元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?
お茶会もそろそろお開きという頃にロブルバーグ様がとんでもない事を言い始めた。
「さて、シオル様のお迎えも来たようですし儂らもサクッと死んできますかの」
「そうですね、何度も国葬など面倒ですしどうせなら同時にサクッと逝きますか」
……はい!? いや、確かに瀕死の噂はありましたけど、ロブルバーグ様もセイン様も無茶苦茶元気ですよね。
すっかり盛り上がり自身の国葬について楽しげに語る二人の話に、付いて行けず私はもう一人の関係者であるエレナ大司教に助けを求めることにした。
「エレナ大司教猊下、すみませんご説明をお願いしたいのですが……」
「ふふふっ、お二人とも暗殺されそうになりすぎて職務がお嫌になってしまわれたようで、ここ一年ほど病床と偽り職務放棄されております」
困ったわぁと言いつつも、全く困ったように見えないエレナ大司教の様子になにやら頭痛を覚える。
聖職者のしかもトップ二人がまさかの職務放棄って……しかも理由が暗殺未遂の多発って物騒すぎない?
「大丈夫なんですかそれ?」
「えぇ、問題ありませんわ。 お二人が仮病でお倒れになってからそれまで水面下で双太陽神教の名を悪用し、教義に反して甘い汁を吸うケダモノたちが面白いように踊ってくれていますから」
いい笑顔を浮かべているもののエレナ大司教様の目が一切笑っていない。
はっきり言って怖すぎる!
古き良き双太陽神教の教えを守り、異教徒にも寛容な保守派であるエレナ大司教様がケダモノと言った者たちかぁ。
「もしかして改新派の方々ですか?」
「そうですわ」
改新派と聞くとスノヒス国とドラグーン王国の国境手前の街で雪の中薄着の子供の奴隷を虐待していたゾディアック枢機卿を思い出す。
「腐った者たちを一掃するためには、戦力にならないお二人にはあらかじめ安全な場所に避難していただく必要がありますから」
ニッコリと足手まとい宣言をしたエレナ大司教の瞳は全く笑っていないため、改新派に対して素晴らしく鬱憤が溜まっていらっしゃるようです。
「そこで白羽の矢が立ったのがシオル王太子殿下ですわ。 これからスノヒス国は改新派と保守派で権力争いが多発いたします。 どちらにしてもロブルバーグ聖下がお亡くなりになれば争いは避けられない……それならこちらが有利に動ける今でも問題ありませんわね」
「それで死んだふりですか?」
「えぇ、生きている間は改新派の食いつきが悪いでしょうから、一度亡くなったことにして国葬を偽装し、安全な場所で保守派の迎えを待っていただこうと考えております」
「儂はそのまま死んだことにしてくれてかまわんから、教皇の座はフランツにでも押し付けておけ」
私とエレナ大司教様の話にロブルバーグ様が割り込んだ。
フランツ……誰だっけ?
「そう何でもかんでも人に押し付けるのはやめてくださいませんかね聖下」
部屋の外まで声が漏れ聞こえていたのだろう、そう声を掛けながら入室してきたのは双太陽神教会の枢機卿を示す二羽の白い鳥が刺繍された白い司祭服に身を包んだ壮年の男性だ。
黒髪には白い筋が幾重にも入り、初めてあった時よりも歳を重ねたからか、纏う精悍さに磨きが掛かっている。
眼光の鋭さもかなり増したような気がする。
そうフランツさん……フランツ枢機卿猊下は、私がまだ幼かった頃に当時自分が大司教だと思っていたロブルバーグ様を出来レースのコンクラーベに引きずり出して教皇聖下に据えるためレイナス王国まで迎えに来た人物だった。
「もとはと言えば、お前が儂に教皇の座を押し付けたのだろうが、今度はお前が馬車馬のように働け」
「えぇ、だからこうしてあなた方は呑気にお茶を飲まれているのでしょう。 セイン様同席させていただきます。 シオル王太子殿下でございますね、お久しぶりでございます。 大変ご立派になられましたね」
フランツ枢機卿はロブルバーグ様の嫌味に応酬し、神子であるセイン様に挨拶をして私に頭を下げてきた。
「お久しぶりです、フランツ枢機卿猊下。 レイナス王国ではまだ幼かった事もありご挨拶もままならず申し訳ありませんでした」
そうして挨拶を告げれば、満足げに頷かれる。
「なるほど、これは確かに適任かも知れませんね」
「だからシオル様ならば大丈夫だと言っておったろうが」
「聖下の言だからこそ用心するに越したことはありません」
ポンポンと交わされるフランツ枢機卿とロブルバーグ様の会話はまるで実の親子のように遠慮がなく、同時に両者に対する信頼に溢れていた。
「さてフランツ明日葬儀を決行じゃ! もちろん準備は万全だろうな」
ロブルバーグ様が尋ねる。
「誰に聞いていらっしゃる事やら、抜かりなどありませんよ。 むしろ聖下が本番でドジを踏みそうです」
椅子から立ち上がったロブルバーグ様がフランツさんの足を踏もうと奮闘していたが、フランツ枢機卿に全くダメージはなさそうだ。
「私の方も頼みますフランツ枢機卿」
「御意」
私や追従の側近達を置いてけぼりにして話が纏まってしまった。
明日の偽装国葬はいったい何が起こるやら。
*****
注意書き
本作品の全ての権利は作者『紅葉くれは』に帰属します。無断転載はおやめ下さい。
魔法の言葉は天安門事件
「さて、シオル様のお迎えも来たようですし儂らもサクッと死んできますかの」
「そうですね、何度も国葬など面倒ですしどうせなら同時にサクッと逝きますか」
……はい!? いや、確かに瀕死の噂はありましたけど、ロブルバーグ様もセイン様も無茶苦茶元気ですよね。
すっかり盛り上がり自身の国葬について楽しげに語る二人の話に、付いて行けず私はもう一人の関係者であるエレナ大司教に助けを求めることにした。
「エレナ大司教猊下、すみませんご説明をお願いしたいのですが……」
「ふふふっ、お二人とも暗殺されそうになりすぎて職務がお嫌になってしまわれたようで、ここ一年ほど病床と偽り職務放棄されております」
困ったわぁと言いつつも、全く困ったように見えないエレナ大司教の様子になにやら頭痛を覚える。
聖職者のしかもトップ二人がまさかの職務放棄って……しかも理由が暗殺未遂の多発って物騒すぎない?
