元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?
陛下とミリアーナ叔母様のドッキリサプライズでアンジェリカと再会できた喜びに舞い上がって色ボケる……暇はもらえませんでした。
ミリアーナ叔母様が第二であるロンダークの娘を無事に出産したあと、アンジェリカは私よりも義妹の世話に奔走したのだ。
「可愛い! 何もかも小さくてぷにぷにしてるのよ!」
「アンジェリカは子供の世話も上手だな」
「つい最近まで弟の世話をしてたし、子供好きなの」
そう微笑むアンジェリカはきっといい母親になるだろう。
「そうだね、アンジェリカの子供はきっと可愛いだろうね」
そう言ってアンジェリカの頬に手を伸ばせば、真っ赤になって狼狽える。
アンジェリカからロンダークの娘を受け取り抱き上げれば、甘いミルクのような香りがする。
「えっ、それは後々欲しいと言うか、跡継ぎも作るわけで……」
何やら小声でブツブツ言い始めたアンジェリカと赤子を愛でながらの室内デートもなかなか良いものだ。
その後アンジェリカは直ぐに学園に戻り私の隣に立てるように勉学に励んでいるようで、私のためだと知っているからその気持ちが嬉しい反面もどかしいことこの上ない。
時折どうしても会いたくなって側近として王太子の執務の補佐を請け負うようになったクロードの目を盗み、執務室を抜け出そうと画策する。
そのたびにタイミングを図ったかのようにリヒャエルがやってきてアンジェリカからの手紙や彼女が作ったらしい焼き菓子を手渡されるため、彼女の手紙と焼き菓子を餌に執務机まで連行される自分のチョロさに苦笑する。
手紙には丁寧な文字で学園での出来事や授業の様子などが記載されアンジェリカの文面から学園を楽しんでいることが伺える。
『アンジェリカより愛を込めて』
文面の最後に付けられたその一文だけが上記の文字よりも乱れていて、自分の書いた文字に恥ずかしがる可愛いアンジェリカの姿が目に浮かぶようだ。
どうやら手紙を見ながら身悶えていたらしく、侍女の運んできた紅茶がリヒャエルの手で私とクロードに振る舞われる。
「アンジェリカ様にみっともない姿は見せられませんね?」
「そうだなぁ……」
今日の焼き菓子はマドレーヌらしく、用意されたカトラリーを無視してヒョイっと指先でつまみ上げまるごと一つそのまま口の中に放り込む。
齧り付けば蜂蜜の優しい甘さと焦がしバターの香りが口いっぱいに広がり、あまりの美味さに幸せを噛みしめる。
「はぁ……幸せ……」
「それは良かった、休憩が終わったら見てもらいたいものがある」
リヒャエルが渡してきた丸められた羊皮紙を受け取り封蝋を外して開きざっと内容を流し読んで顔をしかめる。
羊皮紙の中身はドラグーン王国の国王からキャロラインへの婚約打診だった。
しかも正妻ではなく、革命後作ったらしい後宮の第十ニ夫人として引き渡せという到底受け入れられない内容だ。
思わず羊皮紙を握り潰しかけて、リヒャエルが私の手元から羊皮紙を救い出した。
散々ミリアーナ叔母様の身柄を要求してきたドラグーン王国よりキャロラインの美貌を聞きつけた国王がキャロラインを側妃にと打診してきた事実に腸が煮えくり返る。
「この事は陛下はご存知なのか?」
受ける必要性は感じられないが内容が内容だ、他国の王からの婚約打診、断るにしても陛下の許可がいるためリヒャエルに確認を取らねばならない。
「いえ、ドラグーン王国の案件は陛下へ直接ではなく一度シオル殿下へ回すように指示が出ております」
「わかった、これから陛下の執務室へ向かう。 クロード、陛下へ先触れをだしてくれ」
そう頼めば直ぐにクロードは私の執務室の外で警護していた騎士を先触れに走らせた。
「それからこちらもどうぞ?」
渡されたもう一つの羊皮紙を受け取り目を通す。
それはレイス王国にいるレイナス王国の密偵からの知らせだった。
レイス王国だけではなくドラグーン王国やマーシャル皇国などレイナス王国と直接国境を接する国に潜ませてあり、それよりも外側にある国の情報は、隣国の密偵達が集めてきている。
羊皮紙に書かれていたのは、レイス王国が軍備を急ぎ整えていると言うものだった。
