元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 宿の外に飛び出した私は、すぐに宿の裏手にある宿泊者の馬車を止めておく場所へ回り込む。


 思いのほか広いスペースが草地となっているようなのだが、今は一面雪では埋まってしまっている。


 宿泊客が多いため、馬を外された幌馬車が十台ほど所狭しと並べられていた。


 その中から私達の馬車を見つけ出し、幌馬車の荷台に上がり込む。


 ガサガサと荷物を漁り、サクラへ騎竜するための自作した座布団に足場を付け、もし飛行中に滑って落ちないように、身体に胴体に巻きつける安全ベルト付の鞍を荷台から出口付近まで引き出す。


 また空の上は地上よりも気温がグッと下がるため、内側に毛皮が縫い込まれた通常の外套よりも更に分厚い特注の騎竜着を引っ張り出し、手早く羽織る。


「あとは……」


 空気に触れると僅かに熱を発する温石岩を懐に仕舞う。


 実はこの温石岩、かなり良いお値段だったが、ロブルバーグ教皇聖下への献上品に混ぜようと購入した際、ついでに自分用に買ったものだ。


 着膨れしてモコモコ状態で宿の中に入り、味のある飴色に変色した受付台の前で、お客さんと楽しげに話をしている宿の女将さんに少しだけ離れた場所から声をかける。


「すいません!二階の角部屋の者ですが」


「あっ、はいはい」


 話を切り上げた女将さんが、用を聞くために近づいて来た。


「すいません、シーツを一枚買い取らせていただけませんか?」


「シーツ? そりゃあ代金さえ払ってくれれば一枚や二枚構いやしないよ」


 そう言った女将さんに、通常の倍値で銀貨一枚を握らせる。


「あらこんなに? 寝具倉庫はあそこにあるから好きなの一枚持って行って下さいね」


 ホクホク顔の女将さんに示されたのは、一階部分の受付近くの年季が入った木の扉だった。


 言われた通りキィィという音を立てて軋む扉を開け、中を覗き込むと三歩も進めば最奥にたどり着けてしまう。


 狭い空間に、人がひとり通れるだけの隙間を残して両側の壁に棚が組まれ、所狭しと色々な物事押し込まれていた。


「これ地震きたら倒れそうだな」


 耐震対策はされていないようで棚に手を触れると容易くぐらつく。


 シーツは使用頻度が高いからか比較的出入り口付近に収納されていたため、その中から綺麗なシーツを一枚引っ張りだした。


 シーツを持って二段飛ばしで階段を駆け上がり借り受けている部屋に戻ると、どうやらクロードが男児の服を着替えさせたようだ。


「すみません、濡れた服では良くないと思い、とりあえず私の服を着せました」


 小さな身体には大きすぎるクロードの分厚い白いシャツは、まるでワンピースを纏っているかのようにも見える。 


「ありがとうクロード」


 お礼を告げて、騎竜着を脱ぎ捨て私は床に買い取ったシーツを広げ、三つ折りに畳み直し布が縦長にに裂けるように愛剣シルバの刃を立てて一気に切り裂いた。


「シオル殿下?」


 私の行動に首を傾げるクロードを放置して、常に持ち歩いている私物から、金属板を加工して作った二つの箱を組み合わせた小さな缶を取り出し、中から糸と針を取り出した。


 前世の記憶で作り出した携帯裁縫セット一式を駆使して、シーツを手早く頑丈
に縫い付けた。


 残った布で身体を支える布と帯を通す輪を二つ縫い付ける。


「何を作っていらっしゃるのですか? 紐……にしては幅が広いし、縄よりも脆そですし」


「ん〜、おんぶ帯だよ」


 ベッドに出来たばかりの帯をセットし、クロードから幼児を受け取りベッドに用意した帯が脇の下に来る位置に身体を置く。


 うん、足を通す為の輪っかを作り忘れてる。


 いそいそと身体を支える布に縦長に切り目を入れて補正。


 幼児を出来上がったおんぶ帯に寝かせて、足を通し、帯を一纏めにして持ち上げ、勢いを付けて背中に回し、幼児か私の背中の真ん中に来るように位置を調節する。


 帯を胸元で、たすきがけにし手早く二つの輪に通し、腹の前でしっかりと結ぶ。


「よくそんなの思いつきましたね」


「こうすると両手が空くからね」


 クロードは私の周りをぐるぐると回りながら、しっかりと背中に括り付けられた幼児を観察し感嘆とも呆れとも取れる顔をした。


「クロード、私はサクラと一旦城まで行って来るから、それまで他の従者達と待機してスノヒス国について色々調べていてくれ」


 もう一度子供を背負ったまま騎竜着を羽織り、手首や胴回りから冷気が入らないように袖や裾にある紐を引き締める。


「わかりました、お気を付けて」 


「行ってくる!」


 サクラと幼児を背負い私は宿から飛び出した。
  

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