「大丈夫なんですかそれ?」
「えぇ、問題ありませんわ。 お二人が仮病でお倒れになってからそれまで水面下で双太陽神教の名を悪用し、教義に反して甘い汁を吸うケダモノたちが面白いように踊ってくれていますから」
いい笑顔を浮かべているもののエレナ大司教様の目が一切笑っていない。
はっきり言って怖すぎる!
古き良き双太陽神教の教えを守り、異教徒にも寛容な保守派であるエレナ大司教様がケダモノと言った者たちかぁ。
「もしかして改新派の方々ですか?」
「そうですわ」
改新派と聞くとスノヒス国とドラグーン王国の国境手前の街で雪の中薄着の子供の奴隷を虐待していたゾディアック枢機卿を思い出す。
「腐った者たちを一掃するためには、戦力にならないお二人にはあらかじめ安全な場所に避難していただく必要がありますから」
ニッコリと足手まとい宣言をしたエレナ大司教の瞳は全く笑っていないため、改新派に対して素晴らしく鬱憤が溜まっていらっしゃるようです。
「そこで白羽の矢が立ったのがシオル王太子殿下ですわ。 これからスノヒス国は改新派と保守派で権力争いが多発いたします。 どちらにしてもロブルバーグ聖下がお亡くなりになれば争いは避けられない……それならこちらが有利に動ける今でも問題ありませんわね」
「それで死んだふりですか?」
「えぇ、生きている間は改新派の食いつきが悪いでしょうから、一度亡くなったことにして国葬を偽装し、安全な場所で保守派の迎えを待っていただこうと考えております」
「儂はそのまま死んだことにしてくれてかまわんから、教皇の座はフランツにでも押し付けておけ」
私とエレナ大司教様の話にロブルバーグ様が割り込んだ。
フランツ……誰だっけ?
「そう何でもかんでも人に押し付けるのはやめてくださいませんかね聖下」
部屋の外まで声が漏れ聞こえていたのだろう、そう声を掛けながら入室してきたのは双太陽神教会の枢機卿を示す二羽の白い鳥が刺繍された白い司祭服に身を包んだ壮年の男性だ。
黒髪には白い筋が幾重にも入り、初めてあった時よりも歳を重ねたからか、纏う精悍さに磨きが掛かっている。
眼光の鋭さもかなり増したような気がする。
そうフランツさん……フランツ枢機卿猊下は、私がまだ幼かった頃に当時自分が大司教だと思っていたロブルバーグ様を出来レースのコンクラーベに引きずり出して教皇聖下に据えるためレイナス王国まで迎えに来た人物だった。
「もとはと言えば、お前が儂に教皇の座を押し付けたのだろうが、今度はお前が馬車馬のように働け」
「えぇ、だからこうしてあなた方は呑気にお茶を飲まれているのでしょう。 セイン様同席させていただきます。 シオル王太子殿下でございますね、お久しぶりでございます。 大変ご立派になられましたね」
フランツ枢機卿はロブルバーグ様の嫌味に応酬し、神子であるセイン様に挨拶をして私に頭を下げてきた。
「お久しぶりです、フランツ枢機卿猊下。 レイナス王国ではまだ幼かった事もありご挨拶もままならず申し訳ありませんでした」
そうして挨拶を告げれば、満足げに頷かれる。
「なるほど、これは確かに適任かも知れませんね」
「だからシオル様ならば大丈夫だと言っておったろうが」
「聖下の言だからこそ用心するに越したことはありません」
ポンポンと交わされるフランツ枢機卿とロブルバーグ様の会話はまるで実の親子のように遠慮がなく、同時に両者に対する信頼に溢れていた。
「さてフランツ明日葬儀を決行じゃ! もちろん準備は万全だろうな」
ロブルバーグ様が尋ねる。
「誰に聞いていらっしゃる事やら、抜かりなどありませんよ。 むしろ聖下が本番でドジを踏みそうです」
椅子から立ち上がったロブルバーグ様がフランツさんの足を踏もうと奮闘していたが、フランツ枢機卿に全くダメージはなさそうだ。
「私の方も頼みますフランツ枢機卿」
「御意」
私や追従の側近達を置いてけぼりにして話が纏まってしまった。
明日の偽装国葬はいったい何が起こるやら。
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注意書き
本作品の全ての権利は作者『紅葉くれは』に帰属します。無断転載はおやめ下さい。
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