元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 宿屋に併設された大衆食堂の隅っこをレイナス王国の主従で占拠し、私は本日の夕食のメインメニューになる鹿肉のソテーをフォークでグサグサと突いていた。


「しっ、レオル様。 マナー違反ですので、そのように食材への八つ当たりはおやめください」


 クロードに注意を受けて、突き刺した鹿肉を口へ放り込む。


「いいひゃん、べふにほほひゅうひゃないんはひ(いいじゃん、べつに王宮じゃ無いんだし)」


 少々大きく切りわけすぎた肉を咀嚼しながらクロードに愚痴る。


「良くありません、食べながら話されるのもマナー違反です!」


 キィキィ言ってるクロードと私のやり取りをリヒャエルがニコニコとして眺めている。


 同じテーブルに着いているのはリヒャエルとクロードだけで、年配の騎士たちは既に酒盛りを始めていた。


「ズルぅ、私も酒が呑みたい……」


 楽しげに酒の入ったコップを掲げる護衛騎士達をジト目で睨む。


 まぁ、酒の量はきちんと把握しているのか、護衛の任務に支障をきたした事が無いから好きに呑ませている。


「何をおっしゃっておられるのですか、舐めただけで倒れるほど呑めないから、絶対に呑ませるなと陛……お父上からご下命頂いておりますよ」


 クロードは淡々と皿の上の鹿肉を上品に消費していく。


「まぁ姿形はお父上に似ておられるのに、酒豪の才能は全く受け継がれなかったんですね〜」


 リヒャエルは付け合せらしいカリカリに焼かれたチーズをヒョイっと口へ放り込む。


 レイナス王国の国王兼私の実父であるアルトバール陛下のザルっぷりには正直引いた。


 酒に火が着くほどに度数が高いことから火の酒、火酒と呼ばれる隣国の酒ですら顔色一つ変えずに、ひと瓶呑み干して翌日二日酔いにすらならないとか、どんな肝臓してんだよ。


「いいもん、女将さん甘いものありませんか!?」 


 酒を身体が受け付けないなら甘いもので憂さ晴らしだ。


「太りますよ」


 バッサリ告げたクロードの容赦ない言葉の刃が私の繊細な心にグッサリと突き刺さる。


 前世と違い鍛えているせいか、引き締まった身体が暴飲暴食でメタボになるのは避けたかった。


 しかも、もし醜くなってしまったらアンジェリカにフラれてしまうかもしれない。


「クロード……覚えてろよ」


 空いた皿を片付けて貰ったため、何も無くなったテーブルにうつ伏せる。


「あっ、いたいた!」


 カランカランと入店を告げる扉につけられた鐘が音を立て、すぐに年若い青年が二人店内に入ってきた。


「ん? ノビロさんとヘラノさんじゃないですか、どうかなさいましたか?」


 近寄ってきた木工工房の息子さんにリヒャエルが立ち上がり行く手を遮るように私と息子さん達の間に立ち塞がる。


 よく見れば、あからさまに警戒する姿は見せずとも、他の護衛達は直ぐに動けるようにこちらの様子を気にかけている。


「俺達あんたに頼みがあって来たんだ! 頼む、親父とお袋をあんた達と一緒に連れて行ってくれないか?」


 真剣な二人の様子に、私は視線でリヒャエルに大丈夫であることを告げた。


「二人ともこっちで話そう」


 手招きすると、代わりにクロードが席を立った。









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