ロンダークが亡くなったドラグーン王国の侵略によりレイス王国はドラグーン王国と戦端を開いている。
ドラグーン王国の辺境から若い男達が民兵として徴収されいるのも、実際にドラグーン王国内で幾度となく耳にしてきた。
レイス王国のみならず、ドラグーン王国の今の国王は血の気が多い人物のようで、小さな諍いレベルではあるもののレイナス王国の国境にも数度攻め込んできている。
隣国の事とはいえ、ドラグーン王国の国王の面の厚さには反吐が出る。
「はぁ……頭が痛いわ、アールベルト陛下に親書を書くよ。 家族を失ってからのアールベルト陛下は人が変わったように苛烈……になられたからな」
今も必死で行方不明になったままの妹を探し続ける親友に想いを馳せる。
レイス王国からレイナス王国へ流れてくる川は早い段階で全て捜索させている。
ナターシャ姫の容姿的特徴に合致するそれらしい子供が見つかったとの知らせは届いていない。
アンジェリカと再会を果たしたと言うのにいちゃいちゃする余裕が。一切ないとはこれいかに。
「とりあえず引き続き動向を探ってくれ、ドラグーンとレイス両国で争いになれば必ずうちは巻き込まれる」
残っていた紅茶を流し込み、席を立つとキャロラインへの婚約打診書状とレイス王国の動向を記した羊皮紙を持って立ち上がった。
なんにしても次々と上がってくる案件を裁かなければアンジェリカに会いに行く時間が捻出できない。
クロードとリヒャエルを伴ってアルトバール陛下の執務室へ入室すれば、難しい顔で書類に埋もれる陛下の姿に将来自分が戴冠した姿を重ねてしまい少しげんなりする。
正直に言わせてもらえるなら代われるものなら代わってほしい。
一見式典や社交など王族は華やかに見えるが、そうじゃない。
あえて言うなら国と言う名のブラック企業の社畜だろうか、次々に舞い込む無理難題に頭を悩ませ、暴走する貴族に板挟みにされる。
そのくせ責任の重さは国で一番だ。
王族としての責務を果たさなければあっという間に、王になり甘い蜜を吸いたいだけの反逆者に攻め入る隙を与える事になり、大義名分の元に処刑される。
付け入る隙を与えないように皆の前では威厳を持ち、国民のために裏で奔走するのが王なのだとアルトバール陛下に教えられた。
元喪女だった前世からしたら王太子の地位は重責以外の何者でもない。
それでも大切な人たちの為に頑張るしかないのだ。
「陛下、先程ドラグーン王国から書状が届けられました」
「なんだ? またミリアーナを差し出せってか」
書類から目も上げずに呟く陛下の言葉を否定する。
「いいえ、キャロラインを新しく作る後宮の妃に差し出せと……」
「はぁ!?」
私の言葉にガバリと勢いよく顔を上げた。
まぁそうなるよね、国力的にはドラグーン王国よりまだ劣るものの、全盛期だった亡きクラインセルト陛下の正妃の母国から何番目かもわからない妃に一国の王女を差し出せとか馬鹿げている。
「こちらでお断りしてもよろしいですよね?」
「問題ない、それから近々レイス王国とドラグーン王国間で戦端が開かれる、難民の流入が予想されるから今の内に対策をねっておけ」
陛下の言葉に違和感を覚える、私がリヒャエルから情報を得る前から知っていたように聞こえる。
「どちらからその情報を?」
「レイス王国のアールベルト陛下から早馬が来て経緯説明と謝罪が来た」
その言葉にガクッと身体から力が抜けた。
「陛下はレイナス王国へは兵の一人とて進軍させないと、その代わりドラグーン王国から救援の要請があった場合には返事を引き延ばしてほしいとあったな」
あの不器用で素直になれない友人は、先日の反乱で母を無くし、体調を崩した先王から王位を引き継いだあとも休むことなく歳の離れた妹を捜し続けている。
友好国であるレイナス王国は妹君の捜索隊を無条件で受け入れたし、捜索に尽力を惜しまなかった。
しかし国によってはまだ歳若い国王を舐めてかかり、見事に虎の尾を踏んだ。
まぁ異世界なので虎はいない代わりに豹柄の虎もどきがいる。
閑話休題、恨みや執念、憎悪と言うものは容易く人格を捻じ曲げてしまうようで、簡単に言うとアールベルトがプチッと非協力的な国にキレた。
初めは丁寧に対応や交渉をしていたらしいのだが、ある時を境に物理的な交渉に切り替えたのである。
