元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 ほぼ自業自得としか言いようがない予定外の同行者増員に、私達に襲いかかった問題は食料と水の確保だった。


 レイナス王国で衣食住を用意する事で家財道具は必要最低限にしてもらいできる限り持たないようにお願いして食料や水をできうる限り街からかき集めたものの、寒冷地のあの街では作物があまり育たず、街の食料の大半を行商人に頼っていたようだ。


 スノヒス国へ向かう行商人達がドラゴンが棲み着いた街道を避けた事で食料を運んでくる行商人が激減し、街の食料事情がみるみる悪化した。


 動ける若い者達は早々にあの街に見切りをつけ他の街へ引っ越したが、出ていこうにも行くあても仕事も住処のあてもない高齢者達や実費で移動する財力のない家庭が残された。
 
 跡取りをドラグーン王国に徴兵され、妻を亡くし、身寄りがない者には新たな土地でゼロから新しく生活基盤を築く力も気力もない。


 移動したくても出来ないならいっそのことレイナス王国へ連れて帰ろうと言う事になった。


 しかし度重なる出兵で、各街から徴兵だけでなく兵糧として徴収され食料が不足している。


 他の街から来た余所者に売れる食料などたかが知れているのだ。


 できる限り持っている食料を節約し、時折ヒャッハーした護衛達が狩って来た鹿やうさぎを解体して食いつなぎ最短距離でレイナス王国へ戻ってきた。


 かなりの強行軍とならざるを得なかったため、皆レイナス王国に入国時には疲れ果ててしまっている。


 しかし事前に街長にレイナス王国の王子である事を明かし、移住後には居住地や仕事の斡旋などレイナス王国で暮らす国民の生活水準に準ずる基本となる生活基盤を初期状態で提供する事を約束している為かその表情は明るい。


 一人で暮らすには健康的に不安がある高齢者達には皆で協力して生活できるようにシェアハウス又はグループホームのような施設が今後あってもいいかもなと考える。


 移住者達を連れてドラグーン王国に近い街へ入り、彼らを休ませる為宿屋の一つを貸し切った。


 多少手狭ではあるけど、今後の彼らの処遇についてアルトバール国王陛下と話し合わなければならないため、身の振り方が決まるまでの暫定処置だ。


 護衛達から二人彼等の元に残して、なにか必要な物があれば護衛達に申請し護衛達の判断で買ってくるように頼む。


 ただ本格的な移住先が決まり次第また移動する事になる為、家具等の本格的な生活必需品は現時点では荷物になるため買わないよう指示を出す。


「これを急ぎカーディフ男爵へ届けてくれ」


 この街が所属しているカーディフ男爵に私の名前入りで、彼等をしばらく預かって欲しい旨を書面に記すと、封筒の口に溶かした蝋をたらす。


 レイナス王国王子シオルを示す封蝋の指輪で圧着封印し、リヒャエルに渡して早馬を頼む。


「とりあえず急ぎでしなければいけないのはこんなところかな?」 


 宿屋の一室で羊皮紙に各方面に出す依頼書や委任状を書き続けたため腱鞘炎になりかけて若干痛む手首を擦る。


 長時間同じ姿勢での書類仕事の影響で少し肩こりし始めた身体を後ろに反らせるようにして両腕を天井に伸ばすように強張った筋肉を伸ばせばバキバキと音がなりそうだ。


「いえ、陛下への早馬をお忘れです」 


 キリッとした表情でクロードに机の上に新たな羊皮紙を追加され、グッタリと項垂れる。
 
「もぅ無理、限界、腕が死ぬ」


「常時からシルバを平気な顔で振り回される殿下の豪腕が、これしきの万年筆で死ぬわけがありません」
 
「クロードの鬼」


 悪態をつくと、ため息をつかれた。


「鬼の二つ名は私ではなく殿下のものでございますよ」
 
「はい?」


 聞き捨てならない言葉に机から顔を上げる。


「もしやご存知ないのですか? 先のレイス王国での戦いを見たレイスの兵たちが返り血に染まる殿下の戦いぶりを『紅蓮の鬼』と呼び恐れていると同行されていたゼスト殿が申しておりました」
  
 素行の悪い子供の躾に多用される鬼の名が二つ名とか勘弁して欲しい。
 
 『紅蓮の鬼』は生前の行いが悪く、死後双太陽神のみもとには行けなかった者達が行き着く地の底にあると言う死者の国に棲む魔物だ。


 血のような紅色の蓮とよばれる花が咲き乱れる極寒の池を司る守護者を皆恐れ『紅蓮の鬼』と呼んでいる。
 
 たしかに髪は赤いし返り血浴びてたかもしれないけど、『紅蓮の鬼』が2つ名とか恥ずかし過ぎる。


 厨二病患者の黒歴史を彷彿とさせるような異名を知らない間につけられていたとか羞恥で死ねるよ本当に。


 床に転がって身悶えそうになる自分を心の中で叱咤し、父上宛の書類をなんとか書き終えると、満身創痍状態でクロードに押し付けた。


「どうなさいました『紅蓮の鬼』殿下」


「うがぁ! 人の心の傷をグリグリ抉るな馬鹿!」
 


 


 

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