元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?
真剣な二人の様子に視線を合わせる。
二人からの申し出は私にとって歓迎こそすれ、断る理由なんてない。
しかしゴンサロさんの頑なな様子を見るに、果たして説得出来るのだろうか……
「お二人はゴンサロさんにここに来る話はされて来られたのですか?」
「いいえ……していません。 親父……父はあの後工房の物置に籠もってしまって……まるで自分の迷いを断ち切るように木に向かっています」
「あんなの……父さんじゃない」
否定したノビロさんの横で、ボソリとヘラノさん悲しげな呟きが耳に入る。
「父は、本当は貴方と一緒に行きたいのだと思います。 依頼していただいたソリやカンジキを作っていた父は私が見たことが無いほど活き活きとしていました」
きっと作業しているゴンサロさんの姿を思い出しているのだろう。
「父さん……嬉しそうだった……」
ヘラノさんがノビロさんに視線を向けるとノビロさんも力強く頷いて見せる。
「それに……先日ドラグーン王国の国境であるこの街にも……二度目の王家の召集令状が届きました」
ノビロさんは表情を曇らせた。
無理もない、召集令状とは軍隊が戦争に備えて、国にいる平民に予備役として個人宛に発布する物だ。
「各家から男をひとり、戦役として軍隊へ差し出すこと……と、しかし既に前の召集で年若い青年達が戦役へ駆り出され、一人とて戻ってきません。 それにもともとこの街は男手が少ないんです」
確かに言われてみれば街なかですれ違う男性は旅の商人ばかりで、住人と思しき男性は老人や女子供がほとんどだった。
「本当は……うちの工房は、兄貴が継ぐはずだったんです……数年前の召集令状が来たとき、俺もヘラノも子供だった……黙々と戦役に向かう為に職人の命とも言える仕事道具を片付ける父の姿を見た兄が、翌日召集令状と共に姿を消しました……」
悔しげに顔を俯いて歪ませると、ノビロさんはテーブルの上に置いていた手を皮膚が白くなるほど握りしめた。
「……俺……兄さんが出ていこうとしてたの知ってた……」
ヘラノさんの言葉にノビロさんはハッとしたようにその顔を上げて隣にいるヘラノさんを見る。
「……兄さんが、父さんと母さんをたのむって……ノビロと一緒に守れって……」
「ヘラノ、お前……」
ヘラノさんの発言は、きっとノビロさんが知り得なかったものなのかもしてない。
ヘラノさんはゆっくりと椅子から立ち上がると躊躇いなく木目板張りの床にひれ伏した。
「お願いします」
ただそれだけ言って深々と頭を下げ、額を床にこすり付けた。
その様子にすぐさまノビロさんもヘラノさんの隣に額ずく。
「やっ、辞めてください!」
慌てて二人の上半身を上向かせる。
「連れて行くのは構いません、ですがゴンサロさんがレイナス王国行きを納得することが大前提です!」
「大丈夫……うまくやる」
「必ず説得してみせます、だから祖国へお帰りの際には必ずもう一度この街へよって頂ければ、ウルーシの丸太にくくりつけてでも同行させます!」
「だから! ゴンサロさんが納得してからですからね! それからノビロさん、ウルーシの丸太はかぶれますからやめようね!?」
二人が帰ったあと宿にゴンサロさんが秘密裏に訪ねてきた。
「頼むっ! ノビロとヘラノを貴方と一緒に連れてってやってくれ!」
私の姿を確認するなり土下座を始めたゴンサロさんの姿は昼間に見たノビロさんとヘラノさんの姿に重なる。
うん、流石親子だ。
「とりあえずゴンサロさん、話を聞きますからあっちに座りましょう、ね?」
ゴンサロさんの身体を起こして、借り受けた部屋の隅にあるテーブルセットに案内する。
クロードに宿の女将に頼んで酒とつまみになりそうな物を用意してもらえないか頼むと、直ぐに酒が入った小さな樽を持ち込んだ。
「ゴンサロさん、まぁ呑みましょ!」
手酌でグラスに赤いワインを注ぎ、コトリとゴンサロの前に置くと、ゴンサロさんはグラスを掴み一気に煽った。
ゴンサロさんの話を聞きながら、グラスが空いたら継ぎ足して数分後、見事に酔いつぶれました。
「アイツらはぁ……ヒックっ職人としてはまだまだですがねぇ……このまま精進していけば俺を超える職人になるんですよぉ〜」
「ゴンサロさんを超える器なんて凄いですね〜はいもう一杯」
「そうなんれすよっ、戦なんかに行って良いような奴らじゃないんれすっうぅぅ……」
それまでの絡み酒が嘘のように泣き上戸にシフトした。
「ビスタが、あっ……ビスタつうのは長男なんですがね、俺になんにも言わないで戦争に行っちまったんですよ……あのバカ野郎、いまだに帰ってこないんですよ……ビスタぁなんで帰ってこないんだぁ〜!」
