元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 背中から伝わる高い熱と弱々しい息遣いに、少しでも早くこの小さな子を医師に見せなければと気がはやる。


 宿を飛び出した私は直ぐに荷物を取りに幌馬車へ雪の中を進む。


 降り続ける雪は風により巻き上げられ、冷えた空気に吐いた息が白い。


 幌馬車から騎竜鞍を引き出し、ついでに携帯食料を二人分と水が入った瓶を鞄に詰め込む。


 サクラに元の騎竜大きさになればきっと、街の人を驚かせてしまうだろうから、なるべく宿から……街から距離を取るほうが良いだろう。


「この辺なら大丈夫かな?」


 しばらく街とスノヒス国とを隔てる山脈へ分け入り、十分に距離が取れた所でサクラに元の大きさに戻ってもらう。


 雪景色に深紅の竜体が良く映える。


「サクラ、これからレイナス王国の城まで飛ばなきゃならない……雪の中を飛ぶのは大変かもしれないけど、お前にしか頼めないんだ……」


「グォ」


 短く了承を伝えて、冷たいだろうに雪原に私が鞍を装着しやすいように巨体を伏せてくれた。


「ありがとう」


 サクラの顔に抱きつくようにして礼を告げ、鞍を装着していく。


 その間もサクラはなるべく動かずに待っていてくれるのだ。


「よしっ、出来た! サクラ乗るよ」


 鞍の足場を使ってサクラの身体によじ登り、自分の身体を安全帯にしっかりと固定する。


 サクラに乗り始めた当初は安全帯がなく、騎乗中に空中で足を滑らせ転落しては、血相を変えたサクラに助けてもらったものだ。


「サクラ! 飛んで!」


「グォォウ!」


 低い唸り声が山に響き木霊のように反射して、辺りに隠れていた小鳥が一斉に飛び立ちや獣達か恐慌状態で騒ぎ出す。


「サクラ、シッ〜!」


「グォ」


 まずったと言った反応を返す、妙に人間臭いサクラに苦笑しながら今度こそサクラは大きな翼を羽ばたき始めた。


 サクラの翼に煽られた新雪がブワッ、ブワッと巻き上がり、何度めかの羽ばたきとともにその巨大な身体が大地から浮き上がる。


「真っ直ぐ最短距離で、レイナス王国へ!」


 こうして強行軍が始まった。


 その頃クロード達がいる街とスノヒス国側の国境沿いの街では突如響いたとても通常の獣とは思えない咆哮と、一斉に飛び立った鳥や街まで溢れ出してきた野生動物達に混乱に陥り、ついで空へ飛び立った赤い怪物に、街中が恐慌状態に陥っていたなんて知りもしませんでした。


  


 

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