もともとアールベルトはアルトバール陛下に懇願しレイナス王国の脳筋をレイス王国の軍隊に特別教官として招き入れ、レイス王国の元右将軍、
ギラム・ギゼーナと軍部の強化を行っていた。
うちの脳筋に洗脳された精鋭部隊はアールベルトの子飼いのため、ギラム・ギゼーナの反逆軍にはいなかった事が功を奏した。
「妹君と王妃様のことは大変遺憾ではありますが、亡くなった方はもう帰って参りませぬ。世継ぎを作るのも国主の義務であります、我が娘などいかがでしょうか?」
懸命に妹を捜し続けるアールベルトにそう進言した貴族はその場で問答無用で斬り捨てられたと言う。
アールベルトの食事に南方の島国で精製されているらしい媚薬を盛り、城内の使用人に手引きさせ自分の娘を送り込み既成事実を作ろうとした貴族は娘もとろも斬り捨てた。
そんなやり取りが数度続けば貴族たちも手を変える。
これで我慢してくださいとナターシャに似た容姿の娘を身代わりにと生贄としてアールベトに引き渡したのだ。
もちろん問答無用で貴族は斬り捨てられた。
自国の貴族を簡単に切り捨て過ぎだっての。
只でさえ反乱軍に加わっていた貴族を一掃している最中だった筈なのに我が友は何をしているのやら。
最近ではその狂いっぷりに『妹狂いの残虐王』と二つ名がついたようだ。
私の『紅蓮の鬼』とはたしてどちらがマシだろう。
「開戦の理由は書かれていたのですか?」
「あぁ書いてある、ドラグーン王国からナターシャ姫を後宮に差し出せと書状が来たらしい」
その話を聞いて思わず頭を抱えそうになった。
ドラグーン王国の新王は一体何を考えているんだ。
妹狂いの残虐王の逆鱗を土足で踏みにじって楽しいのか?
ナターシャ姫か行方知れずになった経緯を考えればわかるだろうが。
「それで、我が国としましてはいかが対応をお取りになるおつもりですか?」
もはや投げやりに聞けば、陛下はニヤリと笑った。
「ミリアーナだけでなくキャロラインの事もあるからな、売られた喧嘩は全力で買うのがレイナス王国の男だ」
「……はぁ……軍備の方はお任せください、できうる限り民には被害が出ないようにご配慮いただければと思います」
「うむ……」
このやり取りをした半月後レイス王国とドラグーン王国の再戦の火蓋が切って落とされた。
ミリアーナ叔母様が第二であるロンダークの娘を無事に出産したあと、アンジェリカは私よりも義妹の世話に奔走したのだ。
「可愛い! 何もかも小さくてぷにぷにしてるのよ!」
「アンジェリカは子供の世話も上手だな」
「つい最近まで弟の世話をしてたし、子供好きなの」
そう微笑むアンジェリカはきっといい母親になるだろう。
「そうだね、アンジェリカの子供はきっと可愛いだろうね」
そう言ってアンジェリカの頬に手を伸ばせば、真っ赤になって狼狽える。
アンジェリカからロンダークの娘を受け取り抱き上げれば、甘いミルクのような香りがする。
「えっ、それは後々欲しいと言うか、跡継ぎも作るわけで……」
何やら小声でブツブツ言い始めたアンジェリカと赤子を愛でながらの室内デートもなかなか良いものだ。
その後アンジェリカは直ぐに学園に戻り私の隣に立てるように勉学に励んでいるようで、私のためだと知っているからその気持ちが嬉しい反面もどかしいことこの上ない。
時折どうしても会いたくなって側近として王太子の執務の補佐を請け負うようになったクロードの目を盗み、執務室を抜け出そうと画策する。
そのたびにタイミングを図ったかのようにリヒャエルがやってきてアンジェリカからの手紙や彼女が作ったらしい焼き菓子を手渡されるため、彼女の手紙と焼き菓子を餌に執務机まで連行される自分のチョロさに苦笑する。
手紙には丁寧な文字で学園での出来事や授業の様子などが記載されアンジェリカの文面から学園を楽しんでいることが伺える。
『アンジェリカより愛を込めて』
文面の最後に付けられたその一文だけが上記の文字よりも乱れていて、自分の書いた文字に恥ずかしがる可愛いアンジェリカの姿が目に浮かぶようだ。
どうやら手紙を見ながら身悶えていたらしく、侍女の運んできた紅茶がリヒャエルの手で私とクロードに振る舞われる。
「アンジェリカ様にみっともない姿は見せられませんね?」
「そうだなぁ……」