ゴンサロさん、ずいぶん溜め込んでたみたいだ。
その様子を静かに見守っていたリヒャエルに視線を送ると、頷いて部屋を出ていった。
暫くしてリヒャエルはノビロさんとヘラノさん、そして初めて工房を訪れた際に出迎えてくれたゴンサロさんの奥さんが、やって来た。
「親父……」
「ノビロ〜、ヘラノ〜! お前らシオル様と一緒に行け! なっ、そしたら戦争なんかに行かなくて済む! ビスタみたいに失わなくて済むんだぁぁあ!」
フラフラと千鳥足で二人に近づき泣きながら抱きついた。
そんなゴンサロさんに困惑してオロオロする二人の息子に奥さんが苦笑を浮かべる。
「本当に馬鹿ばっかりなんだからうちの男どもは、なにも全員で引っ越しゃいいだけじゃないか! こんな辺境にろくな仕事なんて来やしないんだから」
『えっ……』
奥さんの言葉に男性陣の呆気にとられた声が重なる。
「家族揃って仲良く暮らせるならどこだって構いやしないよ、何を悩む必要があるんだい?」
出来の悪い子供にでも言い聞かせる様にさも当然と言うようにあっけらかんと告げた奥さんが大変男前だ。
うん、これぞ肝っ玉母ちゃん。 グタグタと悩む親子を広い懐にまるっと受け入れる度量が凄い。
「さぁてそうと決まればさっさと帰るよあんた達! レイナス王国に行くための軍資金を稼ぐためにも明日から気合入れてソリを作って稼ぐよ!」
酔っ払ったゴンサロさんをなれた様子で引き摺って帰っていった奥さんを、息子さん達が慌てて追い掛けていった。
「ノビロさん!」
呼び止めればこちらを振り返るように足を止めたノビロさんに笑顔を浮かべて見せる。
「スノヒス国からの帰りに街に寄りますね〜!」
そう伝えると、右手を上げて了承を示しノビロさんは一階に繋がる薄暗い階段へと消えていった。
「雨降って地固まるかな?」
「なんですかそれ?」
不思議そうに聞き返してきたクロードに首を振ってみせる。
「なんでもないよ、さぁ寝るよ〜!」
「そうですね〜寝ますか〜」
大きなあくびをして伸び上がったリヒャエルにクロードが小言を言っているのを聞きながら、喧騒がロンダークを喪った心の穴を誤魔化してくれる。
そう……埋まる事なく、誤魔化してくれる。
「おやすみ……」
喪失感に痛む胸を押さえつけて、私はベッドに潜り込み布団を頭まで引き上げた。
二人からの申し出は私にとって歓迎こそすれ、断る理由なんてない。
しかしゴンサロさんの頑なな様子を見るに、果たして説得出来るのだろうか……
「お二人はゴンサロさんにここに来る話はされて来られたのですか?」
「いいえ……していません。 親父……父はあの後工房の物置に籠もってしまって……まるで自分の迷いを断ち切るように木に向かっています」
「あんなの……父さんじゃない」
否定したノビロさんの横で、ボソリとヘラノさん悲しげな呟きが耳に入る。
「父は、本当は貴方と一緒に行きたいのだと思います。 依頼していただいたソリやカンジキを作っていた父は私が見たことが無いほど活き活きとしていました」
きっと作業しているゴンサロさんの姿を思い出しているのだろう。
「父さん……嬉しそうだった……」
ヘラノさんがノビロさんに視線を向けるとノビロさんも力強く頷いて見せる。
「それに……先日ドラグーン王国の国境であるこの街にも……二度目の王家の召集令状が届きました」
ノビロさんは表情を曇らせた。
無理もない、召集令状とは軍隊が戦争に備えて、国にいる平民に予備役として個人宛に発布する物だ。
「各家から男をひとり、戦役として軍隊へ差し出すこと……と、しかし既に前の召集で年若い青年達が戦役へ駆り出され、一人とて戻ってきません。 それにもともとこの街は男手が少ないんです」
確かに言われてみれば街なかですれ違う男性は旅の商人ばかりで、住人と思しき男性は老人や女子供がほとんどだった。
「本当は……うちの工房は、兄貴が継ぐはずだったんです……数年前の召集令状が来たとき、俺もヘラノも子供だった……黙々と戦役に向かう為に職人の命とも言える仕事道具を片付ける父の姿を見た兄が、翌日召集令状と共に姿を消しました……」
悔しげに顔を俯いて歪ませると、ノビロさんはテーブルの上に置いていた手を皮膚が白くなるほど握りしめた。
「……俺……兄さんが出ていこうとしてたの知ってた……」
ヘラノさんの言葉にノビロさんはハッとしたようにその顔を上げて隣にいるヘラノさんを見る。
「……兄さんが、父さんと母さんをたのむって……ノビロと一緒に守れって……」
「ヘラノ、お前……」
ヘラノさんの発言は、きっとノビロさんが知り得なかったものなのかもしてない。
