れてくる涙は止まる気配もなく、二年間の片思いは伊達じゃない。
涙で視界が滲む、取り出したスマートフォンの画面を操作してSNSの登録アドレスから風花とのトーク画面を呼び出すと、震える手で入力する。
『うわ~ん! 明良君にフラれちゃった。 なんか気になる人がいるっぽい。 風花やけ食いでパフェ食べに行こう!』
なるべく明るく、心配を掛けないように文章を入力すれば、すぐに既読のマークがつき返信が返ってきた。
『よっしゃ! 今日はパフェ奢ったげる』
いつもと変わらない、けれど気遣う優しい風花らしい返信にクスリと笑みがこぼれる。
失恋で心は痛いけど、風花の気持ちが嬉しい。
『マジェスタのプレミアムイチゴパフェね!』
だからあえて無茶ぶりをしてみる。
マジェスタと言うのは学校の近くにあるカフェの店名で、プレミアムイチゴパフェは生クリームと二種類のアイス、それから大粒のイチゴがこれでもかとのった一つ千円近いお値段代物だ。
バイトもしていない苦学生にはとうてい手が出せない贅沢品だとわかっていて、ツッコミをして欲しくてあえて上げてみる。
『普通のイチゴパフェ』
案の定すぐに却下のメッセージが届いた。
打てば響くようなやり取りをしているうちに次第に気持ちが上向いていく。
『え~! けち~』
普通のイチゴパフェだって学生には大奮発なのを知っている。
『なら行かない。 要らないのね?』
『いるいる!』
『それじゃぁ放課後ね?』
いつものやり取りで終わったSNSのメッセージ画面を開いたままで、スマートフォンを胸に抱きしめる。
「風花、ありがとう……」
******
バレンタインデーの失恋から二日後、急にアイスクリームが食べたくなった愛美が自宅近くのコンビニエンスストアまで出てきたのは偶然だった。
「おっ、愛美ちゃんじゃん! どうしたのこんな時間に買い物?」
そう言って愛美に声を掛けてきたのは同じ皇桜学園高等部に通う藤堂龍也だった。
硬派な明良と人気を二分する龍也もやはり見た目はカッコイイ。
だけど、同じイケメンでも女性を取っ替え引っ替えしている軟派な龍也が愛美は苦手だったりする。
「うん、急にアイスが食べたくなっちゃって」
会計を済ませながら告げる。
「もう遅いし、一人で帰るのは危ないから送るよ」
龍也の申し出に一瞬断ろうかとおもった。
龍也が送り狼になりかねない。
「最近若い女性を狙った不審者も出てるみたいだよ」
(うっ、それを言われると否とは言いにくい。)
つい先だっても高校生位の女の子が行方不明になっていて、いまだに発見されていない。
自分が巻き込まれるとは思えないけど、確かに夕方に一人で出掛けたのは迂闊だったかもしれない。
「えっと……お願いできますか?」
「もちろん」
そう言って愛美の横に並んだ龍也と共に歩き出した。
コンビニエンスストアを出てしばらく歩いた時、片側二車線の道路を挟んだ向こう側に先日告白してフラレた明良の姿を見つけて足が止まった。
明良は可愛いワンピースを纏った女の子と手を繋ぎ楽しそうに笑っている。
胸がギリギリと軋むように痛みを訴える。
「愛美ちゃん、急に立ち止まってどうしたの?」
突然立ち止まった私を不審に思ったのか、龍也が愛美の視線を辿る。
「ん、明良か。 女の子と一緒なんて珍しいことも有るもんだな」
どうやら同性の龍也から見ても明良が女性と一緒に居るのは珍しいと感じるらしい。
それでも愛美は明良よりも、彼の隣で楽しそうに笑っている女の子から目が離せなかった。
どろりとした黒い感情がジワジワと身体を侵食して行く。
明良は気になる子がいると言っていた。
あれだけの美形だから彼女がいるだろうことも、わかっているつもりだった。
失恋の痛みで薄く弱った心に、ピシリピシリと亀裂が入っていくような感覚。
「明良くん……えっ、風花?」
(明良君が好きな人は風花なの?)
風花は愛美が二年前から明良を好きなことを知っているはずだ。
風花は明良と付き合っていたのに愛美に黙っていたのだろうか。
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