私にだって選ぶ権利はあるんです!~お仕置き中の神様に執着されました~

紅葉ももな(くれはももな)

イケメンはおじさまもイケメンだった

 運び込まれた病院の消毒薬の匂いが充満する救急治療室の片隅で、風花はベッドに横たわるイケメンに手を握られたまま付き添っていた。


 しっかりと繋がれた手に生暖かい視線をした看護師さんが用意してくれたパイプ椅子に風花は腰掛けている。


 ストレッチャーからベッドに移すときに邪魔になるからと手を離そうとしたのだが、明良が離してくれず困り果てた。


 咄嗟に謝ると、大丈夫ですよと言ってくれた救急隊員の配慮で、明良は風花と手を繋いだままベッドへ移された。


 明良は内科の先生の診察を終えて、現在点滴を受けながら眉間に深い皺を刻み苦悶の表情を浮かべている。


 先生の診断では、やはり過呼吸を引き起こしていたらしい。


「はぁ、いつまで手を掴んでる気なんだか……」


 目もとに掛かった柔らかそうな黒髪を払って上げて、見事に川の字になっている眉間を撫でれば強張った表情が僅かに和らぐ。


 しばらくして救急治療室の外から騒がしい声が聞こえてきて視線を上げれば、看護師さんが高そうなスーツに身を包んだ美丈夫を連れて入室してきた。


 後ろに撫で付けた黒髪は僅かに乱れているけれど、それが大人の男の色気を感じさせる。


 切れ長な瞳も、すらっとした高い鼻も、薄い唇も整っていて文句無しのイケメンだ。


 (あれ? なんかこの顔どこかで見たことがあるような……)


「九重さん、保護者の方がいらっしゃいましたよ」


 イケメンは看護師さんに丁寧に頭を下げると、看護師さんは名残惜しそうにしながらも自らの職務に戻っていった。


「あの!」


「三咲風花さん、かな? 明良の叔父の九重智輝ここのえともきです。 今日はご迷惑を掛けてしまったね、君が適切な処置をしてくれたので重症化せずに済んだと聞いた。 叔父として礼を言わせてくれ、ありがとう」


 どうやらイケメンさんは明良君の叔父さんらしい。


(イケメンの血縁者はイケメンなんだなぁ、遺伝子侮りがたし)


「はい、はじめまして三咲風花です。 いえ、一緒にいたのにこのようなことになってしまい申し訳ありません」


 ペコリと風花が頭を下げると、智輝は鷹揚に頷いたあと、拘束されたまま繋がっている手に視線を走らせると、驚いたようにしっかりと繋がれている風花と明良の手を見比べて破顔した。


(うわぁ、イケメンの破顔なんて始めてみたわ。)


 破壊力半端ない。


「へぇ、風花ちゃんいい子だね」


 頭に伸びてきた男らしい筋張った手が風花の長いの髪の毛をクシャリと優しくて撫でた。


 撫でられた感触が擽ったい。


「勝手に俺のもんに触んじゃねぇよ」


 ドスが効いた声がして視線を向ければ不機嫌丸出しの明良が智輝を睨みつけている。


(一体いつの間に目が覚めたのよ。)


 いったいいつから風花が明良のモノになったというのか。


「ふーん、あっ風花ちゃん。 これで売店で何か飲み物を買ってきてくれないかな。 私はブラックコーヒーで、明良は……」


「コーラ……」


(ぶっきらぼうに告げた明良に言いたい。倒れたばかりでコーラってふざけてる?)


「わかりました、智輝さんはブラックコーヒーで、明良君はスポドリだね。 行ってくる!」


「はぁ!? ちょっと待て! なんで俺がスポドリなんだよ! 風花!」


「風花ちゃんも好きな飲み物とお菓子を買っておいでね」


 智輝にお礼を告げて風花は治療室を出た。 


 後ろで喚いている明良は無視する。


 どうやら明良が救急搬送された病院は、県内有数の大きさで院内に大手コンビニエンスストアが入っているらしい。


 しかし始めてきた風花に土地勘などあるわけもなく、すれ違う看護師にコンビニエンスストアまでの道を聞きながらなんとか目的地には辿り着いた。


 ……果たして明良のいる救急病棟に無事に辿り着けるだろうか。

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