ヘラノさんはゆっくりと椅子から立ち上がると躊躇いなく木目板張りの床にひれ伏した。
「お願いします」
ただそれだけ言って深々と頭を下げ、額を床にこすり付けた。
その様子にすぐさまノビロさんもヘラノさんの隣に額ずく。
「やっ、辞めてください!」
慌てて二人の上半身を上向かせる。
「連れて行くのは構いません、ですがゴンサロさんがレイナス王国行きを納得することが大前提です!」
「大丈夫……うまくやる」
「必ず説得してみせます、だから祖国へお帰りの際には必ずもう一度この街へよって頂ければ、ウルーシの丸太にくくりつけてでも同行させます!」
「だから! ゴンサロさんが納得してからですからね! それからノビロさん、ウルーシの丸太はかぶれますからやめようね!?」
二人が帰ったあと宿にゴンサロさんが秘密裏に訪ねてきた。
「頼むっ! ノビロとヘラノを貴方と一緒に連れてってやってくれ!」
私の姿を確認するなり土下座を始めたゴンサロさんの姿は昼間に見たノビロさんとヘラノさんの姿に重なる。
うん、流石親子だ。
「とりあえずゴンサロさん、話を聞きますからあっちに座りましょう、ね?」
ゴンサロさんの身体を起こして、借り受けた部屋の隅にあるテーブルセットに案内する。
クロードに宿の女将に頼んで酒とつまみになりそうな物を用意してもらえないか頼むと、直ぐに酒が入った小さな樽を持ち込んだ。
「ゴンサロさん、まぁ呑みましょ!」
手酌でグラスに赤いワインを注ぎ、コトリとゴンサロの前に置くと、ゴンサロさんはグラスを掴み一気に煽った。
ゴンサロさんの話を聞きながら、グラスが空いたら継ぎ足して数分後、見事に酔いつぶれました。
「アイツらはぁ……ヒックっ職人としてはまだまだですがねぇ……このまま精進していけば俺を超える職人になるんですよぉ〜」
「ゴンサロさんを超える器なんて凄いですね〜はいもう一杯」
「そうなんれすよっ、戦なんかに行って良いような奴らじゃないんれすっうぅぅ……」
それまでの絡み酒が嘘のように泣き上戸にシフトした。
「ビスタが、あっ……ビスタつうのは長男なんですがね、俺になんにも言わないで戦争に行っちまったんですよ……あのバカ野郎、いまだに帰ってこないんですよ……ビスタぁなんで帰ってこないんだぁ〜!」
ゴンサロさん、ずいぶん溜め込んでたみたいだ。
その様子を静かに見守っていたリヒャエルに視線を送ると、頷いて部屋を出ていった。
暫くしてリヒャエルはノビロさんとヘラノさん、そして初めて工房を訪れた際に出迎えてくれたゴンサロさんの奥さんが、やって来た。
「親父……」
「ノビロ〜、ヘラノ〜! お前らシオル様と一緒に行け! なっ、そしたら戦争なんかに行かなくて済む! ビスタみたいに失わなくて済むんだぁぁあ!」
フラフラと千鳥足で二人に近づき泣きながら抱きついた。
そんなゴンサロさんに困惑してオロオロする二人の息子に奥さんが苦笑を浮かべる。
「本当に馬鹿ばっかりなんだからうちの男どもは、なにも全員で引っ越しゃいいだけじゃないか! こんな辺境にろくな仕事なんて来やしないんだから」
『えっ……』
奥さんの言葉に男性陣の呆気にとられた声が重なる。
「家族揃って仲良く暮らせるならどこだって構いやしないよ、何を悩む必要があるんだい?」
出来の悪い子供にでも言い聞かせる様にさも当然と言うようにあっけらかんと告げた奥さんが大変男前だ。
うん、これぞ肝っ玉母ちゃん。 グタグタと悩む親子を広い懐にまるっと受け入れる度量が凄い。
「さぁてそうと決まればさっさと帰るよあんた達! レイナス王国に行くための軍資金を稼ぐためにも明日から気合入れてソリを作って稼ぐよ!」
酔っ払ったゴンサロさんをなれた様子で引き摺って帰っていった奥さんを、息子さん達が慌てて追い掛けていった。
「ノビロさん!」
呼び止めればこちらを振り返るように足を止めたノビロさんに笑顔を浮かべて見せる。
「スノヒス国からの帰りに街に寄りますね〜!」
そう伝えると、右手を上げて了承を示しノビロさんは一階に繋がる薄暗い階段へと消えていった。
「雨降って地固まるかな?」
「なんですかそれ?」
不思議そうに聞き返してきたクロードに首を振ってみせる。
「なんでもないよ、さぁ寝るよ〜!」
「そうですね〜寝ますか〜」
大きなあくびをして伸び上がったリヒャエルにクロードが小言を言っているのを聞きながら、喧騒がロンダークを喪った心の穴を誤魔化してくれる。
そう……埋まる事なく、誤魔化してくれる。
「おやすみ……」
喪失感に痛む胸を押さえつけて、私はベッドに潜り込み布団を頭まで引き上げた。
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