今日の焼き菓子はマドレーヌらしく、用意されたカトラリーを無視してヒョイっと指先でつまみ上げまるごと一つそのまま口の中に放り込む。
齧り付けば蜂蜜の優しい甘さと焦がしバターの香りが口いっぱいに広がり、あまりの美味さに幸せを噛みしめる。
「はぁ……幸せ……」
「それは良かった、休憩が終わったら見てもらいたいものがある」
リヒャエルが渡してきた丸められた羊皮紙を受け取り封蝋を外して開きざっと内容を流し読んで顔をしかめる。
羊皮紙の中身はドラグーン王国の国王からキャロラインへの婚約打診だった。
しかも正妻ではなく、革命後作ったらしい後宮の第十ニ夫人として引き渡せという到底受け入れられない内容だ。
思わず羊皮紙を握り潰しかけて、リヒャエルが私の手元から羊皮紙を救い出した。
散々ミリアーナ叔母様の身柄を要求してきたドラグーン王国よりキャロラインの美貌を聞きつけた国王がキャロラインを側妃にと打診してきた事実に腸が煮えくり返る。
「この事は陛下はご存知なのか?」
受ける必要性は感じられないが内容が内容だ、他国の王からの婚約打診、断るにしても陛下の許可がいるためリヒャエルに確認を取らねばならない。
「いえ、ドラグーン王国の案件は陛下へ直接ではなく一度シオル殿下へ回すように指示が出ております」
「わかった、これから陛下の執務室へ向かう。 クロード、陛下へ先触れをだしてくれ」
そう頼めば直ぐにクロードは私の執務室の外で警護していた騎士を先触れに走らせた。
「それからこちらもどうぞ?」
渡されたもう一つの羊皮紙を受け取り目を通す。
それはレイス王国にいるレイナス王国の密偵からの知らせだった。
レイス王国だけではなくドラグーン王国やマーシャル皇国などレイナス王国と直接国境を接する国に潜ませてあり、それよりも外側にある国の情報は、隣国の密偵達が集めてきている。
羊皮紙に書かれていたのは、レイス王国が軍備を急ぎ整えていると言うものだった。
ロンダークが亡くなったドラグーン王国の侵略によりレイス王国はドラグーン王国と戦端を開いている。
ドラグーン王国の辺境から若い男達が民兵として徴収されいるのも、実際にドラグーン王国内で幾度となく耳にしてきた。
レイス王国のみならず、ドラグーン王国の今の国王は血の気が多い人物のようで、小さな諍いレベルではあるもののレイナス王国の国境にも数度攻め込んできている。
隣国の事とはいえ、ドラグーン王国の国王の面の厚さには反吐が出る。
「はぁ……頭が痛いわ、アールベルト陛下に親書を書くよ。 家族を失ってからのアールベルト陛下は人が変わったように苛烈……になられたからな」
今も必死で行方不明になったままの妹を探し続ける親友に想いを馳せる。
レイス王国からレイナス王国へ流れてくる川は早い段階で全て捜索させている。
ナターシャ姫の容姿的特徴に合致するそれらしい子供が見つかったとの知らせは届いていない。
アンジェリカと再会を果たしたと言うのにいちゃいちゃする余裕が。一切ないとはこれいかに。
「とりあえず引き続き動向を探ってくれ、ドラグーンとレイス両国で争いになれば必ずうちは巻き込まれる」
残っていた紅茶を流し込み、席を立つとキャロラインへの婚約打診書状とレイス王国の動向を記した羊皮紙を持って立ち上がった。
なんにしても次々と上がってくる案件を裁かなければアンジェリカに会いに行く時間が捻出できない。
クロードとリヒャエルを伴ってアルトバール陛下の執務室へ入室すれば、難しい顔で書類に埋もれる陛下の姿に将来自分が戴冠した姿を重ねてしまい少しげんなりする。
正直に言わせてもらえるなら代われるものなら代わってほしい。
一見式典や社交など王族は華やかに見えるが、そうじゃない。
あえて言うなら国と言う名のブラック企業の社畜だろうか、次々に舞い込む無理難題に頭を悩ませ、暴走する貴族に板挟みにされる。
そのくせ責任の重さは国で一番だ。
王族としての責務を果たさなければあっという間に、王になり甘い蜜を吸いたいだけの反逆者に攻め入る隙を与える事になり、大義名分の元に処刑される。
付け入る隙を与えないように皆の前では威厳を持ち、国民のために裏で奔走するのが王なのだとアルトバール陛下に教えられた。
元喪女だった前世からしたら王太子の地位は重責以外の何者でもない。
それでも大切な人たちの為に頑張るしかないのだ。
「陛下、先程ドラグーン王国から書状が届けられました」
「なんだ? またミリアーナを差し出せってか」
書類から目も上げずに呟く陛下の言葉を否定する。
「いいえ、キャロラインを新しく作る後宮の妃に差し出せと……」
「はぁ!?」
私の言葉にガバリと勢いよく顔を上げた。
まぁそうなるよね、国力的にはドラグーン王国よりまだ劣るものの、全盛期だった亡きクラインセルト陛下の正妃の母国から何番目かもわからない妃に一国の王女を差し出せとか馬鹿げている。
「こちらでお断りしてもよろしいですよね?」
「問題ない、それから近々レイス王国とドラグーン王国間で戦端が開かれる、難民の流入が予想されるから今の内に対策をねっておけ」
陛下の言葉に違和感を覚える、私がリヒャエルから情報を得る前から知っていたように聞こえる。
「どちらからその情報を?」
「レイス王国のアールベルト陛下から早馬が来て経緯説明と謝罪が来た」
その言葉にガクッと身体から力が抜けた。
「陛下はレイナス王国へは兵の一人とて進軍させないと、その代わりドラグーン王国から救援の要請があった場合には返事を引き延ばしてほしいとあったな」
あの不器用で素直になれない友人は、先日の反乱で母を無くし、体調を崩した先王から王位を引き継いだあとも休むことなく歳の離れた妹を捜し続けている。
友好国であるレイナス王国は妹君の捜索隊を無条件で受け入れたし、捜索に尽力を惜しまなかった。
しかし国によってはまだ歳若い国王を舐めてかかり、見事に虎の尾を踏んだ。
まぁ異世界なので虎はいない代わりに豹柄の虎もどきがいる。
閑話休題、恨みや執念、憎悪と言うものは容易く人格を捻じ曲げてしまうようで、簡単に言うとアールベルトがプチッと非協力的な国にキレた。
初めは丁寧に対応や交渉をしていたらしいのだが、ある時を境に物理的な交渉に切り替えたのである。
もともとアールベルトはアルトバール陛下に懇願しレイナス王国の脳筋をレイス王国の軍隊に特別教官として招き入れ、レイス王国の元右将軍、
ギラム・ギゼーナと軍部の強化を行っていた。
うちの脳筋に洗脳された精鋭部隊はアールベルトの子飼いのため、ギラム・ギゼーナの反逆軍にはいなかった事が功を奏した。
「妹君と王妃様のことは大変遺憾ではありますが、亡くなった方はもう帰って参りませぬ。世継ぎを作るのも国主の義務であります、我が娘などいかがでしょうか?」
懸命に妹を捜し続けるアールベルトにそう進言した貴族はその場で問答無用で斬り捨てられたと言う。
アールベルトの食事に南方の島国で精製されているらしい媚薬を盛り、城内の使用人に手引きさせ自分の娘を送り込み既成事実を作ろうとした貴族は娘もとろも斬り捨てた。
そんなやり取りが数度続けば貴族たちも手を変える。
これで我慢してくださいとナターシャに似た容姿の娘を身代わりにと生贄としてアールベトに引き渡したのだ。
もちろん問答無用で貴族は斬り捨てられた。
自国の貴族を簡単に切り捨て過ぎだっての。
只でさえ反乱軍に加わっていた貴族を一掃している最中だった筈なのに我が友は何をしているのやら。
最近ではその狂いっぷりに『妹狂いの残虐王』と二つ名がついたようだ。
私の『紅蓮の鬼』とはたしてどちらがマシだろう。
「開戦の理由は書かれていたのですか?」
「あぁ書いてある、ドラグーン王国からナターシャ姫を後宮に差し出せと書状が来たらしい」
その話を聞いて思わず頭を抱えそうになった。
ドラグーン王国の新王は一体何を考えているんだ。
妹狂いの残虐王の逆鱗を土足で踏みにじって楽しいのか?
ナターシャ姫か行方知れずになった経緯を考えればわかるだろうが。
「それで、我が国としましてはいかが対応をお取りになるおつもりですか?」
もはや投げやりに聞けば、陛下はニヤリと笑った。
「ミリアーナだけでなくキャロラインの事もあるからな、売られた喧嘩は全力で買うのがレイナス王国の男だ」
「……はぁ……軍備の方はお任せください、できうる限り民には被害が出ないようにご配慮いただければと思います」
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